憎悪戦争4
腹部を押さえるが獣の様な形態に無理矢理なっていたせいか、関節や筋肉が悲鳴をあげていた。
「腕を肥大化させてもならないのに不思議なもんだな。へへっ!」
巨大人工浮島の介入なんてなくても多くの人が死んでしまった。勿論これに司は一切関係ない。勝手に殺し合って勝手に憎み合っているだけだ。
「けど見て見ぬなんて事出来るほど俺は強くない」
先程の様に刺されたり攻撃を受ける前提だと、人を連れて移動出来るのはあと一回だ。その上巨大人工浮島の介入が理由で撤退及び地区の隔壁を閉じられたらもう終わりだ。あの地下を通らなければいけない。
再度通る事は避けたいのでそれを計算に入れながら生きた人を探す。
……死体。死骸。生きている人なんてもういなくなっていた。
シフィルがひとり人型兵器と戦っているからか遠くからその戦闘の音と振動が響く。
「……あれは———?」
ヤミと共に脱出しようとしていた時に鎖の壁を展開したが、その鎖の壁は崩れ小さな山になっていた。
司は一縷に望みにかけてその鎖を剥がして中を探っていく。
「(あいつが俺のわがままを聞いて壁を作ってくれたんだ。あいつの行為を無駄になんかしたくない)」
鎖を剥がしていき地面が見えるが、身体を見つける事は出来なかった。
「頼む、いてくれ。こんなことで死んでなんになるんだよ!」
もしかしたらずれて探しているかもしれないと鎖の山の隣にある瓦礫を持ち上げて探す。その下にも鎖があるので上手くいけば少女がいるかもしれない。
風を切る音が後ろからやってくる。司は背後を確認するとシフィルが飛んできており、それにボーリングのピンがぶつかるように身体をぶつけた。
声を出す余裕もなく2人は吹き飛び廃車に身体を強く衝突した。
「うっがっ……」
「司君すまない。あれだけのことを言っておいてこちらに敵を連れて来てしまった」
人型兵器に飛ばされたのだろう。しかし追ってきているのは1機だけだ。ここまで多数の機体を倒してきたシフィルがこの1機には苦戦しているということか。
「いや……1機しかいない時点で十分仕事こなしてるだろ。逃げてない俺が問題なだけだ」
シフィルは鞘使って立ち上がり剣を再び兵器に構える。
「時間切れだ司君このパイロットはあの戦争の生き残りだ。戦闘経験数が他の人たちと比べられないほど積んでる」
「だけどそれでもお前なら問題ないだろ?」
「戦争でボクみたいに生身であれを破壊する人間たちから生き延びたって事だよ。相手に攻撃する隙を与えない状態で初めて有利が取れるんだから、与えない状態でも処理出来る人に対してだったら圧倒的に不利だ」
司には今までと機体とどこが違うのか判断は出来なかった。だが戦っている経験値が多いシフィルが言うのだから間違いはない。
震える足に力を入れて立ち上がった司の元に光る剣が機体から振り下ろされる。
シフィルに抱き抱えられてそこから離れるが当然兵器には他にも武器はある。
四肢のカバーが外れるとシフィルひとり分ほどの大きさのミサイルがシフィルへと飛んでいく。
「(逃げることを優先すれば回避は不可能じゃないけど、それなら最初から逃げを選択させるべきだ。こうなったら……)」
「シフィル……」
「何!?」
シフィルが抱えて移動した事でボロボロになった司は吐き出すようにシフィルに声をかけると続きを吐き出す。
「俺をあの機体に向かって投げろ」
「無理だ。君にあれを倒せるはずがない。死にたいの?」
「このままでもただ時間が無駄にかかるだけで敵の増援が来る。そうなったら終わりだろ」
「そうだとしても君に何が出来るって言うんだ!」
「他の奴に苦戦しなかったシフィルがあれには苦戦してる。つまりあれをどうにかして撃退出来たら他の奴らの士気はなくなる。そうなればお前の勝ちだろ?」
「……」
ミサイルを避けながら2人は状況を打開するために話を続ける。
「あの光る剣を俺の能力で分散と基部の破壊をするからお前はそれに驚いた相手の腕を潰せば終わりのはずだ」
「触れれば蒸発するものに投げ入れろと?いくらなんでもそれは……」
「四幻神の光よりは弱いんだろ?いくら離れた位置からだったとはいえあれは防げたんだ。行けるはずだ!」
「……分かった。君の覚悟たしかに受け取った」
シフィルはミサイルを避けきると司を一度空へと投げる。
司は飛んでいる間に身体の向きを変えてシフィルに足を向ける。
シフィルと同じ高さになるとシフィルの腕を踏み台にして機体にへと飛び込んだ。
「司君これを!」
飛んだ司の前方に剣を投げ飛ばしそれを司は盾に飛んでいく。
当然敵機は左手に持った光剣を司へと向けて放つ。
ジュッと肉が焼ける音が一瞬聞こえると即座にシフィルの移動した方向に視線と四肢を動かす。
司を投げ終わったあとすぐに懐に入り込めるよう移動していたが入りきる前に敵機の機銃が向けられる。
「(ダメだったか……)」
しかしその瞬間敵機の左腕が切り落とされた。あの光線を切り抜けていたのだ。確かに気配も肉が焼ける臭いがした筈だったのが。
「シフィル返すぞ!」
手に取った剣をシフィルと投げ返すとそれを受け取り左腕が切り落とされた事で反応が遅れた敵機の右腕を切り落とす。
「あなたは優秀だったが、ボクの勝ちだ!」
両腕を失った敵機の背後に周りスラスターを破壊する。
スラスターに入っていた燃料が誘爆し爆風が起きる。司はもう動ける身体ではなく爆風に巻き込まれかかっていた。
それを回収すると2人は顔を合わせる。
「完全に焼けたと思ったよ。気配も無くなってたし」
「代わりに右腕をまた失う羽目になったけどな」
「どういうこと?右腕を切ってそれでセンサーを誤魔化したの?」
「ただ右腕に能力を集中してそれで耐えただけさ。四幻神の時も同じことをしたけどやっぱり腕は保たなかった」
ふたりが話していると最低限動くようになったのか敵機はこちらに機体を向けるが敵意は感じられなかった。
するとコクピットが開き中からひとりの人間が現れた。ヘルメットが反射し容姿は確認出来なかった。
パイロットは司たちに敬礼すると再び機体内に戻り撤退していった。
「内戦をしていた人々も撤退出来たみたいだしボクたちの最初の目的は達成してる。撤退しよう」
「ああ」
司の肩を担いで移動を始めた2人だが、撤退した敵機は先程の機体だけらしく数機がシフィルたちを囲んでいた。
「まっそりゃそうだよね……全部叩いてもいいけど、それまで耐えれそうかい?」
「呼吸ぐらいは続けてみせるさ」
再び戦闘態勢に入った2人の上から数人が落下してくると機体の武器を漏れなく破壊していく。
『慣れた環境でない場所でよくここまで耐え抜いたなシフィル』
「後は俺たちに任せとけ」
「ホルにソラさん?どうして巨大人工浮島に?」
『仕事の依頼でな。マツナガ殿の所にいたんだが彼女に呼ばれてな』
ホルという男が指さした先にいたのはヤミだった。
「息を荒あげながら彼女が来たからさ。彼女からすればオレたちは敵対者だからな。それでも本隊ではなくこちらに依頼したんだ、シフィルもいるし助けに来たわけよ」
『巨大人工浮島のパイロットに次ぐ。もう内戦の関係者は後退している。こいつらはその後退に強力しただけであなた方に敵対したわけじゃない。あなたがたも引いていただきたい』
巨大人工浮島側の動きが止まる。どのようにすればいいのか話し合っているのだろう。
短いが長い時間が流れると彼らはホルという男が放った言葉に従いその場を去って行った。
「終わったよ司君。司君……?」
全てが終わった後事で気が抜けてしまったにだろう。司は意識を失いシフィルに乗りかかるように倒れ込んでしまった。
「司君、君がボクたちに追いつけたことすごいと思うよ。だから今はゆっくり休んでね」
そう言うとシフィルは助けに来たメンバーと共に司を担いでで司の帰る場所へと足を進めて行った。