1日目の朝(8)
「痛つつつぅ!塗り薬は辞めろって言ってるだろうが!せめて飲み薬にしてくれよ!」
「文句言わないの。よくもまあこんなに怪我して、昨日の今日だよ?今までこんな事あった?」
「にゃいなりね。ニアが頭を噛んにゃ時でもここまではにゃいと思う」
「そんな強く噛んでたっけ?てか、何で俺こんなに怪我してるんだ?打ち身なら2回ぐらいあったのは憶えてるんだが、切り傷や擦り傷には憶えがねえ」
「冬になると、いつの間にか切り傷が出来てたりするじゃない?それと同じだよ」
「冬なら納得なんだが、今は冬じゃねえからな~ってだから!塗り薬は辞めろって言ってるだろうが!打ち身の方が多いんだから、ロキソニン薬飲みゃあ良いだろ!」
「はいはい。これもロキソニンだから気にしなくていいよ」
「だから、塗り薬が問題なのって分からないのかよお!」
取り抑えられながら腹部の擦り傷や顔の切り傷に塗っていく。しかし、相手が二人だとはいえ少女に取り抑えられる司の筋力のなさが顕著に現れている。
「トリシュ助けて~!」
「怪我は放っておくと治りが遅くなったり後が残ったりと良いことありませんよ。今が痛いのと何日も痛いの、どっちがいいですか?」
「そりゃあ、痛いのは一瞬の方がいいに決まってるだろ。あびゃ!キノ!もっと優しく塗ってくれよ!いいのか?ちゃんと優しく塗らないと、撃っちゃうぞ?」
「試しに聞くんにゃけど、にゃにを撃つの?」
「AKかな?ついでに言うけど、ここには置いてないよ。あるのはMシリーズだよ」
「誰が、AKだって言った?確かに突撃銃は良いもんだけど、反動がでかいじゃん特にAKはさ。口径があっちの方がでかいわけだし。素人が撃つなら散弾銃を腰だめで撃つことを勧める」
「そういう話をして塗るのを避けようとしても、取り抑えてるから意味ないよ。キノさん続きを」
「ええ、分かっています」
しっかりと塗り薬を塗られてやっと、解放された司は打ち身の所である、腹を擦っていた。そんなに痛かったのか、目が赤い。トリシュを除いた全員がその精神の弱さを差はあるものの、笑っていた。
「男の子でしょ!それぐらい耐えなさい」
「だって、痛えもんは痛えんだよ!・・・・・・真面目な話になるんだが、ここは本当に大丈夫なのか?俺が狙われていたことを考えると、今も追跡されてる可能性が高いと思うんだよ。それに、ここのダクトは人一人普通に入ることが出来るぐらいに広い。今狙われていなくても、いつ襲ってくるか分からない以上やっぱりスネークって人と一緒に行くべきだったと思う。いくら俺が弱くて実力もなくてばかで変態で赤点まっしぐらな成績とはいえ、これでも主任だ。俺には皆を守る義務がある。だからもうっあた!?」
ニアのデコピンが炸裂する。不意打ちだったのでまあ、軽く後頭部を地面に当てた程度に吹っ飛んだ。
「主任にゃら一番考えにゃきゃいけないことがあるよ。戦闘にゃらニアやカオルの方が強いのだかにゃ、任せれば良いにゃりよ。それに、今にゃらトリシュもいる。反応装甲付けた戦車とかかにゃい限り大丈夫にゃりよ」
「そういうものだっけ?まあ、そういうことでいいんじゃないかな司」
「お二人の力を借りなくても、私が一人で出来ますので問題ありません」
「そう言うこと言ってるのに、司の身体がぼろぼろなのはなんでかな?護衛としては失格じゃない?」
カオルが言う事は実に正しい。怪我を負った時点で司に対する護衛は出来ていない。返す言葉がなく、トリシュは黙り込む。首が前転が途中で止まったときのように、九十度近く曲がった司が変わりに返す。
「・・・・・・ぐっ・・・・・・俺にとっての数少ない友人を戦闘に出せるかいや。せめて出すなら、俺が前でお前らが後ろだろ。散弾銃は援護に向かねえし、カオちゃんやチェンちゃんの性質上、サポート向きではないし。後誰か起こしてくれ~身体が硬くて動けない」
カオルとニアが司の身体を持ち上げて、横にする。
「くふぅ・・・・・・やっとまともに息が出来る」
「うむ・・・・・・ん?えっ、分かった。主任。スネークが敵対勢力の排除を開始して先程終了したそうです」
「俺が意識無くしてからどれくらい経ったんだ?」
「ここに着いたのが二十分前なんで・・・・・・」
「あれだけの数それも場所だってまともに特定してなかっただろうに、たったの二十分前後で・・・・・・それはそれとして、トリシュ取り押さえた男はどこに?」
「ここにいるんじゃが。影が薄いからなしょうがないな。もう良いだろ、いい加減解放してくれたって。結構息しずらい」
腕と足を背中で結ばれ、公園にの遊具のように前後左右に揺れている男を見て司がそれを解く。
「息苦しかったろ?脚の方は外せないが、さっきよりはまともになったはずだ」
「なんで外したんだ?こちらが腕だけでお前を殺すかもしれないのに、その前にあんたらと殺りあってたのに。普通、前に結び治すとかまでだろ?」
「殺人厨か何かか?お前は。それはそれ、これはこれ。仕事でやってたんならしょうがない。あいつらが狙われてたら話は別だがよ」
「それなら解放して良いんじゃ──」
ニアがカオルの口を塞ぐ。司も格好つけてんだから邪魔すんなとでも言いたそうな顔だ。
「なあ、誰に雇われたか教えてくれないか?知ってることだけでいいからよ」
「誰が連絡してきたかは分からないが、女性の声だったってことしか分からん。依頼は、スネークの所に行って司って奴を殺せるようなら殺れって事だ」
「にゃっぱり、情報がどっかから洩れてたみたいにゃりね。どこで話があったかを知ってるのは、キノだけにゃり」
「あっちの方は初めて行ったのに、結構俺の事を知ってたみたいだし、こっちから洩れたってのは考えにくいな。あんたあんがとな」
司は脚の方も解き、解放する。男も司の性格が分かったのか、目でどうしてと尋ねる。
「外まで送る。変に俺達に喧嘩売らないでくれよ。人を殺すなんていくら武器があっても普通出来ないんだからさ。そう話になっても」
「まだ解放するには早過ぎない?最低でももう少し位調べた方が」
「そこの関係者じゃない以上、まともな情報は得られないですし、得られたところで、それが事実かどうかも確認できない。ならば解放した方がこちらとしても楽というわけです」
「キノの言う通り。それじゃあな」
部下が男に目隠しをかけ歩かせ、部屋から出て行った。
「大丈夫かな?普通に帰して」
「確率論を気にしてちゃ生きてけないだろ?戦闘とかだったら、そういうときは必要かもしれないが、毎回毎回確率の話をしていたら、人間進歩なんて出来やしない。そういうもんだろ?」
「そうかもしれないけど・・・・・・」
「あいつは依頼に失敗したようなもんだ。どちらにせよ、俺達の会社の敵対勢力が新たにできない限り、あいつ本人が関与してくることはないと思う。ソンじゃ、俺も今日は帰るわ。昼からってのもあるけど、今の状態じゃ邪魔になるだけだし」
部下達と軽く挨拶をした後、司は殆どない荷物をまとめトリシュと共に部屋を出て、扉が閉まってから腰のブックスを開いた。
「(やっぱりないか。俺の使い魔なら普通このブックス内に描かれてる筈なんだが。朝は頭も回ってなかったし勘違いかな?と思ったが、今見てもないって事は・・・・・・んあ!もう考えてもしょうがねえ。今は放置って事でいいか)」
「・・・・・・?司どうかしました?」
「んや、何でもない。そこら辺で昼飯食ってから家に帰るか」
マスターのご意向にお任せしますと興味なさげにトリシュは呟き、司は何を食べるか、壁に寄りかかりながら腕を組んで考える。お金のことを考えると軽く済ませたいが、どちらにせよ朝のトリシュの食べっぷりから考えると、コンビニ弁当三つは一人でいける口だった。脳内の木魚を叩く。ぽくぽくぽくチーン!指を鳴らしトリシュに尋ねる。
「トリシュ昼飯バイキングにするか?あれなら好きなだけ食えるしさ。任せるはなしな」
「・・・・・・いいんですか?結構食べていたの朝の時点でお気付きになられてるのでは?」
「食わないダイエットは太る原因に繋がるし、それに昨日今日とこんだけ手を貸して貰ってんのに、借りの一つや二つ返していかないと、借金返済が大変だからな。気にせず食ゃいいよ」
一瞬だがトリシュの目が輝き、軽く頷く。二人は会社出て街中に入っていった。




