2日目の朝(4)
「(あの審判、鎖を自由に使えるって言ってたが長さはどうやって決めるんだ?ドライブスルーみたいに言えばその長さ文の鎖が出たりするのか?)」
試しに近くの鎖を掴み片手で振り回せる程度に———正確に言うと2メートル程度か———引っ張る。すると司の意識を感じ取ったのか、その分だけの鎖が腕に巻き付いた。
「(のわっ!やっぱ蛇みたいだな)」
巻き付いた鎖を少しだけ垂らして階段を降りると、肉の付いていない骸骨が何かを囲んでいた。降りだばかりの位置からでは良く見えない。だが確認するためにあれだけ多くの中に突っ込むのは無謀だ。もう少しだけ近づければ良いのだが・・・。そう思いながら階段と廊下を繋ぐ柱の影に隠れる。
「(襲われているのが学生でないことを願うけど、この骸骨を作った張本人ならニア達に伝えた方がいいか・・。ってあれって嘘だろ!?)」
微かな隙間から見えたのは、カオルだったのだ。司は奥歯を噛み締める。———何が中立だよ。ふざけんじゃねえぞ!———そう思った時には身体が動き骸骨達に鎖で殴りかかっていた。
骸骨の1体が司の鎖で崩れていく。それほどの強度はないんだ。そう直感した司は今度は崩れた骸骨の右隣に鎖を振り回すが、今度は避けられ、後方へと下がっていく。司は振り回した勢いを殺しながら屈み、カオルを抱く。
「おい!カオル!目を開けてくれよ!」
骸骨達にやられたのであろう、服は破れ顔には大きな切り口がありそこから血が流れている。
カオルにどれだけ声をかけても反応がない。息はしているからちゃんと手を施せば残る傷でもない筈だ。けれど起きない。
「おい・・・カオル・・・起きて。起きてくれよ、頼むよ」
ギリギリッと骨が鳴る。危険な相手ではないと骸骨達が判断したのか、少しずつ司に近づいて囲んでいく。それはまずい。司1人でカオルを守りながら骸骨を倒すのは無理だ。囲われる前に一度距離を取り近くの鎖に触る。
「(好きに長さが取れるんだ・・・この鎖で壁を作ってくれ)」
鎖が膜を作る様に集まりカオルと司を繋ぐ道を塞いだ。それと同時に空いた腕にも鎖を絡み付ける。
「よくもまあ俺の友人に手ェ出してくれたな。1人残らずぶっ飛ばしてやらあ!」
右腕の鎖を限界まで伸ばし骸骨の首に巻きつける。肉がない分だけ絡め取りやすいのか、予想よりも引っかかりが良い。そのまま絡み付けた鎖を自分に引き寄せ空いた左手で殴り飛ばす。
無論骸骨達も見ているだけではなく、殴り飛ばしている時に出来る隙を逃さず、司の腹部へ骨塊を叩きつける。
「ガッ!?グフっぅ!!!!!がはっ!・・・こんの・・・」
司が吹き飛ぶのを見てカタカタと歯を鳴らす骸骨達、煽っているのだろうか?自分達の勝ちを確信しているから鳴らしたのかもしれない。
「がふっ・・・っ、けどなこんな程度じゃ試作品達には到底及ばないな!てめえら!」
右ポケットから紙の切れ端を取り出すと何かを言い始めた。
「・・・枠にはもう詠唱前の奴は入ってるか・・・来い!召喚契約、英霊の眷属《竜騎兵》!トロワ!」
紙が燃えて灰になっていく。その灰が司の前に集まり少しずつ人型の形をしていくと最後には、見た目は骸骨達に似ているが一部に肉が残っている生物を呼び出した。
「すまないトロワ、今回もブックスからの援助はない。全力は出しづらいと思うが今出来る本気でのサポート頼めるか?俺が前に出るから」
《竜騎兵》が頷くと、左腕の鎖を振り回しながら右の鎖を先程反撃してきた骸骨にぶつける。だが、手応えがない。勢いが欠けていたのか?いや違う。別の骸骨が攻撃された骸骨を援護したのだ。垂れ始めた鎖を掴み引き寄せる。
「くっ・・・!」
予想外の力で引き寄せられて、《竜騎兵》も1歩出るのが遅れてしまった。その遅れた《竜騎兵》さえも残りの骸骨達は骨塊を前方の3方向から振るう。《竜騎兵》もタダでやられる気はなく、同じ様な骨塊前に出してそれらを防ぎつつ、司の足を掴み引っ張り返す。
「ごめん助かった。やっぱ俺じゃ何も出来ないな・・・ニア達のが終わるまで時間を稼ぐ。それが今俺が出来ることをするだけだ。トロワ、すまないがそこまで協力してくれるか?一度でいい、中央に穴を空けてくれ。そこからは俺がなんとかする」
『・・・・・・り・・・』
骨塊を前に突き出しつつ中央へと走りだす《竜騎兵》の後ろを重なる様に追う。2人で中央を抜けた擦れ違いの所で右腕の鎖で壁の鎖に触れて、壁に変化させた。
「もっと最初にやっておくべきだった———うっゔぁぇ・・・!?」
いきなり胃酸が上がり、口から汚物を吐き出してしまった。
「はぁはぁ・・・ブックスもない状態で無理し過ぎたか・・・ごめんトロワ、一度下がってくれ———うっぶっっ!」
また吐くが全てか吐き終える前に《竜騎兵》が下がったのが理由なのかどうかは分からないが、少しだけ気分が良くなった。動けるなら動かないと、まだ骸骨達が残っているかもしれない。先程のは鎖を使って動きを制限しているだろうからまだいいとして、もし他にも骸骨がいたら、確実に狙われてしまうと思い、司は揺れる頭を右手で支えながら一度階段を降りて、向かい側の階段に向かう。一階の途中に先程とは別の骸骨達だと思われるのが、一体だけ何も持たずにただただ、立っていた。
「(トロワはもう閉まっちまった。どうするか・・・この身体じゃあ避ける事さえ出来ないな)」
迂回しようにも鎖がある。勿論触ればそこから出ることが出来るが、鎖を外すだけならまだしも、窓を開けるとなるとその間に相手に気付かれて攻撃されるだけだろう。
「(擦れ違いさまに鎖をぶつける・・・それ以上は今の身体じゃできない。鎖での一撃に全てを賭けるしかない)」
左腕の鎖を外し球のように丸めて骸骨の先に向かって投げるのに合わせて、司も今出せる全力で歩く。投げた鎖が落ちる所で残った右腕の鎖を左から右へと薙ぎ払う。
だが、その鎖は右の柱に当たるだけだった。漫画などであれば、殺意を殺しながら近づくことで攻撃を当てるのだろうが、司は素人だ。殺意を消すという高度であり基本など一般の人間に出来るわけがない。
頭だけを後ろに下げるだけで避けた骸骨は近づく司の頭を胸部に取り入れる。
「がっ!!!!!」
抜こうにも、骸骨の力が強く抜ける気配がない。足や腕を骨に当ててもヒビさえ入らない。
司の抵抗が弱くなったのを判断した骸骨は胸骨の力を入れ司の首を絞め始めた。さらに暴れ回るが顔が赤くなるだけで何も変わらない。さらに司の顔が蒼くなっていくだけだった。