シフィルニア
目が覚めるとそこはどこかの一室だった。
司の三肢は硬く固定され動かせず、右腕はそもそも取り外されていた。
「(こちらの取れる行動を防ぐためか・・・・・・。無理すれば能力は使えないことはないけど、状況把握が出来るまでは使うのは得策じゃないな)」
部屋はこぢんまりとしておりちょっとした音で気づかれてしまいそうだ。
明かりが漏れる様子からビルの明かり等ではなく、自然の光だ。つまりはまだ太陽の出ている時間であること、そして赤くないので司の意識がなくなってから最低でも半日近く意識がなかったということだ。
「なんとー!」
「うわっ!?」
突然扉が開いたことで驚いた司の声にその扉を開けた者も驚き手に持っていた桶を司目掛けて投げてしまった。
「あっ・・・・・・いゃっちゃったー」
誰かに止められる筈もなく、空を駆ける水は司のいるベッドへと降りかかり全身は土砂降りの雨にあったような姿になってしまった。
「あのーお湯じゃないから大丈夫だと思うけど・・・・・・だいじょぶ?」
「横からじゃないんで大丈夫だと思います・・・・・・はい」
「とりあえずタオル持ってきまー」
「ちょっと待っ———」
司の言葉を聞くこともなく、声の主は部屋の外へと走り出し、すぐに戻ってきた。
「今度は明かりを付けるからもーまんらいだよね!」
「リヴァイ。それ、無問題」
「そうそれ!」
「レッドフィールド。謝罪」
「え?ご、ごめんなさい?」
「先方。否。当方」
「ハルサメ!そんなんじゃ伝わらないよー。レッドフィールドさん、掛けてしまってごめんなさいってハルサメは言ってるのー」
「共有」
「そ、そうですか・・・・・・?」
あかりがついたことで桶の水をかけたトカゲのような生物とその行動に対して謝罪しようとした少女が確認出来た。
「んな、これで身体を拭いてね〜手足の拘束外すから」
トカゲのような生物と少女は桶を棚に置き司の拘束具を外していく。
「暴走。当方。危険。拘束」
「シフィルが無理矢理持ってきたから暴れてたのも無理ないけどね。汗を拭き終わったら持ってきて貰えると嬉しいな」
トカゲと少女はすぐに部屋を後にし、再び司ひとりに戻った。
「(拘束具を外してもらったわけだし光が入り込んでる窓から脱出しようか。けどこういうことしてくれたこと考えると、逃げるってのはあんまり取りたくないな。それにシフィルに連れてきた理由も聞きたいし)」
司は逃げる事はせずに渡されたタオルと水を使い汗を拭き取ると、用意されていた衣服を身にまとう。
部屋を出ると先程のふたりに加えてシフィルが司の着ていた服の切れ端を眼鏡を使って覗き込んでいた。
「少しは疲れは取れたかい?司くん」
「おかげさまで。そんでなにしてんだ?」
「君が遊んでた時と今の姿が違ってたからね。能力が多数持ってるのかなって気になって」
殆どの能力者は大まかな能力がひとつあり、それをベースとした能力ならば持つことが出来る。
側から見れば姿の変化と召喚は違う。その為に眼鏡を使っていたのだろうか?
「この服のシステム凄い代物だね。視界的だけじゃなくて物理的に変えてしまうとか、巨大人工浮島の技術力には驚かされるよ」
「はは、どうも。構造とかを切れ端だけで分かるお前さんもやべーとは思うけどな」
眼鏡を外ずし少女の持ってきたコップを受け取り、ごくごくと音を立てながら一気に飲み干す。
「ありがと」
飲み物をシフィルが飲んでいる間に司は近くのソファに座ると先程までの緩い表情から戦闘中のように変わる。
「俺の意識を奪った後どうなった?」
「彼の味方が来て回収されたよ。流石にあれ以上の戦闘行為は意味ないからね。君が誘拐された子たちを助けた時点でボクの戦闘理由は無くなったわけだし」
「だが奴らは妹たちを汚そうとしたんだぞ。それでもなのか?」
「しようとしたんでしょ?実際には起きていない。起きたのなら君の言う通りだけど、違うならあれだけで十分だと思う」
「生きてたらもう一回やって来るかもしれないだろ」
「いちどは許す。一回で毎回やってたらそれこそ敵しかいなくなる。妹を守りたいんでしょ?なら猶予は作るべきだ。常に側にいないのならね」
「・・・・・・」
言い返せず自然と頭が下がってしまう。これ以上言ってもただの言い訳でしかない。
「だけど常に家族の側にいるわけにもいかないよね。それじゃあ家族じゃない」
「じゃあどうすりゃいいんだよ?」
「それは自分で考えるんだ。ボクには君みたいに家族はいない。アドバイスは出来てもそれを使うかは君次第だ」
「シフィル。仕事」
少女がシフィルに声をかけると胸ポケットに入れていたメモ帳を取り出し、内容を確認するとすぐに立ち上がり少女と共に玄関へと向かう。
「司くん。今の君はこの家の中にいた方がいい。今の君を家族は見たくないだろうしね。そういうことでリヴァイは今日は元々留守番だから司のことちゃんと見ておくんだよ」
「任せろやい!レッドフィールド、こんな小さいやつって思ったら痛い目見るから油断するなよー」
理由を見つけれていない以上、今のままではまた成長しない日々が続くことになる。司は手を伸ばして待ってくれと口を動かそうとしたがそれをやめて再び頭を下げ抱えてしまった。
「君の成長、ボクは期待しているよ」
そう言い残してシフィルは仕事へと向かった。




