2日目の夜(4)
「それじゃ行くぜゼロツー。さっきの子達ももうここまで来たみたいだしな」
「徒歩で来るにしては早いけど・・・どうして?何でだろう?僕みたいにぴょんぴょん飛んで来たのかな?」
「どうでもいい。潰しゃあ分かるだろ」
「まあそうだね。前衛お願い」
2人は地面にヒビが入る程に足に力を込めて子供達へと走っていった。
トリシュはそれを見て、向こうも後々戦う事になるのだから見るのは大事だと思ったが、今重要なのは司を家に入れて少しでも休ませることなので、先にそちらを進める事にした。
司を2階にある本人の部屋のベッドにうつ伏せで寝かせて、トリシュは消毒液などの必要なものを他の部屋から持ってくると、司の上を脱がして消毒液を染み込ませたガーゼで傷に当てる。
「・・・・・・んんっっ・・・!」
朦朧としている意識の中でも痛みは感じる様で、顔が少し歪む。だが、トリシュは気にせずそれを続ける。
膿が取り終わると傷の上に新品のガーゼを貼り、そこから司が傷の部分に触れて取れない様にする為に包帯を巻く。
巻き終えると、司に上を着せずに掛け布団を被せてそのまま休ませてトリシュは部屋を出ようとする。が、司はまだ意識が朦朧としてではあるが、あったようでトリシュの腕を掴み口を動かす。
「・・・責任をもし感じているのなら・・・それは———っっううぅ・・・お門違いだからな・・・。俺が残れって言ったんだ。・・・・・・お前にミスはない。全部俺が悪いんだからな・・・?」
「だとしても私は動くことは出来た。命令違反をしてでもあなたの護衛に付かなくてはいけない筈なんです。それであなたからの批判を受けても私の勝手な行動ということで全てに片がつく。だからこれは———」
「そうかもしれない。けどさ、俺はお前に金を払って雇っている訳でもないし・・・、お前に恩を売ったこともない。金を払ってだったら・・・助けに無断で来てもそれは給料がなくなるから・・・って理由があるけどさ・・・、恩を返すつもりとかならそれはまず、自分の命が絶対に奪われないっていう前提条件内でやってくれ。見たくないんだよ、人が死ぬのは」
休まず一気に口を動かして話したので、息切れを起こす司は少し呼吸を整えると、また話し始める。
「俺さ。昔は女性が嫌いだったんだ。側から見ればただの差別者なんだろうけどな。当時の俺からすれば、注意や意見を自分の都合の良いように歪曲してそれを仲間に言いふらして、村八分状態にするような奴らの何処が良いんだかって感じだったからな」
今の司は少しは大人になったのか諦めたのかどうかまでは分からないが、特には気にしてはいないようだ。
「今は周りが良いからこういう人もいるんだな程度になってるけどな」
「・・・・・・マスター」
「マスターって呼ばれるような人間じゃないんだからさ。司でいいよ。上下じゃなくて同等でいたいんだよ俺はさ。トリシュ。はい、これでこの話は終了閉廷解散」
「なら次の質問を。マスターの妹さんは帰宅なされるのは毎日日付が変わる頃なのですか?」
「いや、結構早い時間帯だった筈だけどそれがどうしたんだ?まだ帰って来ていないのか?」
「はい。一切の連絡もなされないので元からこういうものかと」
「帰ってる途中で何かあったのか・・・?探しに行かないと・・・」
そう言って身体を起こすが、トリシュは司の肩を軽く触り首を横に振る。怪我人をこれ以上動かしたくないのだろう。
司もそれは分かっている。だが家族に何かがあってからは手遅れだ。
トリシュの手を優しく離すと、顔を痛みで歪ませながら、ベッドから立ち上がるがバランスを崩して両膝をついてしまう。
「マスター・・・!」
「ただバランスを崩しただけだから大丈夫だ。(無理しすぎたのか、それとも試作品2号のバイク操縦時の恐怖がまだ引きずっているのか?)」
妹達を探しに行こうと足に力を入れて立ち上がるが、一歩踏み出すだけでまたバランスを崩して膝をつく。
「お休みになられた方が良いですよマスター・・・!今の状態で行って妹さん達を見つけても、逆に迷惑になります」
「けど———」
言葉の途中で玄関のインターフォンが鳴り、誰かが来たことを伝える。クルミとモモだろうか?
司は立ち上がるのを辞めて膝をつきながら玄関に向かおうとすると、トリシュが司の腕を自分の肩にかけて「立つことなら出来ますよね?」と訪ねたので、司はああ。と答えて階段を降りて玄関に向かう。
肩を借りながら降りて靴入れに手を置いて支えながら家の鍵を開けると、外には妹達がばつが悪い顔をしながら司を見た。
「よかった・・・・・・怪我が1つもないようで・・・!2人らしくないじゃないか?こんな遅くに帰るなんて」
「ちょっと学校が長引いちゃって・・・」
「だとしてもあそこからなら10時前には帰れるだろ?流石に遅すぎるだろ。まあ詳しいことは明日聞くから今日はもう寝ろ。眠い状態じゃまともに俺も聞けないし」
「「ごめんなさい」」
「謝って済むことじゃないけどさ、2人が無事でよかったよ」
妹が二階に上がると、リビングからトリシュが出てくる。司はまたトリシュの肩を借りて自分の部屋に戻ると、トリシュのほうを見て気になることでもあったか尋ねると、司の服の裏側と同じ匂いがするという事だった。
司は先ほどまで色んなところで怪我をしてきた。つまりは血の匂いがすると言うことだろう。司に遠慮してそれを直接言わなかったのだろうか?
「そんなの感じなかったが・・・てかお前嗅いだのか・・・」
「如何わしい意味で捉えているようですが、意識しなくても匂いが出ていますよ?」
「マジで?2人が嫌な顔してたのはそれが原因か!そんなに臭くないと思うんだがなぁ」
トリシュは司をベッドまで運ぶと、部屋にあった椅子を持って司の前に座る。看病を兼ねた護衛だろう。
「トリシュはそれで良いのか?そのまま寝たら首痛めるぞ?護衛ならカオちゃんとかチェンちゃんがいるわけだしさ」
「遠慮なされずに身体を休めて下さい。明日も会社に行くわけですから、しっかりと休んでおかないと」
「それじゃお言葉に甘えて寝ますわ。お休みトリシュ。ありがとな」
そうトリシュに言ってまぶたを司は閉じて眠りに入っていった。