1日目の朝(1)
「へぐっ!」
ソファーを寝床にしていた司は、頭から大胆に床に落ちた。痛そうだなあ。
「っうううう……ついてねえ」
数秒床を転げ回った後、打った所を押さえながら立ち上がると、風呂場に向かった。
「(そんいや昨日風呂に入ってなかったな。あんだけ殴られたり吹き飛ばされたりしたら、絶対汚れてるよな)」
風呂場に幾つか着替えがあるのでそれを先に出し、ブックスや財布などを取り出してから服を脱ぐ。サービスシーンはカット!
シャワーを浴び綺麗さっぱりした司は、ブックスの中を見る。正しくは読むの方が正しいだろうが、文章は殆どなく絵のみなので見るという表現でも、あながち間違ってない。
「(あいつは俺がマスターだといった。けど、ブックスには描かれてない。俺はブックスからしか契約は出来ないのにどういうことなんだ)」
読みながらリビングに戻るが、どのページにもトリシューラという絵及び文字はない。
司は諦めたようで、松長の所に行くかと呟いたあとリビングのテレビを電源を入れる。
『昨夜未明、高速レーンでの事故がありました。バイク一台のみ現場に残されており、警察……』
プチッと、電源を切る。
「あのやろう……片付けといてって頼んでおいたってのによお」
「司兄のバイクだったの?さっきの」
「お、おう……そういう訳ですまないが今日は送れそうにねえ」
「もしあったとしても、怪我人に働かせられないよ。司兄いつも働いてるもん。時には休まなきゃ」
「ううっ、こんなにいい妹を持って私は幸せだよ」
そう言って司のフォローをするモモの頭を撫でる。無論、寝ているクルミもだ。
昨日の怪我はあまり酷くなかったようで、司はピンピンしている。まず、バイクから落ちてるのにもかかわらず、普通に家で腹筋しているんだが。元から鍛えていたと言うことかな?それとも無理をしているのか、どちらかなんて本人にも分からない。
「司兄出来たら、上のトリシューラさんだったかな?下へ連れて来てくれる?もうすぐご飯だから」
「それは構わんが、本当にすまないな。勝手に連れてきてその上部屋を貸すなんてさ」
気にしないでと笑顔を見せるモモ。何か無理しているように見えるけれど、大丈夫なのか。
司は自分の部屋にノックもせず入る。今は他人に貸しているとはいえ、誰かが入っているっていうのが分かるならば、普通はノックするでしょ。馬鹿なのか寝ぼけているのか。トリシューラがいるというのが分かって来ているとは思えない行動ですね。
「ウィーーッすおはようグッドモーニング。他人の慣れてない部屋で寝るのはどうかね?トリシュ───ってあれ?まだ寝てたか」
掛け布団が大きく膨らんでいるので、あの中に丸まって寝ているのだろう。司はそれにゆっくりと近付き、がばっと布団を剥ぐ。
「あれま、いなかった。何処行ったんだあいつ」
「後ろですよ。司」
「ノバァ!?ちょちょ、びっくり仰天ぎょろりんちょだよ!全く。あの男が襲って来たかと思うだろうが!」
結構本気でキレているの司を理解出来ないトリシュ。
「トリシュ。いくらなんでもそれはないぞ。朝から驚かせられる俺の身にもなってくれ。お前は俺を守るんだろ?びっくりして心臓が止まったらどうすんだ!」
「蘇生します」
「guesswhat《そりゃあないぜ》!毎回毎回されたら、堪ったもんじゃねえよそれ!それに死ぬなら寝ながら死にたい」
「つまり、毒殺がいいと」
「何でだよ!いや、確かに尊厳死ってのはあるけどさ、俺はそう言うのじゃなくて、お休み~ちーんがいいんだ!看取られながらな」
「は、はあ……」
「ああ!もういいよ!下行くぞ、下。朝飯食うぞ」
「え、私も宜しいのですか?」
「当たぼうよ。俺はお前のマスターなんだろ?場所の提供と飯の提供は当然だろ」
「なら、お言葉に甘えて。それで、……」
階段を半分ほど降りたところで、トリシュが小声で質問してきた。司は内容を聞いていなかったのか、なんの反応もせずリビングの扉を開け入って行ったので、トリシュも少し遅れてその後を追う。そりゃあ、話しかけてスルーされれば、誰だって後を追うような状態になる。
リビングにはもう食事が並べられており、見ているこっちが食べたくなるような構成だ。相変わらず、クルミはテーブルに伏せているだけかと思ったらモモも伏せていた。
「(やっぱり、いきなり赤の他人を家に入れたら、そうなるわな。もうちょっと2人のこと考えるべきだった)」
「あっ、司兄さん。おはよう」
「ああ、おはよう。2人ともすまないな。まったく何の相談もなく彼女を家に泊めて。今日からまっちゃんの所に行かせるから」
「んなばっ!?本当に?」
司は笑顔でああ、と答える。何でだろ。妹達が僅かにだが喜んでるように見える。兄妹って何年も一緒にいると嫌になるから普通出てった方が嬉しいと感じると思っているんだけど、違うのかな。
「ですが、それではあなたの身が危険だ」
「すーぱー美少女に常に守って貰わなきゃいけないほど柔じゃない。でえ丈夫だって。俺を誰だと思ってる」
「赤点王」
「追試王」
「ロリコン」
「最初の2つは認めるが、最後のロリコンはなんだよ!俺が好きなのは合法ロリだ。てか、いつ調べた!?」
「変わんないじゃんそれ」
「変わらないね」
「変わりませんね」
「ぐっっが!?グッッゲブッッバ!?モウヤメテ!司のライフはゼロデスゼ……」
「マダマダイクゼエ!」
「ぴぎゃあああああ!」
「モモ。もう充分。司兄さんがいろんな意味で死んじゃう」
「そうだそうだ!僕だっていい加減怒っちゃうぞ!」
「……さっきの訂正。もっとしばこう。トリシューラさん一緒にどうですか?」
「えぇ?……私は結構です」
「トリシュへるぷみー!ぎゃあああああ!」
「あなたが悪いので」
「こ…この薄情者ーー!」
仲がいいのかそうでないのか、分からないが、妹達にしばかれる司君。元気いっぱいだということにしておこう。それにしても、トリシュの適応力の高さだ。もちろん妹達も司も高いがそれを軽く越えている。そのせいかどうかは分からないが、席の数の問題で、1人別席で食べることになった司は、目から塩の水をを流しながら摂ることになった。
もう嫌だああああああああああああ!とのたうちまわる司を放置して、妹達は学校へ行った。