出張9
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
僕はなんとか投稿できるように頑張ります。
「ギム!俺は妄想じゃないんだ!さっさと行け!キャンちゃんの邪魔になる!」
大声なんて出せる身体ではない筈なのにもかかわらず司はギムへと叫ぶ。
「お前BOWに殴り飛ばされたんだぞ!?なんで生きてるんだ!」
「優先順位の判断はお前の方が実戦経験多いんだから分かるだろ!」
「……後で聞かせろよ」
ギムはそう呟くと階段を降りていった。こうなれば巻き添えを食う者はもういない。安心して戦闘が出来る。
「キャンちゃん腕を抑えろ!可能ならその口で食い散らせ!」
キャンちゃんの大きなハサミとBOWの巨大な腕が重なりあって互いの動きを止める。
「少し距離が遠い、もう少しだけ詰めてくれ」
なんとか押し込んで近づこうとするもののブルブルと震えるだけで引くことも押すこともできずに完全に動きを止めてしまう。
この状態でやるしかないと踏んだ司はキャンちゃんの身体をよじ登り右肩に乗る。
「(やっぱり距離が足りない。さっきの暴君級のパワーとかを考えれば片道切符でなら傷を負わせられる……っていうのがこの距離での上振れだ。どうする?)」
走るのはおろか意識を保つので精一杯の状況でそれ以上の成果を出すのは不可能だ。時間をかけて尺取り虫の様に進めばいずれは目の前にいけるだろう。
だがこれは対戦ゲームの動かない敵とは違う。悠長に動いていたら向こうも別の行動を取る。
だとしても司の移動できる方法は今はそれしかない。歯を食い縛りながらキャンちゃんの腕を尺取り虫の様に進んでいく。
その動きに暴君級は当然反応して左腕を引き込んでキャンちゃんの腕を取り外す様に動くが、これもまた暴君級の想定通りに進まない。
キャンちゃんはメキメキと音を立てる腕を外れないように痛みに耐えながら司の目的が達成させる為に右腕への力が更に入っていく。
「キャンちゃんナイス……!」
ここからは自分の番だ……。司は目的以外への意識を完全に前の暴君級へと向けて機能がほぼ死んだ義手に力を込める。
後のことなんて今はどうでもいい。司は屈む体勢へと変えて拳を敵へ向ける。
カタパルトから飛び立つミサイルのようにキャンちゃんの腕から飛び出した司は突き出した腕を暴君級の口に差し込み、そのまま爆破させる。
キャンちゃんの拘束で防御らしい防御を行えなかった暴君級は爆発の反動で身体を逸らすが、ここで逃したらそれこそ次はない。
キャンちゃんは爆発によるダメージが多少なりとも入っている筈であろう両腕を引っ張り暴君級胸部と自分の蟹部の口を接触させる。
口を大きく開いてその奥へと取り込んでいき、ガチンと噛みちぎった。
再生能力のあるBOWでさえ頭部と心臓部を同時に失えば蘇生は不可能だ。残った下半身は釣り上げられた魚のようにビクンビクンと動いた後、内臓を溢しながら稼動を停止して2度と動くことがなかった。
「キャンちゃん……ナイス……」
司は見えない視界のまま親指を立てて、ガクンと力を抜いた。
しばらく経った後、司の行動で穴が空いたせいかピューという風音が耳を通る。半覚醒状態のまま目を覚ました司は周りを見渡すが、残っているのは下半身のみとなった暴君級だけだった。
「キャンちゃん……?どこへ行った?」
返答はない。近くにはいないのだろうか。寝言のようなトーンでしか声の出せない現状では呼んで探す事は難しい。
なんとか身体を動かそうとするも、意識だけはなんとか出来ていた状態でさえ動けないのだから起き立ての身体で動けるわけがない。
左手で触れる範囲で探すがいい結果は返ってこない。
「(キャンちゃんもやられたか……)」
自身以外が近くにいないと認識してしまったせいか、それとも出血による貧血が今来たのか寄りかかってた身体がずるずると滑り、床に倒れ込む。
喉にへばりついた血と貧血による吐き気が混ざるが、吐き出す力もなくだらだらと口から流れて更に呼吸を苦しくしていく。
「(—————————)」
まぶたも開けないほど力を失い。そのまま司の意識は深層へと落ちていった。
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その頃先に脱出していたレッドフィールドたちは当主の部下と共に空港で残りの脱出者を待ちつつ撤退用の航空機の用意行なっていた。
「——————ぅう……」
「レッドフィールド女史、お早い意識の回復だな」
「ご、ご当主……?ここは?」
「こちらが確保している航空基地で、今は遅れた者たちが到着するのを待っている状況だ」
レッドフィールドへ状況を説明しているところでキムが部屋へと入ってくる。
「ご当主、お時間です。これ以上ここにいると部下たちの精神が持ちません」
「それは分かった上で待たせている。お前だって妹を見捨てていけるのか?」
「個人の感情で皆を巻き込んで死ぬ選択肢を取れるわけないじゃないですか」
「そうか……ならお前の心が揺らぐ前に移動するか。レッドフィールド女史、申し訳ないが我々は本基地を放棄し撤退する。それによって君の相方を待てなくなってしまった」
「おいおい、ご当主。話が違うだろそれは。巨大人工浮島の協力を受けるくせにこっちの人間は見捨てるのか?」
「光龍殿。あなたが言うことはまともだ。だがこちらにも部下はいる。それにここまで1時間もかからない場所にも関わらず4時間以上待ったんだ。十分義理は通したといえると思うが?」
「結果的にまだ合流出来てないんだから義理を通したって言えないだろ」
「(ふたりの言ってることは互いに正論だ。なら僕にできることはご当主が残したことを引き継ぐことだ)」
一触即発と思われても仕方ない空気の中でレッドフィールドはソファーから上半身を起こし、鉛が入ったような身体でふたりに口を開く。
「ご当主、了解しました。残りはこちらで行いますのでそちらは撤退して下さい」
「レッドフィールド!?」「レッドフィールド女史?」
光龍は胸元を掴むと叫ぶように揺らす。
「お前、見捨てるって言うのかよ!」
「残りはこちらで行うと言ったでしょう。ご当主がこのまま残り続けたらここでは無事でも、撤退後に何かあったらこれからの契約にも支障をきたす可能性があります」
「そうかよ。ご当主そんじゃ契約の話は次回ってことでさっさと帰りな」
レッドフィールドから手を離し窓の方へと行き苛立ちを表に出しながら促していく。
「一機だけ機体は残しておく、それを使って脱出してくれ」
ご当主は立ち上がり頭を下げるとキムと共に部屋を後にした。
「……はぁ、おいレッドフィールド、お前さんはいいのかよ?」
「僕達は3人の内のひとりだけど、向こうは数百人の内の数人だよ。同じ大事な人間でも価値が違う。僕より上の君が分からないわけじゃないと思うけど」
「他人だったらその対応も出来るけどよ、おまえさんにとっちゃ家族だろ?」
「だからこうやって残ってるんじゃないか。家族を待ちたいから他の人間に待たせるのは良くない」
疲労と怪我で動かす力が多くかかる身体をなんとかソファーから動かすが、そこまでが限界で前屈みに身体が重力に持っていかれる。
「レッドフィールド……」
光龍はレッドフィールドを床に倒れる前に抱えると、ゆっくりとソファーに座らせる。
「見張りは俺がしておく。あいつが来るまで休んでろ。いいな?基地から出たって探しにいけるわけじゃねえんだ」
再び光龍は窓から外を眺め始める。
「(もうひとりの僕……早く帰ってきてよ)」
目を腕で隠しながら2人は司が帰ってくると信じて時間が流れるのを待った。