協力者の自由時間
「大会が近づいてるのが目でも分かるぐらいの人並みだな。……悪気がないのは分かってるが、腹が立つ」
ソラは後頭部に手を回しながらひとり歩く。屋台の食べ物を買い食べ歩く。
「(飯に罪は無いからな。そこの人が作った物でも裏切り行為じゃないだろ。タカ派が見たら俺も怒られそうだが)」
「なあ兄ちゃんやって行かへんか?」
射的の屋台前を通った所で声をかけられるとソラはこれも問題ないだろと考えて射的の銃に手を付ける。
渡された弾を全て外し残念だったなぁと屋台の男性にフーセンガムを手渡された。
「……どこもかしこも射的はこんなもんですよねぇ……タカ派になりそう」
しょうもない理由でボヤきながら、更に中央部へと進んでいく。
本屋を覗いたり喫茶店で紅茶を飲んだりしながら街を彷徨いているとゲームセンター前に立った。
「今時ゲーセンが残ってるとはなぁ。俺の知ってるゲームがあればいいんだけど」
震えるほど寒い室内を歩いていくと、ある地区で盛り上がっている軍団があった。
『winner prayer 2』
「10連目っ!私に勝てる人はいないの?」
その軍団が出来ていたのは体感型格闘ゲームのようだった。
腕に自身のある人々が軒並みやられてしまったのか、誰もやりたがらない。
「このままだと賞金は私が全部持ってっちゃうよ?」
———誰が行く?どうせ勝てないから行きたくない。———
そんな中ひとりの手が上がる。手を上げた人は薄桃色の長髪が邪魔にならないようにその機械を取り付けると少女の対面に立つ。
「さあ楽しませてもらおうじゃん!」
「楽しませられるぐらいの力があることを願うよ」
ふたりの戦いが始まると互いに生身の方がいい動きが出来そうなほどの動きをしながら一進一退の戦いを続ける。
少し先に動いたのは長髪の方で少女の手を絡めるとそれを掴んで投げ飛ばす。
追撃の為に落下地点へ向かい手を握り手を素早く振り上げるがそれを少女は肘で受け止めるように放つ。
体感型で直接的に触れる事はなく痛覚というのもない。代わりに判定で再現しているのだろう。少女の判定勝ちで長髪の方は距離を取る。
ソラはそのゲームの処理に感心していく。本当に身体を動かして格闘ゲームをしたかったということがひしひしと伝わってくる。ソラはここに来る前はこのようなゲームはなくレバーとボタンで動かすものしかなかった。
「(こういうのだけはどうしても作ってくれてありがとうと言わざるを得ないな。どんなにこの国が嫌いでも)」
再び一進一退の戦いに戻りそのまま制限時間を迎えた。
ゲーム勝敗は体力で判断され結果勝者は少女側だった。
少女は何とか勝てた言わんばかりに肩を上下に動かしながら腰を下ろす。
賞金が筐体から出たのを取りに行く事も出来ず休んでいると長髪はそれを手に取り少女に渡す。
「今度は生身でやりましょう。決闘システムもある事ですし」
受け取った少女はありがとうと感謝を言うとゲーセンを後にした所でソラは長髪の元へと向かう。
「久しぶりだなシフィル」
「セフィル?いや、内側だとマエバラの方がいいかな」
顔を合わせたふたりは互いに腕をぶつけて固有の挨拶を交わす。
「マエバラの方で頼む。お前がタイムアップとはいえ負けるなんて珍しいな」
「外側でだって僕の勝率は負け越してるけど。多少勝てるようになっても精々半々だろうさ」
ふたりは店舗の外に出て行くあてもなく歩く。
「てかさーたのならあなたが出ればよかったでしょ」
「マエバラの状態じゃお前にも勝てないよ」
「ええ〜本当に〜?」
「俺は白兵戦は苦手なんだからそりゃそうだろ」
「そんな謙虚なこと言って自分の手札見せたくないだけでしょ?」
「お前がそれ言うのかよ…」
「ふふふ…」
販売車を見つけそこでパフェを買い近くのベンチでそれを口へと運ぶ。
「こういうのは戦時下ってのもあって食べる機会なかったからなぁ。巨大人工浮島に来て正解だと思うところのひとつだね。レア達にも土産で買ってこ」
「お嬢の所にいた時に食べなかったのか?」
「元老院が食べ物を制限してたからね、これみたいな甘味は少なかった」
「本当邪魔しかしなかったんだなあの老害共」
シフィルは手に持ったパフェを食べ終えると持ち帰りの分を再び買いに戻るのをソラは眺めていると、シフィルはあたふたし始め空の元に駆け寄る。
「ごめんセフィルお金貸して」
「ないなら先に言えよな。それに3人分ぐらいは出してやるさ」
シフィルを含めた4人分を買うとそれをシフィルに手渡し物が物なのでふたりは別れた。
「ふー……さて身体の空気入れ替えも出来たし帰りますかね」
ポケットの飴玉を口へと放り込むとソラは再び司たちのいる建物へと戻って行った。