出張で3
ただ無言で廊下をすたすたと歩いているふたりに近づくものは誰もいない。
時折キムから肥大化した右腕へ殺意の混じった視線を向けられるものの、これに関しては元から分かっていたこともあり司は特に気にしてもいない。
十字路付近へ近づいた所でひとりの女性が血に塗れた身体で倒れ込んだ。
司はすぐに女性を抱えると、過呼吸気味に口を開く。
「ハ、ハンター……」
それを最後に動くことはなくなった。司は女性の目を閉じるとせめて踏まれないようにと壁に立てかける。
その瞬間キムに抱えられながらその場から距離を取るが、離れる時重い風圧が身体を包む。
「さっさと動け!折角の遺言を無駄にするつもりか!?」
「こいつが…?」
「BOWだよ!ハンター級だ!厚い皮膚のせいで今の手持ちじゃ不安だ。一度距離を取るしか」
司はキムの抱えを解くと、肥大化した腕を盾に距離を詰める。
「ばっ、馬鹿!?今言ったばかりだろっ!」
ハンターの攻撃を真正面から受けたが、それは残像で司は懐へと入り込むと脇下に拳を差し込む。
「一撃」
決め手にはなっておらず、即座に次の攻撃がハンターから振り下ろされる。
そちらも回り込み、今度は左腕を肥大化させ背中へ正拳を放つ
「二撃っ」
だが変わらず効き目は無い。その動きをキムは思い出す。
「(これはさっきレッドフィールドがやっていた……?)」
動きに法則性はない。何か型があるわけでもなくただ攻撃を差し込んでいる。
次の回り込みの際の攻撃は左膝で横腹に入れ込む。
「三撃!」
そこで初めてよろけたのを確認した司は、再び右腕を肥大化させて素早く数発の拳を叩き込む。
「四撃ぃ!」
勢いを付けるため一度距離を取ったあと、脚部ユニットのエネルギーを吹かして車がぶつかるように肥大化した腕をハンターの胸部へ入れ込んだ。
大きくよろけたが決め手にはなっていなかった。ハンターは竜をも簡単に引き裂けそうな両爪を司に振り下ろす途中で胸部を破裂させた。
「……これが、ゼロツーの技と巨大人工浮島の技を組み合わせたスクラップ・ガンだ!」
試作品の攻撃だけでも充分な火力はある。だが司本人ではそのレベルまではいっていない。つまりは火力が足りてないのである。
ならば追加してしまえばいい。そんな脳筋発想である。剛健王で元々よりも腕が頑丈になったからこそ、この行動を取れるわけである。
そんな馬鹿なと言わんばかりに胸を凝視するハンターだが、そこから小さな水鉄砲のようにピューピューと血を出したあと、受け身も取れずに仰向けに倒れた。
腕を押さえながら、荒げた息をハンターに視線を向けながら整えていると、キムが近づいてハンターの頭を切り落としてそのまま踏み潰した。
「キム…あんたいくらなんでも、オーバーキルすぎるだろそれは」
「貴様こそなんで最後まで決めない。詰めが甘いんだよ。BOWはなコアと頭部をどちらも潰さないと復活するんだよ。貴様の行動は無駄に疲れただけで終わるってことも分からないのか!?」
「知らねえよ。ほとんど見たことないものに対して知ってる前提で物事を話すな!」
「じゃあ貴様の強化装甲は全くといいぐらい信用ならないな。こちらはな、人よりもBOWを倒すことを目的にしてるんだよ。人なんぞどうでもいい!」
「じゃあなんでお前さんの当主は俺たちを呼んだ。何でも屋だといっても、どういうものを作ってるかどうかぐらいは調べることは出来ただろ!」
「何でも屋が依頼内容に文句を言うか!?」
司の胸ぐらを掴むと壁に叩きつけ剣を顔に突き付ける。
「貴様ら巨大人工浮島はやはりクズだ。存在する価値の無い犬畜生以下だ!」
「……いい加減にしろよ!」
キムの腕を左手で掴みそこから膝蹴りをみぞおちに差し込む。
「ぐっがっ……」
「お前らからしたら犬畜生以下でもな、知らないことは知らないんだよ!知らなかっただけで差別されても困るって言ってるんだよ」
ふたりは再び敵意を互いにぶつけているとそんな強い感情の波を感じたのか、別のハンター級が背後から追突しようとしてくる車のような速度で近づいていく。
「邪魔すんじゃねえ!!!!!」
ハンター級の爪も合わせた掌底を司は肥大化した腕で放つ正拳で粉砕しそのまま右胸部を潰す。
キムは内臓が露わになった内部から心臓部と経由して頭部まで持っていき、廊下に血の雨を廊下に降らせた。
「……説明を受けた以上ここからは処理する。だからキム、あんたもこちらに情報を提示してくれ。今みたいにちゃんと成果は出す」
「……」
回答はない。司自身もすぐに返答はないことは理解していた為、すたすたとレッドフィールドたちの元へと進む。
「(こう言って安心させた所を狙うんじゃないのか…?巨大人工浮島はそういうところだ。そうやって極東の島を砂に変えたことを忘れるわけがない」
司本人にその意思がなくとも、他の人間がそういうことをしてきたのだ。はいそうですねと言えるやつはお人好しにも程がある。
敵意を完全には消すことはなく、キムもその後を追った。