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1日目の朝(6)

「しまった。何で行くか聞いて無かった」


 手土産を駅で買っていた司が呟いた。確かに分からなかったら何をすればいいか分からないし、その前に資金提供者に喧嘩を売ってるのかとか思われても、おかしくない。

「電話は・・・・・・繋がんないか。んと、トリシュはどうするべきだと思うだべさ」

「私に聞かれても、私はあそこの社員ではありませんし、その前に株主ではなく資金提供者というのが逆に怖いんです。まだ出来たばかりの会社何ですかこれ?」

「知らね。俺が勤めだしたときにはもう結構大きい会社だったし、なんかの子会社って訳じゃあ無いとは思うが、まっちゃんが言ってた会長グループ関係はみんなこう言うシステムなんじゃないか?」

「株主がいるのは、そのグループの本社だけって事なんでしょうか?それでも、資金提供者がいるのは変な気がします」

「まっ、会ってみれば分かんだろ。内容は聞き忘れたって言えばなんとかなるだろうし、その前に良い手土産買わないとな」


 トリシュと司は、相手がどんな人かも知らないので、誰でも好きそうな。ヒヨコ饅頭を買う。要らないと言われて持ち帰る時に自分でも食べられるものを司は選んだ。

「ヒヨコですか。司はどんな食べ方するんですか?」

「普通に齧りつくんだが、なんか変か?」

「本当に普通ですね」

「そういや、ニアは頭をちぎって、残りを食べてから頭を食うみたいだが、あれの何処が良いんだ・・・・・・」

「ヒヨコ饅頭の顔なかなか可愛いですから取ってるんじゃないでしょうか?

「そういうもんかねぇ。俺はよく分かんねえや。おっ、キノからメールだ」


 司の携帯の画面を見るために、顔を近づけるトリシュを司は微かに赤面する。他の人だとならないのになんでだろう。

「高層ビルが並んでますね。少なくともここから五、六キロ離れてそうです」

「いや、この辺だぞ。これ。いやぁまさか、こんな近くにあったなんてなあ。そんじゃ、土産も買ったことだし、行きますか」


 司の会社から数ブロック行った先に、資金提供者の自宅があるらしい。高層ビルが建ち並んでいるということは多分、マンション住まいなんだろう。しかしそれなら、部屋番号まで教えてくれないと、入れない。


 追加で来たメールには、地図を貼ったものが送られてきたが、地図が読めない二人には逆に分かるはずもなく、逆に迷ってしまった。

「・・・・・・交番行こうか・・・・・・このまま捜してもきりが無いし、見つけられる気がしない」

「マスターの判断に任せます」

「そう言われると、逆に考えれなくなるでしょうが。俺はトリシュ自体の意見を聞くために質問してんだ。そりゃあ、お前からすれば俺はマスターなのかもしれないけどよ、その前に俺だってまだ子供なんだよ。いくら働いているからって頭が良いわけでもないし、そんな状態で上に立たされている俺の身にもなってくれよ」

「なら、やめれば良いのでは?」

「そんな手段が取れてたらとっくの昔にやってるよ。今の時代働きながらじゃねえと明日生きていけるかも分かんねえ時代だ。トリシュみたいに力があるわけでもねえ、能力があるわけでもねえ、そんな人間はな、与えられたものをそうそう簡単に捨てられるかってんだ」

「それでは、私がどんな言葉で返しても反対するじゃないですか。そんなに聞きたいなら自分がどちら派かなのか、はっきりしてから話していただかなくては、私も返す言葉なんてありません」

「・・・・・・」


 反論出来ない司。自分でも理解はしてるんだ。けど、それでも反対したり拒否反応起こしたり、これは子供の我が侭だ。分かってる。分かってはいるのだが・・・・・・。

「まあ、そういう説教は余りしたくありませんし、その前にあなたは私のマスターだ。落ち込む必要なんてないです。ゆっくりと自分の考えをまとめていけば良いんです」

「そういうもんかな?」


 トリシュがはいと頷くのを確認した後、二人は資金提供者の自宅に向かった。

「でっけえぇ。本当にこれ1つで自宅かよ!固定資産税半端な額じゃねえなこれ」

「億とかいきそうですね。マンションとして見たら普通に四桁いきそうです」


 司は資金提供者の家に驚きで足が棒のようになり動けないようになっている。うん、確かに一軒家には見えない。どう頑張っても一軒家には見えない。とあるゲームの洋館の横だけで四倍以上は少なくともありそうだ。

「こんなところ絶対、ジャパニーズヤクザとかが戯れてそうだ・・・・・・」

「偏見は良くないですよ、司。木下さんはよく来ているらしいではありませんか」

「けどよ、やっぱ恐いもんは恐い。あいつらが耐えられるのに驚きだ」


 司は足を震わせつつも扉の前に立ち、インターフォンを押す。数秒経つと、声が返ってきた。

『どちら様でございましょうか?』

「あっ、えと、俺じゃなかった・・・・・・私は司と申します。部下の木下からこちらに資金提供者の方が居られると聞いたのですが?」

『少々お待ち下さい。今本人に確認を取って参りますので』


 緊張のあまり、司は自分の会社について言わなかった事で相手に確認をさせる面倒を掛けてしまった。今現在、彼の頭の中は真っ白だ。難しい事は考えにくい。

『お待たせしました。会長グループの松長様の社員様ですね。扉の鍵を外しますので、お入り下さい』

「あっ、どうも・・・・・・」


 中に入ると、外から見ただけでは分からない程、緻密に再現されている。そのゲームの開発元なのだろうか?床の反射の仕方や中央にある階段の構成までもそっくりだ。

 

 だが、この広さでなおかつ初めて来たんだ、何処に何があるかなんて分からない。先程インターフォンで話した人はいないのだろうか?

『そのまま階段を上がって頂くと、昇降機がございますので、それで4階までお上がりください』


 1階にはないのか、と司だけでなくトリシュも思っただろうが、そう言うのは今は関係が無い。言われた通りに階段を上がり、エレベーターに乗る。

「トリシュ、分かってるよな?爆弾発言は気を付けろよ。ニアとかに有らぬ疑いを掛けられるのは後で何とかすればいいが、今回の相手は会社に関わることだかんな。発言はちゃんと考えろよ」

「分かっています。何度も同じミスはしませんので安心してください」


 自信満々に胸を張るトリシュだが、司は逆に恐怖を感じていた。

(怖いなあ。何かミスしそうで。勿論俺も気を付けなきゃならない訳だけどさ。まあ、まだ会って一日も経ってねえんだ。ここまで信用出来てる時点で十分か)


 エレベーターが4階に着き、扉が開く。すると二人の男と一人の少女が待っていた。

「木下から大体の話は聞いてるから、早速始めようか。司。()は資金提供者の・・・・・・スネークとでも呼んでくれ」

「まさか資金提供者自ら直接お迎え、ありがとうございます」

「そんな硬くならなくていいよ。それと、その袋は土産かな?」

「はい、ヒヨコ饅頭です。口に合うか分かりませんが・・・・・・」

「いいや、大好きだから大丈夫だよ。さあ、こっちに」


 資金提供者のスネークに連れられた部屋には、ソファーや壁画等が飾ってあったものの、広さに反比例して閑散としていた。ただ広いだけなので、部屋を三回りから四回りほど小さくすれば丁度いい配置になりそうだ。

「それじゃ早速始めようか。まずは、木下からデータは貰ってるでしょ?それを見せてよ」

「(いつもはキノに任せっきりだ。多少下手でもいい。確実にこなしてみせる。あいつに出来て、俺に出来ない道理はない)」


 携帯を取り出してそれをスクリーン上に移す。スネークの部下が電気を消すと当然だが、幾つかの設計図が表示されていた。司はさらに小型レーザー照射器も取り出すと、それを使った説明を始めた。

「まずは、一番製品として出しやすい物の方からでいいですか?」

「それはキミに任せるよ。僕は聞く側であり、これらを売買するのが目的だからね」

「それでは、この左上の奴からでいきます。こいつは、型式番号GFA06、タイラントですね。タイラント──その名の通り暴君ですね───」


 GFA06(タイラント)を含めた四つの設計図を説明した後、司は出された紅茶に手を付ける。うむ。なかなか美味しい。

「───なる程、費用対効果が一番良いのは、GFA06(タイラント)な訳か」

「既存技術で作られた物を、限界までコストと性能を洗練しただけですから、当然と言えば当然何ですが・・・・・・」

「けど、三つ目のやつかな?あれは結構良い品だと思うよ。衣服としても使える薄さは便利だね。よし、三つ目と一つ目の洗練を頼めるかな?この二つは完成次第、僕らが買い取るよ」

「あ、ありがとうございます・・・・・・期待通りの性能を発揮させてみせます」

「そんな硬くならなくて良いよ───」


 司達が入った扉から一人の男が肩を激しく揺らしながら入ってきた。普通では無い。それは司でも分かるほどである。返り血かどうかは分からないが、少なくとも普通では無い。

「スネーク!逃げっ!?」

「二人共、ソファーを盾に速く隠れて!」

「何が・・・・・・」

「マスター死にたいんですか!?」

 トリシュによって引き込まれる司なのであった。

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