3日目の朝
疲れが身体全身にあったのか、司は全く起きる気配もなく時計は10時を回っていた。
「・・・・・・くっううんーーっだぁ・・・」
ベッドの上で腕を伸ばして固まった身体をほぐす。背中や腹部に痛みが走るが、静電気に触れた時のような痛み程度なので気にする必要はないと思ったのか、空気を大きく吸い込み吐き出す。
「時間が進む速度が早いな・・・歳をとると時間の進む感覚が早く感じるって聞いたことがあるけど、それかなぁ」
事実、この数日でいつもなら経験しない事ばかり起きたのだ。そう感じても仕方ない。いやそれが普通だろう。
部屋を見渡すがトリシュはいなかった。昨晩は見ておくと言っていたが、やはり首を痛めたのだろうか?それとも何か理由があってのことだろうか?十中八九後者だとは思うが。
「ギィィーー!!!!!」
「のわっ!いきなり飛びかかるなよカオちゃん。こっちは起きたてなんだからさ、そのまま後ろに倒れ込んでベッドの角にぶつけたらどうすんだよ」
目を覚ました司を見て喜びを隠せなかったのだろう、カオちゃんは笑顔で司の頭に齧り付くように頭に乗っかった。チェンちゃんは飛びかかりはしなかったが、飛び跳ねてはいた。
「トリシュはどこいったか分かるか?行ったのならその理由が知りたいんだが、頼めるか?カオちゃん」
ギィィと元気に返事をして廊下に向かう。扉を開けようとした時廊下側から扉が開き、カオちゃんは吹き飛ばされた。
「フギィィ!?」
「なんてこったい!カオちゃんがボールみたいになっちゃった!」
「・・・・・・チェェ・・・」
「おはようございますマスター。・・・・・・どうかしました?目を丸くしていらっしゃるようですが」
「カオちゃんの吹き飛び具合が凄かっただけだ。後マスターって呼ぶなと言ってるでしょうが。そんなに呼びたいなら俺がトリシュより強くなるまで待ってくれ」
「ですが・・・」
「ですが・・・じゃなくてさ、はい分かりましたにしてくれよ。頼むよ。な?」
「・・・・・・努力します」
理解はしているのは見て分かる。けれども司としては同等で、トリシュからすれば上にみたい何かがあるんだろう。
頭をガサガサと掻きむしった後一度息を咳き込むように吐いて空気を取り込むと、ベッドから降りる。
「それじゃあ行きますかね」
「行くというのは下で朝食———時間から昼食を摂られるのですか?」
「いんや。時間がないから携帯食持ってって行きながら食うつもりだ。もう少し早く起きてりゃ、家で朝食食ってたな。トリシュは家で食いたいのか?」
「いえ、ただ朝食は重要なものなので、どうするのかと」
タンスの中から携帯食が入った箱を取り出していくつかを手に取り近くにあったポーチに無造作に入れていくが、トリシュが何を食べたいか聞いていないのでどれが良いかを尋ねる。
「あっ、トリシュは何風味が食べたいんだ?今あるのはプレーンとチョコとチーズしかないけど」
「お気になさらず、マ———ツカサさんがお好きなので構いません」
「へい。じゃあもう1セットプレーン持っていくぞ」
さらに追加で携帯食をポーチに詰め込み肩にかけると、部屋を出る。
廊下には誰もおらず、下にも誰もいない。まだ妹達は眠っている感じだろう。音を立てて目を覚ませてしまうのはあまり良くない。司は静かに階段を降りてガレージに向かう。
昨日のままのバイクは至る所に傷が入っていたり、フレームがへこんでいたりしているが、大事なところは問題はないようだ。とはいえ不安なところもあるので、タイヤを交換してそれに跨がる。・・・・・・うむいいな。
一応バイクで会社に向かう事も考えたが、トリシュが側にいる。走って付いて来いと言ってもいいが昨日の事もある。少しでも離れている時間は減らしたいので今回はバスにしようか?トリシュに尋ねても大方「マスターに任せます」で終わってしまうだろう。だが、何も伝えないのはそれはそれで問題だ。ここは何で行くか程度に留めて置く気でトリシュに伝える。
返答は予想通りで変わりなかった。だが聞かないよりはいいだろう。ガレージのシャッターを腰ほどまで開きそこから外に出てバス停に向かう。
「(トリシュには悪い事したな・・・俺を助ける為に来たのに俺が昨日は置いていってしまって、その上こちらの判断のミスで守る対象である俺が怪我をしてしまった。心配させたし、妹達の理不尽な批判もあるかもしれないし、これからはもうちと考えないといけないな)」
後ろのトリシュを少し振り返って見て昨日の自分の甘さについて反省する司を少し遠くから見るような目で見つめるトリシュは何を思っているのだろうか?
バス停に着くとトリシュが極力後ろの席に座った方がいいと伝えると、昨日のバスで怪我をした司は分かったと頷く。
それから2人はバスが来るまで何も話すことはなく、乗車しても話すことはなかった。