1日目の昼(3)
「何で口約束しかしてない相手を信用しちゃうのさ?」
「信頼を得るにはまずは自分からって言うだろ?それだよそれ」
「司兄の理由になってない!殴るよ?」
「既に殴ってるのにどこに真実がある!ふざけるな!あべしっ!モウヤメルンダ!こんな不毛な争いを続けるなら・・・・・・撃っちゃうぞ?ひげぶっ!」
予想はしていたが家に帰って妹達に話すと、司はボコボコに痛めつけられていた。トリシュは家族の喧嘩なので介入する気がないという表しなのか、廊下に出ていた。
「会社で話せば言いじゃない!」
「そげびっ!しょうがねえだろ。一度捕獲した人をまた連れて来たらそれこそ問題だ。有給限界まで使ってんだから迷惑かける訳にゃあいかねえんだわさ」
「普通喧嘩したばかりの人と仲良く出来ないと思う」
「だから何でいきなり仲良くなってるって話しになってんだよ!せいぜい同盟関係程度だよ。最後は敵対するんだから手の内を明かさないようにして協力関係を維持すれば、戦力向上は確実だろ?」
家族からすれば協力関係になった以上、自分達の兄である司が怪我する、最悪死ぬ可能性だってあるのだ。肯定など出来るはずがない。それは、司本人も理解している。逆の立場だったら自分も反対している事も。だが、司一人で試作品達を撃退するのは不可能なのも事実だ。それなら、ぎりぎりまで手を組んで、最後に不意打ち気味に撃退すればいい。人としては最低な行為だが、力のない司が家族を守るにはこれしかなかった。木下達に迷惑かける訳にもいかない。元から納得して貰うつもりも、肯定して貰うつもりもなかった。
「どんなことがあっても司兄のそれを認める訳にはいかないから。それに自分の身ぐらい自分で守れるから。もう子供じゃないんだよ司兄」
「そりゃ分かってる。確率論だって事もさ。それでも二人は俺には大事な家族なんだ。打てる手は打ちたい。そう思うのはだめか?」
「・・・・・・もういいよ。司兄がそこまで決めたら変わらないって事はよく知ってるから」
「すまない」
「けど、無理はしないでね?司兄は後衛型なんだからさ」
「おう、少しは後ろで戦うさ。それじゃあ、一応同盟に関しては認めるって事でいいな?」
「妥協にはなるけど、いいね?モモ」
「うん・・・・・・」
一応納得しては貰えたようなので、司はトリシュと共に部屋に戻りベッドに横になる。
「(本当に本気で殴られていないのか?実際無茶苦茶痛かった。けど、すぐに意識は戻った。もし漫画みたいに再生能力があるなら、今までも使えてなくちゃ理解出来ない)」
しかし、司の傷は治っている。どうなっているのか分からない。トリシュに聞けば分かるだろうか?それとも、松長に聞けば分かるだろうか?
「マスターどうかしました?」
「いや別に。ただな、非日常に入るなんて最悪だなって思っただけだ」
「実際はマスターの傷のことでしょう?司の傷の治りが早いのは、多分スネークのところで飲んだ飲み物が原因なのではないかと」
「そうだとしても性能高すぎるだろ。せめて注射接種とかでなら分かるんだが」
「確かにそうですよね。ですが他に理由がありません。マツナガ氏の場所でなら打った可能性がありますが、そうなるとまだ安全も確保されていないものを、部下とは言え友人であるマスターに投与するでしょうか?」
「そこなんだよなあ。問題は。まっちゃん時々マッドなとこあるからな、否定出来ないのが怖い。だけど、そんでも俺の友人だ。友人の頼みは聞くもんだろ?」
「いいように利用されているようにしか見えませんが・・・・・・マスターがそう判断したのであれば、私はそれに従うまでです」
「・・・・・・話は本題に入るが、トリシュ。ハチと言う奴の情報はあるか?知っていることだけでいい。頼む」
司の目が変わった。覚悟は出来ていないが、それでも自分の出来る事を見つける為の情報収集は必至だ。
「ハチは、大剣・・・・・・いえ鉄塊を降り下ろすことが出来る、現在最新の試作品プロトタイプです。私でも勝てる可能性は限りなく低いです」
「って事は同盟は正解だったってこった」
「そうですね。こちらからも1つよろしいですか?司の能力の本筋が私にはよく分かりません。例えばどのようなものなのか見せて頂きたいのです。それによって、作戦を立てますので」
「おう、分かった。じゃあまずはこれだな。召喚契約・・・・・・カオちゃん!」
「イギャァー!」
腰のブックスを開き契約名を言うと、カオちゃんが元気に飛び出して 、司に襲い掛かる。普通に引き離すと、カオちゃんは泣きだした。
「おいおい、どうしたんだカオちゃん。甘えん坊になっちまったのか?まあ、ここ2、3日働き詰めだったししょうがねえか。そんでこんな感じでちゃんと意識のある奴を呼び出せる訳や。ブックスがないと出来ないがね。ん?どした?」
「どういう原理で呼び出しているのですか?そのカオちゃんというのは」
「2次元チックに言うと魔力とかなんだろうけど、俺は多分自分の血肉を使っているじゃないかなあ。自傷行為はしてないけど。そこんとこ自分でも分かんないんだわ」
驚きを隠せないトリシュにさらに追い打ちをかける為に、さらにもう一体出そうとしたが、出なかった。
「あれま。もう今日は制限か。もっと出せるように訓練しなきゃなあ。トリシュすまん、俺寝るわ。ここの部屋昨日みたいに好きに使って良いから。そんじゃあお休み」
「まだ昼ですよ!?」
「眠いもんは眠いんだよ。それに今襲われたところで何も出来ないから関係ないし」
トリシュの意見を聞き流しながら、クローゼットの掛け毛布を取りリビングに向かい身体に巻いて昼寝を始めた。
それから数時間が経ち寝が浅くなり、周りの音が聞こえだした。正しくは音は音だが、声といった方が正しいか。
「・・・・・・って・・・・・・だよね?どうするクルミ」
「司兄さんに任せると・・・・・・。変なことするようだったら・・・・・・けど」
「分からないから、今は保留でいこ」
寝ている頭では全てを聞き取る事は出来なかった上特に興味も無いので、司はまた眠りについた。