憎悪戦争2
なんとか境界線までたどり着いた司たちだったが、その境界線の先のいたのは人型の兵器の集団だった。
「ふたりとも絶対にこの線を越えるなよ」
「この戦闘から逃げる奴を作らせない為にとかか…?」
「そんなわけないでしょ。他の地域に持ち出すのを防ぐって名目で銃を向けてるだけだよ。戦闘自体は我関せずってことだね」
「私たちも中にいた以上同罪だ。私が伝えた所で意味などない。私自身は会長グループの関係者ではあるが会長グループの人間ではない」
咄嗟のことで境界線を越えないよう人型の兵器が見える位置で司たちは意識を向ける。
「けど他の所からとしても戦闘は起こる。ただそれが人型兵器か人間かって話」
「どちらにせよ今度は俺も誰かを殺らないといけないってことだよな…」
「ここまでの地域での戦闘は別の勢力と戦いながらこちらにも対処っていう形だったからこちらに割く戦力が少なくて済んだけど、脱出するならその勢力が来る前に入らないといけない」
どうすればいいのかとひとり悩んでいる司だが、ヤミとシフィルは考える必要がないのか特に困った表情が見えない。
「そんな悩んだって意味ないさ。兵器に突っ込むか街に突っ込むかの違いなだけさ」
「伝説の傭兵ならば後者の方が楽だろう?ならほぼ決まったも当然だ」
「戦争時は前者の方が多かったから意外と逆だったりするんだよね〜得意で行くならそっちだよ?」
「どうすりゃいいんだよ……」
「司君、君が行きたい方向に行けばいいのさ。ボクは傭兵だ。君たちに従うさ。後払いでお金自体は貰うけどね」
「そういう所はやはり傭兵だなシフィル」
司が変わらず悩んでいると兵器たちが足を進め始めた他の地域を巻き込まないのが目的だったのではと思ったが、彼らはそんなことひとつも言ってはいなかった。
「いやあれは独断だ。いくら暴動だとはいえ他の地域に関係ある話じゃない。暴動をあのふたつの地域に収める為の隔離範囲だったのだから」
「じゃああの兵器行ったらそのまま脱出しようか」
「ああ……」
ここ後の状況状況は司でさえ理解出来る。その上暴動として処理されるだろうから、理由だって適当なものにされてニュースの小さな区画に書かれるだけで終わってしまうだろう。
「(彼らは話も聞かず俺たちを閉じ込めた。確認もせず攻撃をしてきた。当然と判断されてもしょうがないかもしれない)」
司の進む足が重くなっていく。やはり後ろめたさは残る。だが司だって慈善事業で人を助けているわけじゃない。
兵器たちの攻撃で背後から女性が飛んできた。潰れたのは下半身でどうやっても助かる見込みはなかった。
司の能力を使えば蘇生は出来ない事もないが、前述の通りそんな状況ではない。見捨てるしかない。
拳を強く握りしめ奥歯を噛みしめながらそれを通り抜けようとすると、最後の力を振り絞り上半身だけの女性は僅かな声で司たちに声をかけた。
———助けて———
耳が認識して鼓膜が震えて認識はしていない。爆風や悲鳴で聞こえない。だが心でそれは聞き取れた。
司の足がここで完全に止まる。何故止まったか分からないヤミは胸ぐらを掴んで進ませようとするが、シフィルも願いを聞いていたのか、振り返り司の目を覗くように視線を合わせる。
「止めたいと感じたんでしょ?ならボクに依頼して。ボクは伝説の傭兵だ。金は優先しても人の心ぐらいは持ってる」
「バカ……!ただの無謀でわがままだろ!レッドフィールドのな!それを聞くのか?」
「ヤミ。これはボクと司君の話だ。君は関わらないでいただきたい」
「……ちっ。なら私は先に行かせてもらう」
「それで構わないよ。請求は脱出後にさせてもらうよ。どっち宛にすればいいかな?」
「私宛でいい。じゃあなバガども」
そう言い残しヤミはその場を去っていく。
「さて行こうか。これは暴動鎮圧なんかじゃない。ただのガス抜きだ」
「聞いたこともない声だったけど、やっぱり頼まれちゃ見捨てることが出来るほど俺は正しい判断のできる人間じゃない。シフィル、兵器は頼んだ人々の元地域への撤退は俺がやる」
「元からそのつもりさ。報酬は弾んでもらうよ!」
そういうとシフィルは司の無謀な依頼を受けて兵器へと飛び込んでいった。司は上半身だけの女性の目を閉じた後、元来た道を戻る。
だがこの速度で走っても前述の目的は達成出来ない。その為に自分の身体を速く走れる身体へと変形させる。
「早速応用だ。剛脚王ブレイブビースト!」
四肢の関節ゆっくりと変形し四足歩行の動物のようになると、普通に走るよりも速い速度で戦場へと戻ることが出来ていた。