2日目の夜(2)
「よくもまあこんな傷なのにバイクで来ようと思ったなぁ、俺は」
歪な建物を出ると庭があるのだが、そこに司は意識もなくバイクを止めていた。この戦いに参加した以上外では考えるのは戦闘時のみにしようと思った司は、口に出しただけで残りの事は後回しにすることにした。
エンジンを掛けて一般レーンを走っていく。前に試作品2号に襲われたこともある。警戒はしっかりして走っていた。
坂を下り始めは先は見えにくい。速度を落としてゆっくりと前方を見るが、誰もいない。ここ以外は特に坂もない筈なので、時折後方を確認していく。
住宅がちらほらと見えてきたが特に襲われる事もなく進めたが、昨日のハチが空けた穴を塞ぐ為に一部の道が封鎖されていた。野次馬に見させないようにするためか2メートル前後の壁が端から端まで伸びていた。
「流石に1日じゃ直せないか・・・迂回して帰るしかないな」
少し遠回りをして家の方へと向かうが、先程の道と同じように塞がれていて通ろうとしても通れない。他の所に向かっても工事工事工事と、帰る道は1つもない。
流石に同じ日にこれだけの工事が行われているのは変だ。徒歩で帰宅出来ない人も出てくるし。家に帰れないから会社に行こうにも、その道まで封鎖されている。進める道は元来た道を戻るしかない。それか、封鎖されているところを侵入して家に帰るかだが・・・。それかこの近くの住宅に不法侵入して家に向かうなどがあるが、バイクを置いたままにして帰るのはやめておきたいし・・・。
バイクを停めて帰宅方法を考える司だが、どれもこれもグレーゾーンではすまない事ばかりが頭に浮かぶ。
司は1番安全でなおかつ犯罪にもならない電車に乗る事にした。この近くの駅は工事で近づけない。審判のいた歪な建物の方面の駅から家に帰ろう。バイクは駅にでも停めて、後日取りに行けばいい。
1人で夜をうろつくのは危険だ。特に今はいつ誰かから襲われるかわからない。その上司は今は普通に動いてはいるものの、怪我人であることに変わりはない。試作品達と索敵してしまったら、その時点でほぼ死だ。そう何度も助けは来ない。現実は非情だ。
住宅街を抜けて審判のいた場所へ向かう道を走っていると、道路の中央で2人の子供が立っていた。もう暗いのにもかかわらずフードを被り顔を隠している。身長から考えて学生なら中学か高校ぐらいか・・・?
下校途中ならいてもおかしいことはないが、歩いている様子はない。ただ立っているだけにしか見えない。
「(・・・?ぶつかったらいけないしスピード落とすか)」
司は速度を落として子供との接触はしないようにそちらを見ると、2人の内の右の子供が右手を司の方に向けている。何だろうと首を傾げると子供の周りに銃が十数丁浮いている。司の使うカオちゃんチェンちゃんのような使い魔的に使っているのか?そういう相手とは今は関わりたくない。迂回しようかと思ったその時前方のライトがバリンッと音を立てて光が消える。
「くっ・・・!」
ハンドルを切りながらバイクを停めてその裏に隠れる。
バイクに弾丸がカッカッカッと音を立てる。拳銃サイズのものとは言っても、数が多い。同じ場所に当たっているのもあるようで、少しずつバイクのフレームも欠けていき音が変わっていく。
「(昼の学校で骸骨がいたけど、あれの仲間か・・・?だとしたら何であの時骸骨に協力しなかったんだってことになるし、試作品の関係者か?)だとしたら、今家に向かったらまずいな。家に入ってしまえば審判との約束で安全だろうが、俺の体力じゃ多分、いや無理だ。なら前に行くしかないか・・・?)」
バイクの後部座席の端に弾丸が当たり、その破片が司の顔に当たる。
「くっ・・・目がっ!ああぁ」
バイクの裏側でのたうち回るがその状態でもバイクに隠れるように転がる。その間に2人は確実に弾を当てる為に少しずつ近づいていく。
「あっぐっ・・・・・・っん?これは・・・?この車種は・・・」
前に乗っていたバイクと見た目は同じなのだか、ひとつ違う所は横に描かれている番号が違う所だ。
このバイクは生活用ではなく、この時ような危険な時に逃げることを最優先にするタイプのバイクだ。これなら逃げられる。逃げる方向は審判の所にしよう。
上半身を起こしながら後部座席の左側を外してその中にある改造を加えた小さなガスボンベを右手に3つ持ち、子供に対してそれを投げる。
だがそのガスボンベは全て地面に落ちる前に銃弾によって弾かれてあらぬ方向に飛んで行ってしまった。
「っ・・・まだまだっ!」
バイクからさらにガスボンベを取り出してまたそれを投げ飛ばす。勿論これも弾かれしまうが、その内の1つを審判から頂戴した鎖を左腕から取り出してそれを掴みもう一度子供に対して近づける。
銃を使っている方の子供は、閃光系の物だと思ったのか目を逸らすが、実際に司が子供に向けた物は零距離で初めて効果を表わす程度の音だった。
そのような物が、あれだけの量の銃を同時に使っていた子供にはほぼ意味を成すわけがないが、そんなことは使っている司はよくわかっている。
だがそれでも腕を動かせる程度の時間は得ることが出来た。被弾するのも恐れずにバイクから身を出して本命の手榴弾を投げつける。見た目は今までと何ら変わりないので、至近距離で爆発したところで結局先程のガスボンベと同じ物だと判断した子供達は1人は弾丸を、もう1人はコンクリートブロックを司に対して放った。それと同時に司の本命が閃光と音響と風圧を放ち子供達を吹き飛ばした。
「・・・・・・コフッ!!!!!っ・・・」
コンクリートブロックが腹部に当たりはしたが、距離自体は取ることができた。これなら逃げられると思った司はバイクに乗るが、コンクリートブロックを呼び出した子供の意識は残っていたようで、子供達と司の後方をコンクリートで壁のようなものを作り逃げる場所をなくした。
「くっ・・・!(後ろも前もダメか・・・・・・塞いでないのは左側のガードレールだけど、その先は崖だし飛び降りるのは無理だ。すぐにバイクに乗ってもこれじゃ逃げれない・・・!)」
歯を噛み締めながら争わずに逃げる方法を考えるが見つからない。やっぱりあの子供達を倒すしかないのか・・・?だが、気絶したのであろうもう1人の子供が呼び出した拳銃は、そこらかしこに落ちている。
「(こういう系等の能力は大体意識が途切れたりしたら消えるものだけど、残ってるってことは俺と似たタイプか。となると、あの子の意識を奪ったところで逃げる手段は増えたりしない。ならハイリスクローリターンにはなるけど、あの子達のどっちかを人質にして逃げるしか今思いつかない。ああもう考えても折角のチャンスを捨てる訳にはいかない)」
バイクを降りた勢いそのままに銃を呼び出した子供を捕まえようと伸ばした手を横から来た試作品2号が掴みバイクの方に投げ飛ばす。
「のわっ!・・・ぐっぁ」
「大丈夫?ゼロワン。ゼロツー、怪我人を投げちゃいけないよ」
「ああでもしないと、死んでただろ。だからこれは必要経費だ。ゼロスリー」
司は試作品3号を知らないこともあり、増援だと思い限界にきている身体を動かして試作品3号に左腕の鎖を横に振り回すが、避ける必要もないと鎖を掴み引き寄せる。
「はい。無茶は良くないよ?特に怪我してる訳だしね。それに今回は殺しにきた訳じゃないんだよ。そうだよね?ゼロツー」
「昼の件は俺達の不手際だった。それも兼ねて今日のみはお前の敵じゃない。いきなり言われても信用できないだろうし、前の事もあるから理解してもらう気はない。ただ従ってくれればいい」
「それってどういう・・・?」
「関係者以外の人に手を出してその上公の場でゼロワンを殺そうとしたからって事だよ———」
言い終わる前に司に向かっての弾丸を試作品3号が腰に付けた剣を逆手で抜き取りそれを弾く。それに合わせて、|試作品2号《プロト02は司の背後にさっと向かいバイクに跨がせ、走らせる。
「任せた」
「任された」
2人は打ち合わせもなく司を家に帰させる為に1人が囮に、もう1人が司を連れて逃げた。
しかし前後を壁に覆われているのにどうやって逃げるのか?試作品2号はなんと、崖に向かいガードレールを飛び越えて降りて行ったのだ。壁を壊すと思っていたがまさかの展開で反応しきれなかった壁の子供は一瞬試作品3号を視界から離してしまい、その隙を突かれてしまった。
「きみたちもさっさと帰った方がいいからね。んじゃあねーぼくは帰るよ」
ガードレールを乗り越えて、試作品2号を追いかける|試作品3号《プロト03だった。
投稿が遅れてすいませんでした。ここ最近が忙しくて・・・