2日目の朝(3)
司のブックスを使った射撃を審判は明らかに余裕で躱せるものを紙一重で躱して行く。
「この・・・っ!銃がダメならっブックスブレイドッ!」
「ふむ・・・・・・よくもまあこのような腕で」
「うるさいっ!動くと当たらないだろうがっ!」
「いや待てそれはおかしくないか?決闘なのに私は動かずに戦えと言いたいのか?」
「それ以外の何に聞こえるっ!?」
「了解した。私の相手をするには、君はまだ未熟」
審判はそう言い切ると即座に回り込み、司の腰に回し蹴りを当てる。その速度は砂が巻き上がるほど速く、司では避けきる事はましては蹴られたのが蹴られた後と完全に遅れていた。
「がっ!」
「試作品達を仲間の力を借りたとはいえ、一度は撃退した君ならもう少し出来ると思ったのだが・・・」
「ぐっふ!・・・・・・どうせ弱いからって本気出してなかっただけだろうが。だから、一度は撃退出来たんだよ」
もう一度ブックスを銃のように構え、その先から光弾を放つ。だが不意打ち気味の近接攻撃が通用しない審判に対して光弾を避けるのは造作もない事なのだろう。だが避けない。
光弾が左胸部へ向けて進んで行く。このままいける・・・!そう思ったその時、服の前に鎖が現れ光弾を弾き流した。
「なっ・・・!?」
「未熟だと言う。もう少し鍛えてから挑み直せ」
構えもなしに司に目掛けて掌底を繰り出す。構えがあれば避けられないにせよ耐えられるかもしれないが、構えがない状態からのものは防御姿勢になっていないならばたとえ勢いがその一撃にはなかったとしても、与えられる側には十分な威力に変化する。
審判の腕が司の顎に当たり、突き上げられる。頭の中を回されたかのように視界が歪み、はっきりと見えるようになった時には地面に伏せていた。
「ぐっふ・・・・・・」
「これで終わりにするか?どう足掻いても今の君では私には届かない」
「——————冥府の門よ。今我の声が聴こえるのなら・・・俺に従えっ・・・!」
「最後の手札か。見せてもらおうか」
足下の砂が少しずつ巻き上げられていき、砂埃が起き始めていく。呼吸を整え声を出そうとすると、ニアが司の足を掴んだ。
「邪魔だニア!今の状況分かってんのか!?」
「分かってにゃいのは師匠の方にゃり!今校舎の方から微かにゃけど、悲鳴が聞こえたにゃり!」
「瞳さんか!おい!あんたなんで他の奴に攻撃してんだよ。俺の場合はあんたに喧嘩売ったから当然として、瞳さんは一切というより関係がないだろ!話が違うじゃないかよ」
「待て、私は君達2人以外には手を出していない。鎖は手じゃないからという気もない。少し待て・・・」
ブックスを構えながらも相手の目的が終わるまで待ち続けると、中がどうなっているのかを確認出来たようで、一度溜息を吐くと司を見直す。
「嘘ではないようだな。こちらの不手際だ、その瞳とやらは責任を持って救助させて頂く」
「信用出来ると・・・?」
「信用も何も君達は私の鎖を突破出来るのなら、今私を無視して行けば良い話だ出来ないからここにいる。違うかね?」
「(ここはあの人の言ってることがくにゃしいけど正しいにゃり。ニア達じゃあ無理なのは、師匠が一番わかってるはずにゃりよ!)」
「(それはそうだが、お前は信用出来るのかよ)」
「(信用以前の問題にゃりよ!)」
「・・・・・・聞こえているんだが。時間がないんだ。行くぞ」
校舎へと向かう審判に司とニアは一度顔を合わせると頷き合い着いて行く。玄関にも鎖が絡まれているが、審判はそこには向かわずに司が落ちた場所で止まると振り返る。
「ここから行くぞ。どちらが先に行く?同時には投げられないからな」
「すまないが、ニア先行出来るか?」
「余裕にゃり!任せて!」
ニアの身体に鎖が巻きつけられ、上へと上げられて行く。
「次は君だ。いいな?」
司も同じように上がり校舎へと入っていく。司が校舎の床に足を付けた時にはニアは戦闘体勢に。審判は鎖の中から出てきた。
「多分こっちにゃり!師匠と審判さんは後から走って来るにゃりよ!」
「ああ、頼むぜニア」
腰のブックスをニアに投げ渡し、それの後を追う。審判は2人の後を追わずに後ろを睨み続けている。
「そっちに何かあるのか?審判さん」
「・・・・・・いやな、君たちと似ている者がいるような気がしてな。この学校に能力者がいるか?」
「審判なのにそういう確認はしていないのか・・・俺が知っている限りはいないな。能力者はほぼ全員自分からは名乗らないからなぁ」
「他の所にも瞳という子を狙った者と同じ奴がいるようだ。集合されては困る、私は別の方向から君の友人の救助に向かおう」
足を止めて振り返り審判を睨み付ける。
「おいおい、あんたの方が強いのに何で他の所に行くんだよ。それなら俺がそっちに行く。あんたはニアのサポートに付いてくれ」
「知らない人同士を組ませるのか?」
「知らない人同士で組んだら相性が悪いとか言うのは弱い奴が言う事だ。本当の強者はそんな道理は通用しないだろ?」
「分かった。その君の命令に従おう。今君は武器がないだろう?今校舎内に見える鎖は君も使えるようにしてある。それを使えば戦い易い筈だ。それじゃあな」
当然だが一度すれ違いながら、審判と司は目を合わせてそのまま自分のやる事をする為に廊下駆けて行った。