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Zな彼女とネクロマンサーの僕  作者: キノコ二等兵
巨大人工浮島《ギガフロート》編
192/194

出張で8

 少し時間は巻き戻る。暴君(タイラント)級の攻撃でビルから吐き出された司が地上へと落ちていた。


 肥大化した腕になる剛拳王とはいえあくまでも人間サイズから肥大化したものと司より数回りも大きい者が持つ肥大化した腕では放てる質量も比べるまでもない。


 身体の至る所がビリビリと痺れ四肢を動かそうとしてもその行動が起こらない。


 肺内の空気も完全に吐き出されてしまいまともに次の行動を考えることも出来ない。


 まともに受け身も取れないまま司は植木にバキバキと音を立てながら埋まって不時着した。


「ガッヴァッ…!」


 重量が一気にかかりその影響で体内で出血した血溜まりと酸素を取り込みたい生物的行動が同時に起こり、吐血と呼吸が同時に起こる。


 呼吸をしようにも喉に詰まった血液が邪魔をして進むのを拒む。


「うっえ…おおっゔぇ…」


 その逆も然りで吐き出したい血も同じように進まず、気管に入り始める。


「(……もう、ダメだ……放棄して逃げときゃな)」


 力は入らないが脳から流される信号は機能しているせいか、右腕が自然と天へと伸びていく。義手の金属音が周りのBOWを惹きつけてしまったのか、多数の足音が司へと近づいていく。


「(これが仲間だったいいけど、バラバラだしそれはないだろうな……悪りぃ、クルミ……モモ。レッドフィールド、ふたりのこと、ニアたちの事も頼む……)」


 聞こえる筈のない遺言を声の出ない口で動かしている間に近くのBOWが司に触れて道路に落とされる。


 落ちた衝撃でうつ伏せになり周りの状況を確認する事すら出来なくなってしまった。


 その衝撃で喉に詰まった血の一部が剥がれた事でなんとか呼吸が出来た司は、BOWに襲われることよりも先に酸素を取り入れつつ横に転がり視界を確保する。


「(うつ伏せじゃ折角手に入れた呼吸手段を無駄にしてしまう。どうするか?逃げるにしてもこの身体だ。先程の接触で感染してる可能性はある。痛みはあるが落ちたばかりなのにもう動けるなんておかしい)」


 その上BOWの動きもおかしい。司を地面に落としてから近づく気配がない。


 歪む視界のまま周りを見渡すと、大型のBOWが司の周りにいたBOWを潰しまわっていた。


「キ、キャンちゃん……?」


 司の声に雄叫びを上げて返答を返す。それを聞いた司は安心したように息を吐き、合わせて固まった血溜まりを吐き出して木に腰掛けながら音が聞こえる方向に頭を向ける。


「悪いなキャンちゃん。今はお前のその力に頼らなきゃ生きて帰れない。約束はまだ果たせないけど、協力してくれ…」


 蟹型のBOW上半身が司へと身体を向けて持ち上げる。


「大きく穴が開いた場所に向かってくれ。その先にはキャンちゃんみたいなBOWがいるから、到着次第動きを止めてくれ」


 ビルを登っていき司が落ちてきた穴へと進んでいく。キャンちゃんは司に可能な限り負担を掛けまいと移動に注意はしているものの、重力を無視して移動している事には変わらない。


「どうせ負担はかかるし、脱出はほぼキャンちゃんだよりなんだ。気にしないで到着するのを優先してくれ」


 キャンちゃんは悩む動作をしばらくした後、了解とばかりに速度を上げていく。


「ぐっ……」


 全身からやめてくれと言わんばかりに悲鳴が鳴り響く。だが本来ならこの場にいなければ受ける必要のなかったものだ。


 自分が招いた結果なのだからその尻拭いはしないと行けない。


 上がってくる血を飲み込んで上階にいるBOWを倒すことだけに残った神経と感覚を研ぎ澄ます。


「(現在使えるのは右腕の義手。その義手もデータを渡さない為の自爆機能くらいしかもう働かない。俺自身であれを倒すのは不可能。キャンちゃんは十二分に火力はあるけど、決め手の点では不安が残る。キャンちゃんにその意志がなかったとはいえ、巨大人工浮島(ギガフロート)で俺を即座に倒せなかったことからそれは考えられる……)」


 それでもなんとかしないととふわふわする頭を使って戦略を考えていく。


「(手数が足りない……広い場所なら下半身の口で喰らいつくとか出来てもおかしくないけど、室内だったら無理やり口に持ち運ぶしかない。どんな生き物でも自ら死ににいくようなやつはそうはいない。どうする……)」


 壁を登り終えるところで、司はキャンちゃんの代わりに内部を見渡し侵入口付近には敵がいないことを確認してから中に入る。


「ギムの方を追ってるみたいだな。そりゃ死に体の方は手下にやらせるか。キャンちゃんきついとは思うけど、頼むぜ」


 キャンちゃんは頷きながら建物内を進んでいく。落ちてからそれほど時間は経っていないはずなのに、数体のBOWが何かを探すような動作をしている。


 キャンちゃんはそれらを音を出来るだけ立てないようにしつつ素早く命を刈り取っていく。


 階層内で司を吹き飛ばしたBOWがいない。つまりは別層移動したということだが、司は何故か違和感を感じる。


「この階俺が落ちた階層と違う……?いやでも穴はひとつしかなかった。待てよ?キャンちゃん、エレベーターの所まで行ってくれ」


 キャンちゃんは言われた通りエレベーターの前まで行きその状態を確かめる。


「やっぱりだ。キャンちゃん上層階に飛び上がれ!建物耐久性は気にすんな!」


 キャンちゃんは司に飛び上がる際に瓦礫に当たらないように背中に隠すとハサミをピンッと上に伸ばして飛び上がり、壁を砕いていった。


 キャンちゃんは上階に上がるとそのまま目の前にいたBOWへハサミを突き出しながら押し飛ばした。


「ギム。そっちに向かわせて悪かったな。こっからはこっちのターンだ」


「……は?」


 ギムは何が起きたか判断出来ていないらしい。それもそうだ。死んだ筈の人間がこうして再び姿を見せたのだから。

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