1日目の朝(7)
「がふ、がふ!」
『大丈夫ですか。マスター?』
僅かに聞こえるトリシュの声の方向を向き、頷く司だが、目が開いていない。咳も絶えず出ている。これでは隠れている意味がない。深く息を吸うにも、煙でまともに出来ない。目が赤くなる。何も見えない。多分、司はトリシュの言葉の殆どを理解できていない。ただ、音が聞こえるからそちらの方に向いて頷いただけかもしれない。
「ごふぉ、ぐっ・・・・・・」
咳き込んでいた司に煙を起こした相手は気付いたようで、足音を立てずに近づいてくる。トリシュも何かがいるとまでは分かるが、当の本人も微かに見える程度なので左右を見渡しながら司の咳を止めようと善処する。
『マスター、下がって早く!』
「がふ、どこっ!?」
『マスター!』
相手も隠れながら探すのを辞め、一気に距離を詰めて司を蹴り飛ばした。
「くっ、マスクですか・・・・・・用意周到ですね。あなた」
「・・・・・・消えろ・・・・・・これはお前が関与すべき事ではない」
「どうやって私達がここに来ると?」
「関与すべき事ではない」
「ストーカーですか?あなたは」
「関与すべき事ではない」
「話になりませんね。あなたが誰かは知りませんが、司を狙うのなら守らせていただきますよ」
「蛇の口に自ら手を突っ込むか。良いだろう・・・・・・相手になってやる」
そして、二人は戦闘を開始した。その頃、司はスネークに介抱されながら入り口に向かっていた。
「ぐっ・・・・・・」
「スネーク、まずはどこかで応急処置しないと、出血性ショック死の危険性があります」
「分かってるけど、この状況じゃまともに停止できないよ。とは言え、このままだと本当に危険だ・・・・・・状況の把握は出来た?」
「テロリストとまでしか・・・・・・」
「それは誰でも分かるよ!聞きたいのはどこのグループかって事。分かる?」
答えは返ってこないことにスネークは舌を鳴らす。部下も含めてあまり慣れていないんだろうか?襲撃者達は部屋に攻撃を仕掛けて来た以上、エレベーターを始めとして入り口も占拠している可能性が高い。多分裏口も。司だけでも逃げるとしたら窓を使うしかない。だが、ここは四階だ。それにこの身体で投げ捨てればそれこそ致命傷になりかねない。選択肢は致命傷のリスクを考えず、投げ捨てるか。それとも、今いる襲撃者を殲滅するか。後は投降するの三つだ。
「・・・・・・俺を囮にしてくれませんか。いくら相手がプロっぽくてもぐっ・・・・・・誰を狙ってるかぐらいは、俺でも分かります。それにもう殆ど血で目が見えないし。そこの広い所の植木鉢までお願いします」
スネークは周りを確認しつつ、司をゆっくり座らせる。そして、全員隠れた。
「・・・・・・よう、昨日の今日だなぁごふぅ!ごふぅ!02さんよ。まさか、部下がいたなんて思わなかった」
「よくも生きてくれたな。感謝する。言い残すことはあるか?」
「・・・・・・殺すんなら、妹たち養ってくんね・・・・・・?せめて高卒にはさせたいんだ」
「ん?妹?そんなこと聞いたことないぞ。お前の家庭環境は調べたが、そんな情報なかった。そうやって時間を稼ぐつもりか?」
首を横に振り、そんなつもりはないと否定する。血が喉と口に溜まり会話はおろか、息も出来ない。吐き出してはみるが、すぐに溜まり意味をなさない。
「出来れば対一でやりたかったが、まあ、そんなことを言っていられる身体じゃないよな。それじゃあさよならだ」
腰から拳銃を取り出し本体に弾を装填してそれを司に向ける。隙がないわけではない。それを隠れて見ていたスネークは感じていた。
02から武器を吹き飛ばすのは容易だ。しかしその反射方向までは調節できない。殺害せず確実に発砲を防ぐのならば、腕を撃つことだ。だが、今スネークが所持しているのは、確保用の弾丸ではなく殺害用の貫通型となっている。腕などという細い部分に当てれば、その貫通した弾が司に当たる可能性だってある。これは、スネークの身を隠した場所が悪かった事が原因だ。
「しょうがない・・・・・・ここから出てやるしかない。みんなは他の奴らの相手をお願い。生死は問わないから」
部下達は頷くと一目散に別の敵の場所に去って行った。それに合わせてスネークも02に近づいた。
「くっ・・・・・・!貴様仲間をどうやって!?」
「優先順位を間違えてるよ、君」
02は撃ちはしたものの、死角になるように移動していたスネークには当てられなかった。そのまま懐のマルチナイフを右腕に差し込みその場所から移動させる。
「あぁぐっ!!?何だよあの動きは!?っ!何だ!?今取り込み・・・・・・分かったよ。01しっかり生きろよ。貴様を殺るのは俺だからな。それまで死ぬなよ」
そう言い残し02は煙の中へと消えた。
「まずは、これ飲んで!ん?血で飲めないの?分かった。じゃあ・・・・・・」
ポーチから何が入っているか判らない注射器を取り出し躊躇いもなく司に打ち込むと、司は微かにあった意識を失った。スネークは司を抱えながら、部下に連絡を取る。
「皆、状況説明頼める?」
『潔いっていうんですかね。急にいなくなってしまいましたよ。それでスネーク、司という少年の容態は?』
「予断を許さないって事だけ。ここの医療器具じゃあもう無理だと思う。一応痛み止めを兼ねた睡眠薬は打ったんだけど、どこに行こうか・・・・・・」
『少年の会社に行ったらどうです?あそこは何でもやっているとこですから。スネーク。多少頭真っ白になってませんか?スネークがそんなことに気づかないなんて今までなかったでしょう?まあ、いいです。少年は私が連れて行き、車は用意するんで、表玄関に来て下さい。ああ後、少年のパートナーの子もお願いします』
了解と部下に伝えると、パワードスーツについての話をした部屋に向かう。もう煙はなくなっていて中の確認が出来た。カーペットに血がこびりついていたが、多分これは司の出血した物だろう。相手は確実に司を狙っていた可能性が高い。スネークやトリシュは一切の被害がなかった事から考えられる。勿論、司が一人で庇った可能性がないとはいえないが、それならばほぼ即死は免れないし、まず、トリシュと咳き込みながらとはいえ会話が出来るとは思えない。爆薬の量を減らしたか、それとも元からそういう物がなかったか。今は何故起きたかは後にしてトリシュを連れて行こう。そう判断するとスネークはトリシュを呼ぶ。
「司のパートナーさん、どこですか?まずは、ここを離れますよ」
声が返ってこない。部屋にはいないのか。ソファーの裏側や別の部屋も確認したが少なくとも一つ先まではいないことは確認できた。
『スネーク。少年とそのパートナーの子を確認しました。ここには何人か残して行きますので、早く』
「僕とすれ違いになっていたのかな?でも変だ。いくら撤退したとはいえ、僕とすれ違わずあの車の所まで行くなんて・・・・・・」
『早くしないと手の施しようがなくなりますよ』
「・・・・・車の番号を教えて。今から向かうから」
『玄関にある車ですよ!早y──』
「やっぱりか・・・・・・」
爆発が起きた。どのタイミングで違和感を感じたのだろうか?
「もう出てきても大丈夫だよ。二人とも。取り押さえた人もね」
司とトリシュは4階と5階の間に隙間があり、そこに隠れていたのだ。
「どうやって隠れたの?煙が充満してたときはそんな暇なかったのに」
「ええと、トリシュがその人と戦闘中に紐が垂れてきたんですよ。それを引っ張ったらあんな感じに、隠れられたんです」
「それじゃあ、あの重傷のキミは人間爆弾か何かだった可能性が高いってことだね。それなら納得がいく。あまりにも潔い撤退、準備の良い部下」
「敵が手を回していた可能性がありますね。火災もいくらか起きてるみたいですし、俺──私があなたの所に行くって知ってるのは、自分の会社の人間しか知らないですから」
「けど、02って呼ばれてた人がキミっていっても偽物だけど、探してたよ。あっちはよく知ってる様子だったけど」
「・・・・・・あのよー、さっきまで敵対してた者が言う台詞じゃねえけどよ、逃げた方が良くね?」
「何か喋り方変わったなお前」
「敵対する必要性がないんだから当然だろ。多分爆発したのは、こいつのアンドロイドとかだろうな。この作戦の指示については突入部隊には必要以上の説明がなかったからな、何でここをお前のような奴に似たアンドロイドを使ったのかは分からない。あんたらが仕事の関係でスネークっていうやつに会うだろうから、そいつを殺るためじゃないか?」
「それだったら何で僕が抱えてるときに爆発させなかったなかったんだろう?敵がどれがスネークか分からない以上、同時に多くの人間を殺害した方が効率的にも良いのに。まっ、それはそれとして、敵対したのなら容赦はしないけどね」
撤退したのが本当がどうか分からないので、アンカーを使い窓から脱出する。司はスネークに近づいて尋ねる。どうやって隠れたの見つけたのか、そして偽物をどこで気づいたのか。
「隠れたのを見つけたのは適当に呼んだらいただけのこと。偽物に気づいたのは表玄関に来て下さいって部下が言ったことだね。それまでは本物だと真面目に思ってたし。基本的に時間が無いときには自分の意思で行動しろっていってるからね」
「なるほど、それで偽物だと分かった訳か。これからはどうするんです?」
「まずは、敵対した奴等を殲滅しに行こうかな。勿論、女子供関係なくね。こちらも何人かやられた。当然だとは思わないけど、舐められるのは性に合わない。キミたちをこれ以上巻き込む訳にはいかないから、このままキミたちの会社に帰るか家に帰って欲しい」
「俺達も狙われたというか、確実に狙ってたわけだから、俺達も行きますよ」
「司!自分の力がどれほどか理解した上で──」
トリシュの口を塞ぐ。司にはどうしても行かないといけない理由が出来たのだ。02をこのまま野放しにしておけば、いつか会社にも迷惑がかかる。まともな仕事をしていないのに問題をこれ以上作る訳にはいかない。それに、スネークといれば確実に勝てるという保証は無いものの、一人でやるよりも効率が良いと言うのが、司の理由だ。
「ぷふぁ!・・・・・・分かりました。勿論私も行きますが、戦闘の場合は私が前で司が後ろでアシストをお願いします。あなたに死なれると困るので」
「いいよ。俺が前で。俺が後ろにいたら何も出来ないし、時には自分う゛っ!?」
「子供は家に帰りなさい。トリシュちゃんだったね。早く会社に戻って。今すぐに帰れば問題にはならないはずだから。それに僕だって報復でビジネス相手を失うのは痛いからね」
スネークの優しさを受け入れて、司を背負ったトリシュは司の会社に戻ることにし、スネーク達と別れた。




