罪2
一度距離をとった少女に追い打ちをかける為に走り込みながら肥大化した腕で殴り掛かる。
簡単に回避されてしまうもののそれは折り込み済みな為、そのまま攻め続ける。
「入れ替わっただけでそれほど変わっていないな!ならばお前を殺してあいつも殺す!」
「逃げてばかりでよく言うぜ!」
「相手の行動パターンを理解する為ってことも分からないとか、やっぱりお前は戦いの真似しか出来ないただのマッドサイエンティストだ!」
その言葉を最後に距離を取るような立ち回りをしていた少女は司に飛びかかり左半身を狙う。
自ら攻撃を仕掛けてくれるなら同じ土台に立てる。司は蛮刀を作り出しながら左腕を振り上げてその爪とかち合わせた。
だがその爪は長い。数本防いだ所で5本の爪を防げるわけではなく、その上防げたとしてもその場に爪を止めさせなければ多少なりともダメージを受ける。
「そんな貧弱な1本で何が出来るんだ!お前を殺して奴も殺す」
「そうかよ」
すると司は蛮刀を絡ませ右爪の動きを封じると肥大化した右腕で少女の左腕を潰す。
爪が飛び散りながら互いに距離を取り合う。少女は爪を折られたことに怒りを覚えると素早くそれを修復し再び距離を詰めていく。
動きを封じられたら肥大化した腕が爪を砕く。ならばそうさせないようにすればいい。
横薙ぎで防ぐ場所を作らせず攻撃を決める。司では防げないのは見るまでもなかったので攻撃を避けようとするものの回避しきれず吹き飛ばされる。
「耐えるな!そのまま死んでいろ!」
「俺ひとり殺されて相棒や妹たちに手を出さないならな。けどお前は先に俺の家族に手を出した。ぶっ潰す理由には充分だ」
「そんな感情さえママは持てなかったんだぞ!敵意を持てただけで御の字だろうが!」
吹き飛ばされた司を追いかけて再び横薙ぎで吹き飛ばそうとしたが、司は薙ぎ払われた方向の腕を肥大化させてその攻撃を防ぐと、空いた手で蛮刀を握り逆手で切り上げる。
肌を掠める程度ではあったが攻撃は届く。なら問題ないと判断した司はすぐに肥大化した腕を振り回して彼女との距離を離す。
そんな時司の耳に付けた無線機からシフィルの所にいたハルサメという少女から連絡が入った。
『目標確保。家族、伝言。使い魔、使用可』
「……助かったよ。これで俺はやっと全力を出せる!」
「舐めるなぁ!」
少女は爪をひとつにまとめ牙に変化させると飛びかかる。
しかしそれが届くことはなく少女の顔にカオちゃんが、背後から手に向かってチェンちゃんの鎖が放たれその動きを封じられる。
一瞬ではあったがその一瞬で脚部を肥大化させ少女から距離を取る。
「いくぞカオちゃん、チェンちゃん」
「キャー!!!!!」「チャー!!!!!」
2体の悪魔が司と交わる。両腕に鎖が巻きつけられていくとその上に雨具が展開される。
「久しぶりの同調だ。リミッターは関係なしでいくぜ!」
少女の牙と司の蛮刀がすれ違いさまにぶつかりあうと即座に振り返り少女は力を溜め込んでその牙を飛び込みながら突き出す。
司は少し遅れて攻撃に移るが当然少女の方が早く牙が司へと近づいてくる。
しかしその牙の軌道は僅かにずれて司の腹部を掠める。
「徹甲弾か……!」
司の背後に移動した少女はもう一度攻撃体勢に入るが、今度は司もそれに追いついて蛮刀と牙をぶつけてすれ違う。
それを数回繰り返しその内の司が放った弾丸のひとつがついに少女の身体に被弾した。
「この動き……前大戦で巨大人工浮島がシフィルひとりに翻弄されたと言われる際に使用した技か……?」
被弾は決め手にはならずただ一瞬動きを止めたに過ぎながったが、その一瞬でよかった。
「鷹飛翔撃!」
蛮刀を縦に振り下ろして牙の外側部を切り裂いた。
「見よう見まねで!何が出来るって言うんだ!」
「ならここからは俺の技で決める」
司は改造し大型の銃口を取り付けた蛮刀を構えると、それを少女へと放った。
銃弾を迎撃するために突き出した少女の牙が溶けた壁のように砕けていく。
「ちっ!!!!!」
一本の腕では処理しきれないと判断して即座に両腕を銃弾に対して使い、牙が砕け散る前に再生させる事でその銃弾を処理しきった。
「対能力者の武器か……だがわたしには届かなかったな!」
「いいやそれでいいさ」
勝ち誇った少女に対して3発の銃弾を撃ち込んだ。先程の攻撃で腕の牙がなくなっていた少女はそれを防ぐことが出来なかった。
「がっぐっ……!?」
撃たれた部分を抑えているところに司はとどめを刺す為に距離を詰める。
「ちくしょ……」
司からの攻撃は蛮刀ではなく横蹴りを放ちテナント側へと蹴り飛ばした。
吹き飛ばされた少女は一度身体に酸素を取り込んでから司に視線を向けると同時に、司は光線に包まれてその姿を消した。
ゴウッ!!!!!という快速の電車が目の前を走っているような音が目の前を通り過ぎていく。
何秒か光に包まれた後、棘はドロドロに溶けてまるで溶岩のようになっていて、司の足元も同じようになっていた。
「な、何故わたしを助けた……!」
「……背後から攻撃されても困るからな」
司の肥大化した右腕はドロドロに溶けたとはいわないが、機能はほぼ無いことが見て分かる程に損傷していた。
そんな状態で司は少女を放置してどこかへと歩いていく。
「何処へ行く!?」
少女は追おうと立ち上がろうとするが、ふらりとうつ伏せに倒れてしまう。
「俺の目的は家族の保護だ。その目的が達成されてるわけだし撤退は当然だ」
右腕を抑えながら司はデパートを後にしてどこかへと消えていった。
時間が少したち、少女は何とか立ち上がれるようになったようで、フラフラとした千鳥足で司の進んだ方向へと歩き出す。
10歩程歩いたところで限界を迎えたのか、倒れ込みかけたその時少女を傷だらけのコートを着込んだ青年に抱き抱えられる。
「マリー、ここは撤退しよう」
「ヴラド……わたしの目的は知っているはずだ」
「ああ。分かってる」
「ならば奴のところへ連れて行け!ひとりでも殺して奴らに恐怖を……」
「目的はレッドフィールドの殺害だ。彼女がクローンなのならまずは再生施設を叩かないと意味がない。それにもう時間切れだ。これだけの時間がかかったら撤退と約束しただろ?」
少女———マリーは舌打ちをすると力を抜いて青年に体を預けると、2人もドロドロに溶けた商店街を後にした。