オリバー作戦
俺は今、二式飛行艇の機内にいる。
窓を覗くと辺りは薄暗くなってきている。
少し後方に目を向けると二式飛行艇が見える
おそらく反対側にももう一機居るはずだ。
日本を出たのは昨日の朝四時だった。
最初の目的地のリング島に着いたのは夕方の
五時過ぎで約十三時間かかった。
途中いくつかの島が見えたがそれ以外は
見渡す限り海しか無く機内では時間を持て余し
ていた。
リング島からの夕日はとても綺麗で今戦争が
起きていることを忘れさせてくれる。
リング島は四方約七キロくらいの島で日本と
ユカラシア国との約中間に位置していて
日本から最も遠い日本固有の領土のようだ。
島には海軍の基地と飛行場、陸軍が駐屯して
いるせいもあり飲食店や商店街を営む民間人も
多く生活していて結構活気づいていた。
リング島に一晩泊まり補給と整備を済ませ
今日の朝四時に出発し洋上補給するため
リング島から三千五百キロの地点で
第六水雷戦隊の旗艦多摩と合流、補給を受けた
当初は駆逐艦の予定だったけど航空燃料等の
諸事情で軽巡多摩が駆り出された。
急いで補給を済ませ多摩と別れたのは昼の
一時を回っていた。
そして今、夜の七時半ユカラシア国沖合い
二十キロの地点を飛行している。
一番機に俺は乗っている、他に高橋と陸戦隊の
隊員が四名とゴムボート二隻、二番機と三番機
にはそれぞれ陸戦隊四名と六十キロ爆弾が
十三発が積まさっていて、武装も二十ミリ機関砲
が五丁と十二ミリ機銃一丁と以外と重武装で
心強い。六十キロ爆弾は小野が万が一の為
どうしても積んでいってほしいと言うから
積んできたが、使うことのない様な結果で
終わる事を俺は願っていた。
すると機内マイクから機長の太田少尉の声が
聞こえて我にかえった。
「長官!目標地点まであと五分です」
「分かった」
菊地が返事を返すと会話を聞いていた陸戦隊の
隊長である山田大尉が部下に準備するよう指示
を出している。
三機の二式飛行艇は無事に目標地点に着水、
二隻のゴムボートに乗り込み浜辺を目指す。
「それでは太田機長、作戦通り頼む!」
「ハッ!長官もご無事でお戻りください」
「分かった!」
エンジンをかけ二隻のゴムボートは集合地点を
目指す。全員黒一色で顔も黒く塗っている
せいで目だけギラギラしている。
浜辺に近づくとエンジンを止めてオールで漕ぐ。
辺りは暗く集合地点が目視しづらい事から時間に
なったら浜辺からライトを点灯して合図する事に
なっていた。
「長官!ライトを確認しました、我々は少し流さ
れているようです!」
「このまま直進して陸に上がってから向かおう」
「ハッ!」
浜辺に近づきゴムボートを降りて周りを警戒
しながら上陸する。安全を確認したあと
ゴムボートを茂みに隠して砂浜を林に沿って
進む。砂浜は10メートル位でそこからは
背の高い木々が立ち並ぶ林になっていた。
300メートルほど進んでいくと人の気配が
したので立ち止まった。
「諜報員の吹田少尉であります!」
吹田が屈みながら敬礼して菊地が答礼する
「ご苦労さん、後ろの人は?」
吹田の後ろには歳は三十くらいの目の青い
女性が立っていた。
「ハッ!彼女はレジスタンス活動をしておりまして
我々も色々と力を借りております」
「キャリーです、初めまして」
「日本海軍の菊地です、今日はお世話になります」
菊地は挨拶を済ませて早速本題に入る
「吹田少尉、作戦通りに事はすすんでいるか?」
吹田とキャリーは目を合わせ、言いづらそうに
話し始める。
「ハッ、長官それが今日の朝にオリバーと家族が
他に移されまして、つい先程居場所が判明したの
ですが、ここから東に六キロにあります飛行場の ようで明日の朝にガルーナに移送されるようなの です。」
菊地は振り返り山田大尉や高橋少佐らの顔を
見渡してどうする?といいたげな顔をした。
吹田は話しを続ける。
「飛行場には最低でも一個中隊が警備について
いて戦闘機も駐機している模様であります」
「飛行場のどこに居るのか判っているのか?」
「いえ、そこまでは判っておりませんが小さな
飛行場らしく建物も多くないそうであります」
菊地は山田や高橋らにどうするか相談した。
しばらく議論して行くとユカラシア国は占領
以来、九時以降の外出は禁止していて
見つかったら逮捕される事をキャリーから聞く。
時計を見るとすでに九時を回っているので徒歩で 移動していたら仮に連れ出せても陽が昇ってし まって危険が増してしまう。かと言って車を
使ったら目立ったしょうがない。
皆良い策を考えてはいるがなかなか良い案が
出てこない、自然と皆の視線が菊地に集まる。
「中止はあり得ない、今を逃してガルーナに
行かれたら手も足も出なくなる!悩んでいる
時間も無いから強攻策で行く!吹田少尉
車は有るのか?」
「ハッ!トラックが一台、林に隠しております」
「判った!では皆、私の案を聞いてくれ」
菊地の周りに皆集まり作戦を決めていく。
あまりに無鉄砲とも言える作戦だと誰もが
思ったに違いないがそれも仕方のない事で
飛行場の詳しい地図があるわけでもなく
敵の配置やオリバーが何処にいるのかさえ
判らないのだから。
彼等が黙って聞いているのは、目の前に
司令長官が自ら指揮をとって共に戦う姿を
見ているからで、彼等の志気は自然と高まって
いた。一通り大ざっぱな内容を話し菊地は
山田大尉に無線を用意するように頼む。
二式飛行艇 一番機 機内
「機長、そろそろココを離れませんと」
そう機長に促しているのは副操縦士の大野だった
「長官達が出発してからどれくらいたった?」
「そろそろ一時間が経ちます、作戦内容で行けば
長官達を降ろした後、三十分現場海域を浮遊し
無線通信がなければ沖合いに移動し合流時間が
来るまで待機となっていたはずです。
もし我々が敵に見つかりでもしたらそれこそ
マズいのではありませんか?」
機長の太田も作戦内容は判っている。
ただ、太田は元々心配症な性格であり、もしも
長官達に何か問題が起きたとき沖合いに出て
しまったら、この劣悪な無線機では状況次第
では通信が出来ない可能性があるから出来る
だけ浜辺近くに居たかったのであった。
「そうだな、大野の言う通りだ離水準備に入る
二番機、三機機にも伝えてくれ」
太田が決断したと同時に通信員に無線が入った
「ザーーザ……こち…ら菊地…機長……太…ザ」
機長!長官から無線が入って来ました
太田は急いで通信員の元に行き耳にヘッドホン
を当てる、雑音が酷くて聞き取りづらいが
言っている事は何となく理解出来た。しかし
太田が返事をしてもこちらの言っている事は
聞こえていないらしく会話が成立しない。
確認は取れないが太田は作戦が変更になったと
判断し長官の言った通りの行動に移ることにした
「お前たち作戦は変更になった!三十分後に
離水し作戦地域に向かう、機銃や爆弾の点検
を済ましておけ!」
菊地達は太田からの返事を待つがなかなか
返事が返ってこない、かと言って待っている
時間も無いので伝わっている事を信じて
菊地達も行動に移った。
作戦の決行時間は二十三時ちょうどである。