瞳VS司
「っ!瞳さん!」
敵意は向けるものの殺意はそこにはなくただ止めようと何の考えもなく彼女の元へと走り込む。
彼女からすれば敵対者な為、司の言葉を気にも止めず矢を放つ。
近距離とはいえ誘導する矢だ。無誘導でさえ当たるような人間である司では回避出来るはずもなく、左肩を貫こうとする。
当然回避など考えていない司は蛮刀を即座に作り出すと、その矢を弾き別方向に向いた所で矢じりを切り落とした。
流石に翼と推力を失った矢じりはコロンコロンッと音を立てて機能を失った。
それを見て次なる手を打つ為に距離を取る。司は距離を詰めなければならないのもあり、あまり縮まる事はない。
瞳は滑りながら三本の矢を同時に指に挟み同時に放つ。
中心の矢は鋭く司に向かって、残りの2本は挟み込むように飛び司へと襲いかかる。
「つぁあああ!」
中心の矢を左手の蛮刀で切り伏せたがまだ残りの2本は司へと飛んでくる。回避が出来る体勢でもないので右手から新たな蛮刀を作り右から飛んでくる矢を対処した。
最後に残った矢は司へと向かいその身体を貫く所で雷電が通り抜けるようにその矢を破壊した。
「ナイスだ雷電!」
「・・・あれがどうであれ姫なら敵対は出来ない。出来るのはこういう事だけだ」
「それでもありがたいよ!」
二本の蛮刀を握りしめ、床を力強く踏みしめて距離なんとしてでも詰めようと意識が向けていく。
「瞳さんごめん!」
右手の蛮刀を投げつけるとそれで視線を隠しつつ距離を詰めていく。さらにそれを回避させると、もう一本の蛮刀を投げつける。
「手を抜けるほど強くないからな!」
蛮刀を弓で弾くと、今度こそ司に視線を向ける。一度動きを止めさせないと無理だと判断し弓を横薙ぎに振り回した。
膝を付けて瞳の横薙ぎを回避すると武器で攻撃することもなく彼女の身体を掴み床へ叩きつけようとする。
瞳はそれを踏み止めると左足で司を蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
その蹴り飛ばしで浮き上がった所に弓を構えると狙いを強く絞る事もなく、複数の矢が司へと襲いかかる。
雷電は先程と同じように弾くが距離があまりにも近く、司への直撃を避けるのにとどまった。
「(技術はそのままに白兵戦も出来るようになってる・・・ずっと自分の殺意から、自分と向き合ってなかった俺とじゃ差が出るか・・・)」
くるりと回り着地を取ると休みなく距離を詰める。
投げた物とは別の蛮刀を新たに作り出すと、X字に下から上に切り上げる。
弓と蛮刀がぶつかり合う。上から振り落とされた弓は重く二本の蛮刀はその重みに耐えることが出来ずにヒビが入っていく。
「まだっ!」
ヒビが入ったが動きは止まった。そこを狙い右手の蛮刀を弓から離すと、逆手に持ち変えて弓の基部へとぶつける。
ギィィンと鈍い音はしたものの弓にはなんら変化がなく、逆に蛮刀は持ち手部分のみを残してバラバラに砕け散ると司の右手へと突き刺さり、包帯が剥げていく。
その瞬間司に濁流のように割れたような映像が流れていった。
「がっっあああああ!」
なんとか左手の蛮刀は離すことはなく迫り合いを続けていたが、司の視界は歪み目の前の景色でさえ、認識出来なくなっていく。
「がああああああ!!!!!」
殺意が右手と瞳に向かっていく。耐えられるとは思えず、どこかにぶつけないと持たないと悟る。
「司っ!」
雷電は司の元に向かおうとするが、当然瞳も好きにさせる筈もなく大量の矢を隙間なく撃ち続ける。
「くっ!」
間に入り司に手を伸ばすことは可能だろう。しかし助けに入ったとしても矢は残っている。1人の人間を抱えたままそれを処理するのは難しい。
処理している間に司を仕留められるだけの矢を撃ち込むと、司の足下に弓の刃を振り下ろした。
「があああああああああ!!!!!」
ただ刺すだけではない。汁物を混ぜるようにグリグリと動かし司の足を抉っていく。
悲鳴でもなんでもないただの叫び声をあげる司を気にも止めずに更に大きくすると、司は電源を失い非常用電源に移った機械のようにがくんと膝をついたまま止まった。
「姫・・・やめろ!」
雷電の呼ぶ声は届かず最後の一撃を放つ為に弓を持ち上げると、勢いよく振り下ろした。
刃が地面に当たり金属音が鳴り響いた。
仕留められたと思った司はいつになっても衝撃が走らない事に違和感を覚えて機能しない視界を動かすとどさりと自分の身体に誰かが倒れ込んでいた。
「・・・・・・え?」
状況が読み込めていなかったが十中八九瞳だろうと判断した司はなんとか動く左手を動かすと人間の身体からは考えられないほどの熱気を帯びた部分に触れた。
「ひ、瞳さん・・・・・・?」
ガチャンガチャンと音を立てながら鎧を着込んだ人間が奥から現れる。
『最後に決めるのはオレだと伝えただろう。所詮は化け物、命令もまともにこなせないのか・・・使えんな』
機械音声のせいかだれか分からない。しかしそれは雷電だけで、司はだれか即座に認識する。
「あんた・・・自分の仲間でさえ殺すのか!フェイカー!」
身体の血液が沸騰する。視界は赤く染まっていたが確認は出来る様になった。
鎧の人間は左手には身体が隠れる程の盾を、右手には改造の施された小機関銃を持っていた。
『化け物同士守り合いたい気持ちは理解できるがな。だがここでするな。冥界でやっていろ。レッドフィールド』
小機関銃を司に向けると瞳ごと司へと発砲した。