1日目の朝(3)
結構目立ってしまったが、それ以外は何の問題もなく会社に着いた。トリシュが社員でない以上司が昨日使用した出入口は使えない。そう言うことで、一般の出入口から入ることになってしまった司とトリシュは、足止めを食っていた。
「俺はここの社員なんだから入れてくれってば」
「と言われましても、登録情報が無いんですよ。お客様」
「だから客じゃないって、何度言えば分かんだよ。それなら、社長を呼んでくれよ」
「予定に入っていない方を、会わせることは致しかねます」
「ああぁもういいよっ!ありがとうございました!」
「またのご利用をお待ちしております」
結局中に入れず文句を言い続けている司と、それを落ち着かせようとするトリシュの2人の状況は、先ほどと比べ人自体が余りいないので目立ってないようだ。
「ああぁこれだから最近の若い奴は、応用力がねえんだよ。応用力が」
「知らない方を入れる人なんて、普通はいませんからあれぐらいで怒らないでください。怒ったっていいことありませんよ?その前にあれは、アンドロイドですから応用力なんて教育型AIでも搭載してない限りありませんし」
「ってもよぉ。俺の登録情報がないって言うのは変だろ。非正規社員は登録されてねえみたいな扱いだ。これならタグが貰えねえ雑兵の変わんねえよ」
携帯がまた鳴る。先ほどと同じ相手のようだ。
「分かってはいんだけどさ。俺の登録情報がねえんだよ。そう言うわけで下まで着てくれますかね?まっちゃんや」
おう、と答え携帯を閉じると司は、ふうと息を吐くと、裏側に行くとトリシュに伝え歩き出す。
「何故司のが使えないか分かったんですか?」
「んや。ただ調べれば分かるかもしれないらしいからって事で裏口に来いだってさ」
トリシュは裏口が主に司が使う入口だと言うことを知らないようで、首を傾げている。当然かというよりも、昨日あったばかりの人間を連れて来ている時点で結構まずい。本当に味方かどうかが分からないのにさ。
「おーす。まっちゃんや。久しぶりだな」
「昨日あったばかりだろ・・・・・・。その子は?」
「トリシューラ。俺はトリシュって呼んでるがな」
「ほうほう・・・・・・。(どうやってあんな可愛い子口説いたんだ。てか、お前シスコンだろ?)」
「(細けえ事は気にすんな。俺は可愛い子にはみんな平等だ。てかシスコンじゃねえよ)ソンで、どうやって俺が表から入れないのを確認するんだ?」
「ああ、表は一般社員しかは入れねえんだよ。言ってなかったか?」
「なんかあそこの部は全員一般社員じゃないみたいな言い方だな。俺が一般社員じゃないのは理解できるが」
つまりは、学生を表だって社員としては扱えないのは、世論の反発を抑えたいから何だろうか。じゃあ雇うなよと突っ込んではいけないか。
「そう言うわけじゃねえんだが、上がうるさくてな。学生は能力があっても契約までにしろって言うのが決まりなんだよ」
「じゃあ、ニアやカオルもってことなのか。そうなると、お前も非正規社員なのか?」
「俺は例外で、会長グループの人間だからな。強制的に働かされるんだ」
「かいなが?何じゃそりゃ。聞いたことねえぞ?」
「俺はそれの下っ端だから詳しいことは分かんねえんだが、まあ、大財閥レベルの企業って事は確かだ」
「じゃあ、喧嘩売らないようにしないと社会的に殺されるな」
「そうだ、そうだ。俺には逆らうなってこった!はっはっは」
多少小者感がするが、2人は微笑し合う。トリシュは完全に輪の外状態だ。
「そういやお前何で表から入ろうとしたんだ?」
「こいつがいるからさ、いつも使ってるとこは駄目かなって思った訳よ」
「私のせいで迷惑を・・・・・・」
「「気にすんな。可愛い奴は正義だ。俺達みたいな変態は扱き使っていいんだ」」
「何故重ねて言ってるんですか!?」
「そりゃ、俺達は紳士という名の変態だかんな」
「俺を巻き込むなシスコン」
「だから、シスコンじゃねえ!」
「おっ?やるか?その喧嘩受けて立つぜ!」
「あの・・・・・・やるなら屋内でやった方が目立たないと思うんですが?」
首を絞められている司と松長は数秒停止した後、そうだなとトリシュの正論に肯定した。
「かふっかふっ・・・・・・結構入ってたぞ。まっちゃんや」
「入れたんだよ。すまねえが喧嘩の続きは帰ってからな」
「何だよ。俺達を迎えに来たんじゃないのか?」
「初めはそうだったんだが、会長グループのメンバーに呼ばれてな。至急そこに行かないと行けなくなったんだわ。と言うことでじゃな」
司の返事を聞く前に、さっさと車に乗り込む松長。本当に急いでいたようだ。
「どうするんです司?私はカードとか持っていませんし」
「今から帰えんのも面倒だがらな。まっちゃんが帰ってくるまで近くのカフェで時間つぶすかそれとも、俺だけ会社に入ってお前だけ外で待つか」
「司の判断に任せます。貴方は私のマスターですから」
「だから、俺はお前にマスターって呼ばれるほどの力なんて無いんだからさ、せめて同等か四分六にしてくれ」
司はうーむと数秒悩んでから、2人で入ろうっということにした。あれ?カードとかなきゃ入れないんじゃ。トリシュも同じように思い、尋ねた。
「俺が通った後にトリシュに俺のカードを渡せば余裕で通れるやろ。多分。成せば成るってやつだよ、きっと」
これには苦笑するしかないトリシュだったが、昨日今日の相手に信頼を少しでも得ようとする司の行動は、意味がある。かもしれない。