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1日目の昼(2)

 逃げるとしても、最終処分場等の場所へは高速レーン等がない。しかし、逃げる場所としては他にはない。学校やどこかの港等も逃げる場所としては使えない事はない。だがそれは夜の話だ。昼だと学校なら部活や授業、下校時間と重なる。

「んで、どうすんだ?トリシュ。このまま最終処分場まで向かったとして。そこで戦うのか?」

「もしここで争えば、顔を見られる可能性がありますし、その前に特異なものは差別される原因になりかねません」

「それだったらこの移動方法止めた方がいいか」


 下に降りようとしたと同時に、数本の弓が司の頭や肩を擦った。

「なばっ!?どこから・・・・・・!トリシュ!サポート頼む。撃ってきた方向分かるか?分かるならそっちへ向かってくれ」

「マスターはどうするのです?」

「飛んできた方向が分かんねえからお前の行動次第で決める!」

「分かりました。しかしなぜ──」

「多分狙ってきたのは02とかと一緒の奴だろう。そういうのに関係がないなら、銃で狙撃すりゃあいい。だけど、わざわざ矢を使うんだ。そういう系の相手だと俺は思うわけよ。それじゃあ頼むぞ!」

「彼らも普通に銃を使ってたと思うのですが・・・・・・了解です」


 トリシュの動きは速く、鎖を出すだけで速くなるわけではない司の装備ではトリシュとの差は一気に広がっていき、結局見失ってしまった。ここで司は走りながら考える。あの空から落ちてきたのはどうなったのか。先程のは矢、その前は鉄。飛んできたものがまるで違う。同じ相手ならば似たものを飛ばしてくるはずだ。


 2人いると思わせている可能性も否定は出来ないが、2人いるならば後ろから追い掛けているはず。そういう考えも浮かび、弓の方をトリシュに任せ司は後方に注意を払いつつ、トリシュの後を追う。


 先行するトリシュに気づいているだろうにもかかわらず、弓を放った者からの攻撃が1つとしてない。まだ移動しているから狙いが定まらないのか。それとも、放った者が移動しているのか。とはいえ、トリシュ自身も一方方向に進めば当てられるのは分かっているので、ビルを盾に進む。

「(やはり、目的はマスターですか・・・・・・。たとえ今の状況で私に当てたとしてもそれが原因で逃げられては意味がない。目標以外はどうでもいいということですか)」


 気配を残した移動なので、その程度の小者か確実に勝つという確固たる自信があるのだろうか。トリシュに対して追ってくださいといっているのかもしれない。トリシュは罠であったとしてもマスターである司を狙った相手を見逃すわけにはいかない。見逃せばそれは彼女にとって裏切り行為だと思っているからだ。司は見逃しても文句は言わないであろうが、彼女のプライドがそれを許さない。


 狙撃地点と思われる高層ビルには、特には何も無かった。だが、気配は感じる。ここから放ったことは確実だろう。司を目標として狙うのならば、別れたあの場所を狙える場所に行くはずだ。勿論司もトリシュを追い掛けている筈なので、多少の場所移動を予測した位置になる。

「(矢がきた時は上からは狙うことは出来ないほど高速レーンの真下を移動していた。それでもここから狙うことが出来たとなると、矢に追尾機能が付いていた、と考える他がありません。となれば次に狙える場所を予測したところで意味がない。なら・・・・・・)」


 トリシュはビルから飛び降り司が自分を追い掛ける時に通るであろう道を進んでいった。


 その頃司は鉄塊に追われていた。

「ぬぅぅぅ!ぴぎゃ!うわああ!助けてへるぷみー!」


 司の予想通り矢を放つ敵とは別の敵がいた。物理法則なんて知ったこっちゃねぇとでも言うばかりに細い腕でどこからともなく持ってきた鉄塊を投げつける。それがまた速い。子供の遊びでボールを当てる遊びがあるが、それを鉄塊でやっているようだ。

「どういう方法であんな鉄の塊持ってきてんだ!?それにそんな肩なら草野球とかラグビーしとけっての!」

「・・・・・・」

「このままやられっぱなしってのも気に食わねえ、そっちが鉄の塊ならこっちだってやってやらあ!行けっカオちゃん!」

「イギーッ!ギャッ!ギャギャッ!」


 勇敢にカオちゃんは突撃したが、相手に空いた手で吹き飛ばされた。残りの武器は鎖だけ。鉄塊相手には何も出来ない。司は敵に投げるよりも直接当てた方が当たるほど近づかれる。

「くそがあああああああ!!!」

「・・・・・・!」


 避けられないのならと、敵に向かって同調を解いたチェーンちゃんを掴み殴りかかる。司の腕の速度に依存した攻撃は軽々と避けられ、敵からお返しにと重い蹴りを受け吹き飛ばされる。さらにそれは始発攻撃だったのか、次に回し蹴り横へ吹き飛んだ司の頭を空いた手で掴み、膝で胸を蹴る。声さえ出ない。

「・・・・・・っう、がっ、ふじゃ・・・・・・」


 最後の一撃は重く、司の意識は一筋の紐のように微かに残すだけだった。周りの音は聞こえるが理解までは出来ない。襲撃者である敵も、思う所があるのか、これで終わらせるとばかりに鉄塊で叩いた。僅かな勢いしかないはずだが、それでも小型のクレーターが出来ていた。確認のため持ち上げると血痕はあったものの、圧迫されて出た量としてはあまりにも少なく、衣服の一部さえ残っていないのは考えるまでもない。あり得ないが、つぶれる前に回収されたのだろう。回避が不可能なのは潰す前の態勢でよく分かる。

「・・・・・・ちっ・・・・・・」


 襲撃者は舌を打つと鉄塊を抱え真後ろに投げた。司を潰した時とはちがい、力を入れて投げている。

「ぬっ・・・・・・そんなんじゃ当たんねえぞ?ハチ」

「・・・・・・使い魔如きが・・・・・・」


 鉄塊を避け、煽りをかけたのは、スネークのところで襲撃してきて司達に捕まっていた男だった。男は掻いてもいない汗を拭きふーっと息を吐くと、襲撃者に言葉を返す。

「一応あんたらの概念とか科学的根拠で言えば人間なんだがなあ~後よ、俺達の獲物取んないでくれるかね?」

試作品1号(プロト01)()るのは俺だ。試作品4号(プロト04)がいなくては何も出来ない奴が勝手に決めるな。劣等品が」

「おうおうおうー!言ってくれんじゃねえの。敵の敵は味方って理屈は通りそうにねえなこりゃ」


 朝とは性格がまるで違っていたが、その顔は変わらない。腰から素早く銃を抜き取り、ハチへ向けて数発放った。ハチも下のコンクリートを剥がし盾にする。ガンッガンッとコンクリートを貫いたときには移動し、後ろに回り込んだ。

「つまんねーの。ちょっと前まで大剣ブンブン丸だったお前が、素手ばっかなんだが。相手の気持ちに少しは考えてくれよ」


 司なら直撃待ったなしのハチのストレートを危なげなく躱す。

「この機動性、近くにいるな?」

「いねえよ。俺だって訓練はする。お前が本気を出さないんなら、こっちも本気を出さない。お前みたいに強いってわけじゃねえが獲物を取られる訳にゃぁいかないんでね」

「劣等品がキャンキャン鳴く。寝言は寝て言え。お前が前で敵の意識を向かせ、その後ろから試作品4号(プロト04)に撃たせるのだろう?お前らと何度()りあったと思っている」

「そうだな。十回位か?考えたこともなかった。話は変わるんだがよ、今回は手討ちにしねえか?」

「断る。そうすれば、お前らがそいつを殺すだろう」

「最初は勝った方がって思ったんだが、横見ろよ」

「ん?ただの泥酔状態の男にしか見えんが、あれがっ!?」


 獣のようにハチに襲いかかる別の男、それは鉄塊が落ちて空いた穴を調べていた救助隊の男だった。

「くっ・・・・・・!」

『ここは・・・・・・引け。引かぬと言うなら裏切り行為と見なす』

「だってよ。どうする?」

「ただの民間人の意見を聞くというのか」

「泥酔状態にしか見えないのにもかかわらず、あまりにも会話が出来ているんだ。疑うべきだろ」

「・・・・・・今回は見逃す。だが、次にあったら潰すとそいつには伝えろ」


 ハチはそう言い残すと、町の中へと消えていった。

『お前も引け』

「へいへい。邪魔者は消えますよ。姫の事もあるしこいつの会社までは送るけど、それは敵対行為にはならないよな?いくら敵でも、勝手に警察に捕まったりしたら面倒だしな」

『・・・・・・』

「返事がないって事は肯定で良いな?そんじゃあな」


 男はビルとビルの間にいた司を持ち上げ背負うと歩き出すのと同時に槍が足先に刺さる。

「ぐっ!・・・・・・試作品7号(プロト07)か!」

「使い魔。あなたのマスターを確保しました。殺されたくなければ、その者を離しなさい」

「分かった・・・・・・だが、先に姫を見せて貰おうか」

「先にその者を──」

「ぐふっ・・・・・・。トリシュ、こいつは敵じゃない。今の見た目は敵対行為っぽいけど、助けてくれた人間だ。こいつの言う通りにしてくれ」

「おいおい。もう意識戻ったのか?強いなあ」

「言うほど強くなかった。防御態勢で受けてあれだったら、意識はまだ戻ってきていないだろうさ。ハチだっけ?あいつも俺を殺す気がないように感じたよ。後よ、降ろしてくんね?この格好息しづらい」


 意識を戻した司を降ろし足の槍を簡単に抜くと、トリシュに返却する。警戒しながらもトリシュはそれを受け取りどこかへと消した。

「こいつを放したんだ。姫の居場所を教えて貰おうか」


 トリシュは後ろをふり向きビルとビルの間に手を振ると、小柄な少女が出てきた。

「うむ・・・・・・どこかで見た憶えが・・・・・・」

「姫はお前が助けてくれたって言ってたぞ」

「俺が人を助けたのは、ブックスを使ったものだから、やっぱ会社関係の人か?」

「まだ、学生だよ。姫は」

「そうか・・・・・・ってその前にその姫が俺が助けた人だって分かってんなら、何でお前は襲ってきたんだよ?あいつと一緒に」

「男の子に助けられたって言っていたし、分かったのもその後なんだよ」


 少女が近づき朝の事は申し訳ないと謝罪をし司は分からない状態でならしょうがないと怪我があったのにもかかわらず、厳しく追及しなかった。

「念の為確認するけど、少なくとも今は味方だと思っていいんだな?敵対は構わないが裏切りは無しだぜ?先にそこんとこしっかりしておきたいからさ」

「敵対と裏切りは同じでは?」

「トリシュ、文句は後で聞く。今は彼女達と話してる。どうなんだ?」

「他の試作品(プロトタイプ)が全滅するまで、裏切りはしない」

「オーケー分かった。それじゃあ明日俺の家に来てくれ。出来たら夕方以降で頼む。分かるだろ?」

「一応。明日伺わせて貰います。帰るよ、雷電」

「承知。姫」


 二人が見えなくなるまで見送った後、司とトリシュは道路の損傷等の責任から逃げるため、司は鎖でトリシュは柱を踏み台にして高速レーンの下を進んで家へと向かった。

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