2日目の夜
「ここは・・・・・・?」
そこはまっちゃんの会社内でもなく、バスの中でもない。司は気づかぬうちに何処かの寺の前にいた。
寺とは言ったが、どこかに宗教に入っている訳ではないようで、周りの風景が寺のようで、入口は教会のような形をした異形のものだった。
「思ったより早いご到着だな、少年。こちらから伺おうと思っていたのだが・・・まあいい。君が聞きたいことは何かは大体見当がついている。さあ、中に入りたまえ」
「・・・・・・」
当然のことながら司は審判の対応に不信感を覚えた。だが、ここで帰ったところで状況の打開には繋がらない。ここはひとつ審判に従ってみよう。
扉を開けて中に入ると作りも外と同じで東洋と西洋の混じり合った異形の作りだ。階段などはテレビなどで見る洋館のロビーにあるようなものだが、建物を支える柱は、寺などにあるような大黒柱が使われている。
「何か変なところでも?」
「別に何も。ただ初めて見たから感激していただけだ」
「ならいい。・・・・・・移動しながら本題に入ろう。結局のところ君はこの争いに参加するのかしないのか?そこが聞きたい」
「今の俺が知ってる状況でなら、不参加って言いたい所だけどさ、あんたらが行ってる事についての内容によってはそれも変わるかもしれないが。そこんとこどうなんだ?理由もなく殺されるなんて嫌だし、周りが被害を被るのは以ての外だ」
「他の人間が何故君を試作品1号と呼ぶのか、大体の見当は付いているのだろう?」
「うーむ・・・分からん。だって俺は昔からまっちゃんの所で働いているし、働く前は家族と普通に暮らしてたからなぁ」
「・・・・・・まだ二桁に行く前から君の妹たちと暮らしていたのか?」
「そん時は、親父やお袋もいたなぁ。ってこんな話は関係ないだろ?何なんだよ。試作品2号とかはさ」
「その通りで死魔術師の能力の実験用の人間たちの事だ」
「大丈夫なのか?人体実験って」
「表に出さなければ問題はない。話は続けるが試作品2号たちを使って安定した能力者を作りその力でさらに優れた人間を呼び出そうというのが、もっぱらの噂だ」
「噂って・・・審判がそれで良いのかよ?」
「ルールを守っているのかを確認するのが審判のいる理由なのだから、それ以上のことは考えないし、まず聞いても無駄なんだよ」
「ふーん」
ロビーの階段を上がって右から1つ目の小部屋の扉を開けると、審判がここに座れと大型のソファーを指差す。司も特に何の反応も示すこともなく、でっぷりと座り審判の方向を見る。
「お前は何かの理由でその実験から処分されたが、これも何かの理由でそれが私の依頼人の耳に生存していることが確認されたことで、その情報を他人に渡すわけにはというようになって試作品たちを派遣したのかもしれないな」
司は信じてはいないが、それでもどこかで納得している自分がいることも感じている。けどそうだったとしたら、モモやクルミは何なのだろうか?実験体に家族がいるとは思えないし、いたら逆に逃げ出したりしないはずだ。
「試作品たちはお前を殺す又は回収することで私の依頼人からどんなことでも叶えてもらうつもりらしいな」
「・・・・・・大体分かった。今あんたの話を聞く限りでは俺にメリットは一切ない感じだな」
「お前は向こうからすれば脱走者な訳だからな。当然といえば当然だが、この争いにお前が参戦するのであれば君が安全に生活、つまりは試作品2号などが来る前に戻すという約束を付けに行く。無理ならこの仕事が終わり次第私が君の護衛につこう」
「他の試作品は俺を確保又は殺害が勝利条件なのだとしたら、こちらはその試作品たちを撃退するのがこちらの勝利条件ということか?」
「そう思ってくれて構わん。他にも勝利条件をつけてもくれてもいい。お前の方が不利なのは誰の目にも明らかだ。どうする?」
「・・・なら、この争いに妹たち及び会社の人には一切攻撃しないこと、例えば今朝のようなこととかな」
「今朝の件はこちらの人間ではないから止めようがない」
「関係ないな。あんたらが勝手に始めたんだ。新入組には甘くするのは当然でしょうが」
「すまんがそこに関しては約束は出来ない。だが、努力はする。それで構わないか?」
納得は出来なかったが、変にこちらの意見ばかりを通させて決裂になって仕舞えばそれこそ折角少しでも有利な条件を作れるのに、無駄になってしまう。
しょうがないと割り切って、司はそれを受け入れた。
「個別で、君の家と会社は安全地帯にするならば先程の条件は甘くして貰えないか?」
「・・・・・・分かった。それでいいよ。これで話は終わりだな?それなら俺は帰る」
「ここから出たら、試作品たちに狙われていることを忘れるなよ」
司は何も答えず、歪な建物を後にした。