1日目の朝(2)
目から塩の水を滝のように流す司をどうするかと考えるトリシュ。
「ああ・・・・・・えっとマスター?」
「もう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だブッッバ!?」
「もういい加減にしてください。いくらなんでも引きずりすぎです」
「ふーんだ。どうせ俺の事なんてどうでもいいんだ。百合でもやっとけばいいんだ。ぼくちん仕事してくるから、トリシュは家にいてくだせえ」
口調が幾つかおかしい気がするが、まあ今はそういうキャラなんだろう。そう判断し手を出さない結論を出したトリシュは、静かにリビングを出た。それを確認した司はむくりと起き上がり、チャンネルを取ると、
「・・・・・・溜まったアニメでも見るか」
と呟き、録画した物を見始めた。
ちょっと待てよ。人に任せて自分は何してるんだ。手伝った方がいろんな意味で楽だろ。その前に仕事しろ仕事。
「司。これはどこにたためばいいですか?───って何見てるんです?なんか恋愛系のアニメっぽいですが」
「恋愛?違う違う。主人公が不倫しまくるっていう泥沼アニメだよ」
「不倫ですか・・・・・・なんか最後に殺されそうですね」
「人間の欲を否定するわけじゃないが、パーティー型はどうかだと思わされるアニメだからさぁ、非難浴び易いんだよ。けど、それがいい」
ふっふっふと不適な笑みを出す変態の司をうわぁ・・・・・・とガン引きで見るトリシュ。当然だ。誰だってそんなの見たら引く。引かない奴はそうはいない。
「ん?どした?」
「まだあって数時間だというのに、相手に変なイメージ付けていいんですかって思ったんです」
「でぇ丈夫だ。問題ない」
「いやいや、問題しかないでしょう。だから妹さん達からあんな目に遭うんです」
「家族にしばかれるのは問題じゃねぇから、いいのさ。まっ、残りは帰ってから見るか。トリシュ行くぞ」
「そうしたいのですが、衣服はどこにしまえば?」
「そんじゃあそれをやってから行くか」
トリシュが、ええと答えると、洗濯乾燥も終わった衣服達をそれを着る者の部屋に閉まっていく。この時、司はトリシュに軽く説明しながらだったので、思ったより時間が掛かった。
「へぇ、終わった終わった。久しぶりにやったから、結構疲れるな。この作業」
「いつもはやってないんですか?」
「まあな。やろうとしても、二人がいいからって。そうされると、兄のプライドが薄れていく・・・・・・」
「家族思いな妹さん達なんですね」
「そういうことにはなるんだろうな」
やることは済ませたので、司はブックスを。トリシュは昨夜持ってきた物を持って、松長の会社に向かった。
───おおぉ、綺麗な子やな───
───あの感じやと、あいつのか?───
「(やっぱりバイク通勤の方が目立たなくていいな。まったくよぉなんでこうなっちまんったんだ)」
トリシュも周りの目特に、男子学生からの熱い視線が送られ、困惑しているようだ。司は逆に睨まれてるみたい。
「司。今日は土曜、学校は休みでは?」
「ああ、休みだよ。部活に行く奴以外はな」
「ぶかつ?」
「~~がしたいってのがあったとする。その~~のために集まったグループみたいなもんだよ」
「何か楽しそうな思い出になりそうな物ですね、そのぶかつっていうのは」
まあなと答えてはいるものの、何か部活には思い入れがあるのだろうか、司は自分の学校の方向を向いていた。この場合、見ようによっては行きたいけど行けない人みたいだ。まあ、バイトがあるならしょうがないね。
司の携帯が鳴ったので、画面を右から左へ引っ張って、電話相手と話し始める。
「ほい、ほい。分かってるって、今会社に向かってっから、それまで待ってちょ。そんじゃ」
ささっと電話を済ませた司は、心底面倒だなと顔に出しつつトリシュに話そうとする。
「んーと、何から話せばいいか、まあ、多少でいいよな?」
「あまり企業的な事は外で話さない方が、それに、私はあなたを疑うつもりはありませんし」
お前がそう言うなら・・・・・・。司は、それ以降、会社についての事は外で言わないようにしようと、心に決めた。まあ、三歩ほど歩けば忘れるから、何の意味もないけれど。
「(さっきから何か見られてる気がする。被害妄想だろ、トリシュは俺よりも反射と思考両方とも上だろうし、そのあいつが気づいてないんだ。そうに違いない。・・・・・・てか、なんで俺はここまでトリシュを信用してるんだ?助けられたからか?)」
ぶつぶつ独り言のオンパレードな司をほっといて、トリシュは周りを警戒していた。昨日司を襲った男に敵意を向けていたときの目にそっくりだ。やっぱり誰かいるのだろう。
トリシュはそれに関して一切司に声を掛けていない。トリシュも司と同じように信じ切れてないのか、それとも司が気づいていることが目に見えるので、その必要性がないからか。
「なあ、トリシュ。太陽照ってるときに奇襲って作戦としてはどうなんだ?俺さ、漫画でしかそういうの見たことないからさ」
「あの男が、騎士道とか何とかいうような方でなければ、目立つ昼間は襲撃してくることはないでしょう。特に、殺害目的の場合は、余計確率は低くなります」
安心したのか、ふうと息を吐くと司は腰にあるブックスを取り出すのと同時に、カオちゃんが出てきた。
「おいおいカオちゃんや、命令なしで出てくるなって。夜なら目立たないからいいけど、今は太陽照ってる訳やし」
「イギ・・・・・・」
涙目になりつつも、カオちゃんは渋々ブックスへ戻っていった。