2日目の朝(2)
午前中の授業は終わるのと同時に席に伏せる。昼食は摂る気にならない。頭がいたいなどはなく、ただただ食べたくないだけだった。
「司行こうぜ食堂。食えば元気が出るって」
「なんか食う気にならないんだよ。ニア達と一緒に行って来いよ。今日は定食食う日だろ」
「いいのか?あんなに楽しみにしてたのに」
入らないからの一点張りで動こうとしない司を無理矢理引っ張って食堂へと向かう松長達だが、出入り口は人で封鎖されていた。カオルは見えているが、身長の低い松長やニアは何も見えずにいて、司はなぜ引っ張られたのに止まったのかを確認する為に立ち上がって生徒達が向いている方向を見た。
「なあ、坂木。何でこんなに人集まってんの?何かの番組の取材でか?」
「ほらあそこ見てみろよ、長髪の子だよ」
指差す方向を見ると、坂木の言う通り長髪の子だ。その上多くの人が見ても綺麗または可愛いと思えるような少女だった。
「うひょー美人だなぁ。初めて見たぞこの学校であんな綺麗な子いたんだなあ」
「特進だからなまず校舎内で見れるなんて神のお告げか何かかもしれん」
「ちょ、俺も見たい。司か坂木肩貸せ」
「ニアも見たいにゃり〜」
司が答える前にニアは頭に乗っていたので、坂木に松長を任せて見えるように調節する。
「にゃにゃ!あんみゃり揺れないでよ師匠!」
「師匠じゃないし、それ以前に肩車の方がこちらとしては楽なんですがねえ」
調節して見えるようにすると、ニアと松長は長髪の子を見て納得して降りた。
「珍しい。もう降りるのか?」
「どうせ食堂に行くのに1回は廊下に出るんにゃし、その時みゃじみゃじ見ればいいはにゃしだし」
「ニアが成長してる・・・・・・!」
「にゃあ!それはニアへの侮辱と見たにゃり!必殺ビーコックロー!」
ただ顔に乱れ引っ掻きをするだけだが、血が滲み出るほどに鋭いので、意外にこれが痛い。
「ニア俺が悪かった悪かった!頼むから引っ掻くのだけは辞めてくれー!ギャァ!!!!!」
「ネコなのにビーコックって・・・・・・くくくっ」
「にゃにか文句ある?」
「何も」
ニアは満足するまで引っ掻き続けると頭から降りる。痛いことは変わらないが、気にする様子もなく司は食堂に行くために、扉に集まっている人たちの隙間を抜けていく。司が開けた道を、松長達も進んだ。
「廊下に出りゃあこんなによく見えるのに、何でみんな出ないのかねぇ。なかなか見れる人じゃねえんだからよ。そう思わね?まっちゃん」
「だからだろ。なかなか見れる人じゃないからこそ、恐れをなしてるというか・・・・・・うむ。適した言葉が出てこない」
「大体言いたいことは分か———」
「どした?ってあれ?司がいないぞ?」
「いないんじゃなくて、連れてかれてるんだよ。松長さんも呑気だね」
「カオル、分かってんなら行きゃいいのに」
「学校から出ることはないでしょ、だから気にしない僕たちは先に飯でもくっとけばいいのさ。念の為司が遅いことを考えて食堂でなんか買っとこうよ」
冷たいのか、信じているのか、どちらかと言えば多分司を信じているのだろう。だからそういう塩対応がとれるのかもしれない。坂木を含めた4人で食堂に向かった。
その頃司は引きずられながらーーーとは言ってもその速度は尋常じゃない。もう浮いている状態だ。
「何すんだよ!離せよ!」
「後で話すからまずは静かに」
「この声どっかで聞いた気が・・・・・・?あ、昨日の姫って雷電が呼んでた子か。そういや学校で会う約束してたもんな。それが何で昼でそれも飯食う前なんだ?放課後でもいいじゃん」
「瞳だから、そう呼んで。雷電のマスターとか子とかそういう呼ばれ方は嫌だから。いいわね?赤街君」
「家族もいるし、司でいいよ。お前だって下で呼ばせるんならなおさらだ。んで、どこまで引っ張るんですかねぇ?これで階段とか登るのだけは勘弁だからな」
「大丈夫。上には行かないから」
「下には降りるのかぁ・・・」
瞳が司の首元を引っ張る手を離して止まる。力を抜いていた司は後頭部をぶつけるが、のたうち回る前に何かの変化を感じて即座に仰向けから立ち上がる。
「なんか空気が変な感じだな。瞳はどう思う?この空気。瞳?」
「休憩中とは思えない。赤街君、一般の子はほぼ全員食堂に行く?」
「1人で食う奴もいるはずだからそれはない。1人か2人は残ってるはずだ。不安だから見にいこうぜ」
進もうとした時、聞き慣れない足音が聞こえた。靴で床を踏む音でもない。裸足のペタペタ音でもない。1番近いと言えば、棒を地面に当てた音に聞こえる。振り向くと肉が付いていない骨だけの人が刃物だけでなく、銃器を携えてこちらを見ていた。肉が無いため眼球もないので、そのように見ているだろうと司は判断した。
「降りるか?瞳さんや。後ろにゃ骨が沢山いますぜ」
「その意見は聞き入れられないわね。上からも下からも来ているもの」
「マジで!?俺が呼んだところで即死レベルの雑兵なんで、瞳さん頼みますわ」
「いきなり他人に頼るのね。協力すると言ったのだから当然よね。———雷電!」
何も来ない。聞こえていなかったのだろうか?もう一度試すが変わらない。瞳のやろうとしていることは、司がカオちゃん達を呼び出す時と同じ効果だ。それが出来ないとなると、何かで呼び出す道が途切れてしまっているということか。
「何で!?」
「相手の陣地に入ってるからじゃないか?使い魔を大量に出すなんて普通の状態じゃ出来ない。もちろんその道のプロならは別だけど、そんな人が生徒や教諭とかにはならないだろうしなあ・・・・・・学校に行ってりゃ訓練時間削れる訳だし」
「何故自分の身が危険なのに冷静に分析しているの?」
「冷静な訳あるかっ!怖いわ!だからってパニックになったら自分の身が守れないじゃん。だから落ち着けるように努力してるんだよ。瞳さんは努力———ぐっ・・・!」
階段近くの窓から鎖が蛇のように司に巻き付き外へと引っ張られていく。司とてそれに対抗するが硬く縛られているのか、解ける気がしない。そのまま引きずられ窓から落とされる。
「のうぁぁぁぁ!!!!!?」
頭を下に向けて地面へと向かう。まだ脚からであったなら折れるだけで済んでいたが、このままでは首が折れて死んでしまうだろう。
そして地面から2メートル程上で1階の窓から飛び出したニアが鎖ごと司を殴り飛ばす。そのおかげで身体の向きが変わり、左肩から地面に落ちた。
「グファ!———」
「大丈夫にゃりか師匠!?」
「ぐっ・・・ああ、受け身はギリギリとれた。少し痛いけど、たかがコックピットがやられただけだ」
「コックピットがやられちゃだめにゃりと思う。この鎖は何にゃりか?」
「俺もよく分からん!というか校舎だけならまだしも、校庭にもこんなに鎖が———ニア。ブックスを貸す。安全地帯の確保を頼めるか?俺は俺みたいに鎖に捕らえられてる奴を助けてくる」
「了解にゃり!師匠も無理しないようにするにゃりよ」
「おうよ」
司は本をニアに投げ渡し校舎に戻るが、入口は鎖で封鎖されて通れそうにない。
他に通れるところはないか?入口近くの窓は全てその先が全て鎖で覆われ、窓を割ったところで入れそうにない。やはり先程窓から落ちたがそこを使うしかないか。そう判断はしたものの登る手段は浮かばない。
「くそっ!俺に力があれば・・・!ん?待てよ?俺は窓から落ちたから校舎外にいるけど、どうやってニアは外に出たんだ?ニアの爪でこの鎖が切れるとは思えない。ってことはどこかに入るルートがって思ったけど・・・・・・」
八方塞がりと言うのだろうか、こうなるとどうしようもない。
「にゃあああああ!!!!!師匠右でも左でもいいから避けてーーー!!!!!」
「ニア!?ドファッ!?」
ニアと共に数メートル吹き飛ばされ身体の至るところが悲鳴を上げている。バイクの時も同じような事があったが、あの時とは違って動くことに支障をきたす程ではない。ニアは司に激突した事で大きく頭が揺れ、意識が朦朧としているのか動く気配がない。
ニアを仰向けに寝かせ飛んできた方向に意識を向ける。すると、地面から鎖が蛇のように進みながら集まり、人の身体を作り出した。
「これでやっと話が出来るな。君は現在何故多くの人間に狙われているか誰かから聞いた上で理解しているのか?」
「いやちょっと、いきなり何の話か分からないんだが。狙われているのは理解していない訳じゃないが・・・」
「聞かされてないという前提で話をしようか。君を除いた全ての試作品には君を殺せば願いを叶えられる権利が与えられる。という理由で集まっている」
「俺みたいな雑兵を殺したら何でもさせられるってどんな大盤振る舞いな事だな、その集めた奴は。それでお前も俺を殺しにきたのか?」
「私はこの戦いの監督・・・いや違うな、審判をするもので、その為だけに雇われた身でな。君と敵対するつもりはない。その証明の為に・・・戻れ」
付近の鎖が自称審判の身体に入っていき、校舎以外から鎖が消えた。それに合わせて司はニアを仰向けに寝かせ審判にもう一度振り向いた。
「監督さんよ。貴方に敵対の意思はなかったとしても、友人に手を出したんだ。今ここでちゃんと話しをした方が良いだろうが、俺の中の感情が納得出来ないんでね。ちょっと付き合ってもらえますかね?」
「君が向かわせたのではと言いたい所ではあるが、私とて心はある。その気持ちは理解出来る。その喧嘩受けよう」
「俺のわがままに感謝しますよ。監督さん!」
「気が済むまで掛かってこい」
司はブックスをニアのポケットから取り出して銃の様に構えつつ審判へと突撃した。