巨大人工浮島《ギガフロート》3
「(監視がキツくなったな・・・)」
司は後ろを振り返らず、窓ガラスや携帯の反射で背後を確認していると、見たことのない男女が司の後を追っていた。
『そりゃ自由時間って言えばこうもなるよ。・・・右に曲がって』
「(何かあるのか?)」
『いいからいいから〜』
レッドフィールドに言われるがままに右へ曲がり、監視の人間たちはそれを追うために曲がった司を追う。
1番近くにいた男が曲がったが司の姿は消えており、いたのは一般的な人たちだった。
左右を見渡すが抜けられるような場所はない。男が進んでいくと同時に赤髪の少女が司が曲がる前までいた道に出て歩いていく。
少女は口に笑みを浮かべつつ素早くその場を離れて、近くの公園のベンチに座る。
「裏切ったとか思われないかねぇ・・・」
少女は独りごちる。
「監視しているって言っても中まではしていなかったって訳だ」
被っていたフードを外すと、そこにはパーカーを脱いだ時の司だった。
『監視(笑)ってやつだったみたいだね。業務用のスーパーが近くにあるみたいだからそこで飲み物買ってこっか』
「そうだな。炭酸でいいか?」
『お茶はいくらでも補給されるしね』
司は立ち上がると、バランスを崩しビターンッと顔から地面に倒れてしまった。
「つぅぅぅぅ!身体のサイズ考えてなかった・・・クッソ痛え」
『ちょっとボクの身体でもあるんだから傷つけないでよね』
「はぁ・・・キレそう」
『勝手にキレてれば?』
スーパーでありったけの物を買った司は、口に頬張るリスのように多くの飲料水を抱える。
「いやぁ本当巨大人工浮島にもいい所あんだなぁ。カオちゃんたち呼べるのおかげで自分への負担が減る減る」
司程ではないにせよ、カオちゃんとチェンちゃん、そしてトロワの3体の使い魔たちは同じように運んでいた。
「ムギュー!」
「家に着いたら飲んでいいから頑張れ頑張れ」
「ムギュー!」
『いろんな意味でしっかり使い魔使ってるね・・・』
「だけど、エレベーター1つでこんなに変わるもんなんだな。能力者はこっちの方が住みやすいんじゃないのか?ニアとかもさ」
『何でだろうねー』
抱えた飲料水を玄関に置いた所で後ろから肩を掴まれると、引っ張られて拳で強く殴られる。
「自分の立場———はぁはぁ、わかってんのか!」
「痛っ!こっちだってなぁ!ずっと監視が続いてて嫌になったんだよ!」
「知るか!これだからその名前の重さを理解してない人間はさぁ!」
胸ぐらを掴み持ち上げるともう1発入れる。
「監視する側の気持ちも考えろ!レッドフィールド」
「2度もぶったな!」
「言葉で聞かんような奴に修正を入れて何が悪い!」
「んじゃと・・・・・・」
慌てふためきその場でぐるぐる回り続けるカオちゃんたちを背後に、口喧嘩を始めた監視の人間の1人と司。
「てか監視とか言いながら、俺の女状態に気づかないような奴に監視なんて出来ませんよー!」
「なんだとぉ・・・」
「やーい言い返せないだろー!あっ、もし今暴力で抑えようとしたらあんたの負けですぜー」
「くっ・・・」
煽りに煽りを重ねて一触即発の状態になるが、そこで司はなにかを閃いたのか玄関に戻ると飲料水が1ダース入った箱をその男に渡す。
「今回はこれで勘弁してくれ」
「買収か?」
「そんなつもりはないよ。そんなに疑うなよな」
男はどうしようと迷い頂いた。
「はいこれでチャラな」
「やっぱり買収じゃねえか。これは証拠として押収するからな」
「どうぞご自由にーそんじゃあお疲れ様でした」
男に箱を渡した司は家に入ると、へなへなと倒れ床に伏せる。
「ちかれた・・・今日はさっさと寝らあ」
『知らない人と話すのは疲れるもんねー。というかさっきの面白かったよー』
「お前のせいでこうなったんですけど」
『それなら変わってって言えば良かったのにねー』
「本当、相棒には負けてばかりだよったく」
カオちゃんたちに殆どの飲料水を運ばせながら、疲労した身体で自室に上がった司はカオちゃんたちが運んだ1部を冷蔵庫に入れて、別の4本をコップと共に取り出していく。
「最近こういうの飲めなかったからなー」
カオちゃんたちは近くの椅子を登り、司の置いたコップの前に立つとくれくれと手を伸ばす。
「焦んな焦んな。全員分があるんだからさ」
『ボクのは?』
「俺と兼用だ。同じ身体なんだから一緒に味わおうさ」
『ボクも単体で欲しい!』
聞きたくないのか耳に手を当てて「聞こえないー」と適当に答える。
『じゃあ表に出させてー明日になったらまた飲めるでしょ?それに少しの時間だけとは言え僕ビャー!?』
うるせいと言わんばかりに頭を振り、レッドフィールドの言葉を遮り、その間に飲料水の栓を開きそのまま飲む。
『ふみゃー・・・・・・って!ボクの分!』
「ぷふー。お前がうるさくしなければよかったなー」
『殺意の波動を感じる・・・んだぁぁぁ!』
「ふぎゅ!」
身体をフラつかせると、すぐにパーカーを脱ぎ捨てて少女の姿で残りの分を飲み始める。
司とレッドフィールドが揉めている間にカオちゃんとチェンちゃんは机に登り、カオちゃんが飲料水の栓を外しチェンちゃんはコップを支えて注いでいた。
「ギー!」
3つのコップに注ぐと、レッドフィールドにコップを近づける。
「ボクの方が力は上だから負けないよーだ!・・・カオちゃんどうしたの?」
カオちゃんが何度かコップを近づけると、やっとわかったのか頭に閃きマークが付きそうな表情をしていた。
「これでいいのかな?」
「ヤター!」
1人ずつのコップと重ね合わせると、全員が同時にそれに口を付けた。
「うむ。疲れた後の炭酸は最高だ!」
レッドフィールドは司を表に出せないようにしながら、カオちゃんたちと久しぶりの休憩を始めた。