憎悪戦争3
戻る際に先に会敵するシフィルは背後から兵器の足元を剣で軽々と切り落とす。
そこで反応したのか、残りは得物でシフィルへと弾丸を放つ。
それを先程倒した兵器を盾にしつつ距離を詰めて1番近い兵器の得物を切り落とした。
「(ジャミングもされてないのに背後からの攻撃に反応出来ない連中だから練度は低い。今のうちに抜けて君の目的を果たすんだ。司君)」
その言葉が伝わっていたかのように、獣の姿へと身体を変えた司は素早く去っていく。
巨大人工浮島側の兵士たちは逃げる司よりも今目の前にいるシフィルの方に武器を向ける。
「さあ、戦場の時と比べてここは狭いけどどれだけボクの土台に立てるか見せてもらおうかな!」
シフィルが兵器と戦っているいる間に司は地区内を走り回る。
「い、犬!?そういう能力か?」
銃を持った女性は司の姿を見つけるとガタイの良い獣状態を男性と判断したようで銃口を向けて発砲する。
「今の周りを見てから発砲しろよ!」
「この時を、この瞬間を待っていたんだ。見逃せるものか!」
司の肩に銃弾が当たる。しかし獣の様な腕になった司の腕を貫く事はできず、車に当たる風の様に流れていった。
そのまま司は女性へと飛びつくと両腕をがっしりと掴み叫ぶ。
「殺すのは勝手だ、俺だってやった事はある。けど目的を達成出来ても帰れなきゃ意味がない。遠足と同じだろうが!帰るまでがってな」
「お前はやったんだろ!?なら私にもやらせろ。お前だけ出来てなんで私にはさせない?」
「今がその時じゃないって言ってんのが分からないっ…のか!」
腕を押さえていたが、それを周りの男は隙だとばかりに銃弾を放つ。
それを司は背中に乗せながら木の上を飛び回る動物の様に男たちを蹴り飛ばすと、その勢いを使って女性地区へと走っていく。
「くそっ!放せよ!」
「そうしたらお前がただ殺されるのを見ているだけになる」
「お前は殺した事があるんだろ!なら私にも殺る権利がある!」
「そんな事はどうでもいい!今この状況でやんなって言ってんのが分からないのか!?」
女性は司の言葉に耳を傾けることもせず、とうとう胸ポケットのナイフを司の横腹に差し込んだ。
当然その衝撃と痛みは司を襲い、滑るように倒れてしまう。
「仇を、取らせろ。もう時間はないんだ」
「うぐぅ……」
「お前は殺した。なら今度は私の番だ」
女性は司の上に跨ると再びナイフを突き立てようと振り上げる。
「使いたくはなかったが……!」
司は顔を女性へと見せるとその容姿に驚きナイフを止める。
「あんたがいま殺そうとしているのは同志である女だ。それでも手をかけるのか?」
「う、うるさい!ただ女に見えるだけの容姿だろ!?」
「そう思いたいならそうすればいい。けどな、男を殺すのが目的のあなたが女を殺した時その瞬間あんたは復讐者ではなくただの人殺しになるぞ!」
その言葉が女性に刺さったようで完全に手が止まり変な行動を取らなければ大丈夫だろう。
「仇を取りたかったんだ。家族を男に殺されて、けど人を殺しちゃいけないって分かってるから殺せなくて、でも殺した奴らはのうのうと生きてて納得出来るわけないじゃない!」
涙が司へと落ちる。大丈夫だと伝えて跨ると女性を移動させる。
「……行こう」
「うっ、うっううぅぅ……」
獣の姿から普通の姿へと戻った司は女性を背負うと車に乗っている他の女性たちに渡すと、取り残されていないか再び歩き始めた。