プロローグ02
「いいかな?司君。怒っているわけじゃないんだ。どうして遅れたか、それを聞いているんだ」
「だから寝坊したから遅れただけだと言っているじゃあないですか、先生」
「本当にそれだけかい?君が遅刻するときは、大体松長君がいるだろう?それなのに……まあいいけどね、これからは寝坊しないようにね分かった?」
「ういっす。すみませんでした。失礼します」
これだけ見ると司は遅れたようだ。だが、それでは嘘をつく理由になっていない。嘘をついた理由はまず学校通学にバイクの使用を認められてはいないからだろう。しかし、あのバイクは自転車になることも出来る。もし自転車の調子が悪かったとか、通行車が多かったなどと言ってしまえば、その自転車のどこが調子が悪いのか見せてとか言われるかもしれない。バイクだとばれると妹たちを送って行くことが難しくなる。だからああいう嘘をついたのだろう。
職員室を出て数歩歩いてから軽く息を吐いた。遅刻がいつもは公認の為何も言われないが、この学校で初めての呼び出しだ。何か思うことでもあったのだろう。今日の課程は全て終了した後の為、特に支障はないが問題は、あれで帰ることだ。大変だあ。
(またあの重い重いペダルを漕ぐなんて……押して帰るか)
司は教室に荷物を置いたままの為、鉄のようになった足で向かいたかったが、何かが頭に齧りついた。歯で噛みついている訳じゃあなさそうだ。効果音でいうとガブッでは無く、かぷっという感じだ。
「ニア。学校で頭に齧りつくのはやめろと言っているだろ。って言っても無駄か……」
「にゃふ。にゃふにゃふにゃにゃふー」
「俺は猫じゃないから訳が分からんぞ。だから降りろ」
「にゃふ~ん」
ニアと言う少女は猫のような耳(本人曰く本物らしい)を振りながら司の頭から降りる。
「師匠はいつもそうにゃってニアをいじめるう」
「学校で齧りつくのをやめろと言っただけだ。やりたいなら他の人に会わない所でやれ。齧りつかれる俺のことも考えろ。それが弟子ってもんだろ」
「にゃ~師匠はこういう時だけ師弟関係を使うくせに普通の時にゃ師匠と呼ぶなってずるいずるいずるいにゃ~」
「俺の方が全てにおいてお前より劣っているのに、何ぶっ!?」
「師匠!?」
つまらない司の話が始まる前に、階段側からバッグが飛んできた。不意だから結構痛い。
「あっ、ごめんごめん司。司なら、紙一重で避けて、俺じゃなかったら避けれなかったとか言ってどや顔すると思ってたんだけど……」
「不意だから!不意だったら避けれないのが普通だわ!カオル!てか、避けたらどや顔ってどうやったらそうなるの!?それ、どこかの漫画のキャラだろ!俺がそんなキャラじゃあないことぐらい分かるだろ!」
「そうにゃ!師匠だってどこからともなく飛んできた物を取避けることにゃんて無理にゃ!」
「いやいや、零距離散弾銃避けたでしょ」
「それ、見た状態ででしょうが」
「じゃあもう一回やる?」
「いえ、ご遠慮させていただきます」
「え~面白くないなあ」
カオルはつまらなそうだが、この場合司の反応の方が正しい。というよりも、よく散弾銃を避けたな。強すぎるだろ。
いつもなら二人は、もう下校しているはずだが、残っているということは(途中でバスに乗車するとはいえ)、歩いて帰るのが面倒くさいからだろう。誰だって、楽に帰れる方法を望むでしょ?多分それだ。
「それにゃあ、さっそくマッチャンの会社に行くにゃりよ~」
「……すまん。今バイク燃料切れなんだよ。今日は行けそうにない」
「そう言って逃げると思ったから、ブック持って来たよ」
カオルは自分の鞄から何か本を取り出し、司に投げた。先程とは違い見えているので、普通に取った。
「な、っ……わーたよ。ブックスで入れ換えればいいんでしょ。ちきしょー……」
「よろしい。てか、行きたくないから忘れたのかな?」
「ち、違うってば!真面目に忘れてたんだよ」
ブックスというのは、松長が作り上げた最新の技術を詰め込んだもので、サイズは本程度の大きさだ。ちなみにブックスと名付けたのは、司だ(これは人の能力を引き出すもので、司の場合は呼び出したいものをブックスに向かって言葉を発することでそれを呼び出す。無論、浮かべるもののイメージが無ければ発動自体が出来ない上、その時の精神状態によっても効き目が変わってくる)。
司は二人に気付かれない程度のため息をつきつつも、駐輪場に向かいブックスから燃料を取り出す。って……おい。頭にまたニアが齧りついてるぞ。……気づいてないのか、慣れて言う気にならなくなったかは分からないが、とにかくシュールでしかないな。
燃料とは言ったものの、液体燃料ではなく、バッテリー型の物なので、燃料を取り替えて、残った空の方をブックスで片づける。ここまでで十秒程度で終わる。早いなぁ。
当たり前だが、サイドカーは外していないので、齧りついていたニアは左側に、普通にここまで来たカオルは右側に搭乗する。一応学校内での走行は可能だが、音でばれるのはまずいので、外までは漕いで行く。ちなみに司のサイドカーには、フライトシステムが申し訳程度についている(フライトシステムはサイドに搭乗者がいるときのみ起動するので、司しかいない行きは機能しなかった。それならきついわな)、と言っても飛ぶ訳じゃあない。だって、翼が無いし。
行きよりは楽になった自転車もどきは、学校を出た瞬間にお役御免だ。司はペダルが破損しないようバイク内部にしまった。
時間はまだ午後四時前、車も歩行者も少なくこれなら松長の所まで高速レーンを使わずとも、楽に行けそうだ。
三人を乗せたバイクは、松長がいるであろう会社へ向かった。