小野参謀長
次の日
小野少尉は菊地を軍令部に降ろした後
車を停め車両部室に入って行くと
上官に呼び止められた。
「小野!貴様、長官にどう取り次いだのだ?
本日付けで貴様に移動命令が出ておる!」
小野少尉は昨日、長官につい失礼な事を言って
しまったのを思い出し、次はどこに移動
させられるのかと思った。
「小野少尉!貴様を本日付けで司令長官参謀長
とする、また三階級特進とし少佐に命ずる」
言い終わると上官は小野少尉の肩を叩き
「良かったな」と、小野少尉に言った。
小野少尉は長官室まで走った、長官室の
ドアを叩き中から「入れ」と返事が返ってくる。
「小野少尉入ります!」
中に入ると菊地が座っていた。
小野少尉が菊地に口を開こうとしたら菊地が
手を上げて制した。
「昨日お前が車を回している間、山口さんから
色々聞いてな」
「長官、あいつの失礼を許してやって下さい
小野は元々、作戦部におったんですよ
結構優秀で卓上の模擬戦闘ではほぼ負けた
事が無いほどです。
しかしある時期から飛行機の可能性を
言い始めまして周りは勿論、上層部に
やっかまれて移動になったんですわ。
同期の奴らは出世していくのに奴は
車の運転手ですわ。
さっき小野が言っていた大鑑巨砲主義ですが
私もそう思っておりました。
しかし小野から何度も何度も飛行機の優位制
を聞いている内に少しは飛行機の可能性を
理解しましたか、海軍は頑固者が多く
小野の存在が邪魔になり車両部に飛ばした
んですよ。
しかし今日、長官が飛行機について話している
のを聞いていてつい熱くなって、自分の考えを
否定してきた者達から言われてきた事を長官に
ぶつけてしまったのでしょう」
菊地は小野の目を見て言った
「小野少佐、これからは航空母艦と飛行機
の時代だ!お前にまだ情熱が残っているなら
俺に力を貸せ!」情熱的に言ってみせた。
小野少佐は目頭が熱くなったがこらえ
敬礼をしながら「お供させていただきます」と
がなった。
「早速だが小野少佐、海軍の兵器類はどこで
造られている?」
「ハッ!生産は民間がしており、開発は兵器開発部
が民間と共に行っております。」
「よしじゃあ今からそこに行こう、我々には
時間がない」
「ハッ!私も長官を開発部にお連れしたかった
ので丁度良かったです」
「おっそうか!じゃあ行こう」
二人は小野少佐の運転で開発部に向かった
開発部は軍令部から車で30分位の所にある。
建物が何棟も連なり前には海が広がり
飛行場もある。
建物に入ると小野少佐が一人の将校を連れて
きた。
「開発部、部長の平田少佐であります」
平田少佐は敬礼をしながら挨拶をした。
菊地は答礼して早速本題に入った。
「平田少佐、今ある高射砲の性能を知って
いますか?」
「ハッ!12㎝砲で毎分14発、射程14000、
10㎝砲で毎分19発、射程19000であると
思います」
「どちらがより多くの弾幕を張れますかね」
菊地が平田少佐に質問した。
「ハッ!どちらも実戦に使われておりませんから
何とも言えませんが…10㎝砲ですかね」
平田少佐が答えると菊地は少し考えた
「平田少佐、10㎝砲は毎分19発と言いましたが、
どうでしょ毎分35発を連装砲で一機70発打てる
ように改良出来ませんか?もちろん回転は自動
でお願いしたい」
小野少佐も少し考え「いつまででしょうか?」
「3ヶ月でお願いしたい、あと機関砲ですが
今の性能を知りませんが私の要求は40ミリの
連装機関砲で射程は8000位でベルト給弾式で
自動回転、そしてこれが最後ですが12ミリ位の
ガトリング砲でこれもベルト給弾式でお願い
したい」
菊地が言い終えると平田少佐は黙ってしまった
それ程、今菊地が要求したのは難しい事で
迂闊にハイとはいえないのである。
隣の小野少佐も厳しいのではないかと思った。
「平田少佐、これはこの戦争を左右すると
言ってもいいくらい重要なんだ!なんとか
ならないか?」菊地の説得に圧されたのか
平田少佐は答えた。
「なんとかやって見せます、お待ちして下さい」
菊地はありがとうと言いながら平田少佐と
握手をした。
「ところで平田少佐、レーダーを知ってますか?」
菊地の質問に平田少佐が手招きして一つの
倉庫に入った。そこにはアンテナらしき
デカい構造物があった。
「長官、これがわが国では最新型のレーダーで
ヤマト型の戦艦に搭載される物ですが、正直
言いまして性能は良くありません。
この分野は、我が国は他国よりかなり遅れて
いると思います、その理由は昔からと言いますか 今だにレーダーの機械の力より人間の目の方を
信用する傾向がありましたから開発は後回し
にされてきました、ちなみにこのレーダーは
対水上戦しか使えません、こればっかりは
努力と言うよりは、知識が足りませんので
どうしょうもありません」
「でわ知識を持ってる人に聞きましょう
小野少佐、戻ったら諜報部に言って
探してもらってください」
「ハッ!わかりました」
「それで私の今日の目的は終わりました。
小野少佐、私を連れてきたかったんですよね?」
小野少佐は本来の自分の目的を思い出し
平田少佐と目配せして菊地を違う倉庫に連れて
行った。
倉庫に入ると大きな物体にシートがかけられ
ていた。よく見るとメガネをした男がシートを
めくろうとしていた。
すかさず小野少佐と平田少佐が手伝った。
菊地は驚いた様子だ、目の前に飛行機が
出てきたのである。
「小野少佐がメガネをした男を紹介した、
長官!この方は中ノ島飛行機の設計者で
山田さんとおっしゃいます」
菊地は飛行機に見入ってしまってて
聞こえていないみたいだ。菊地は周りを
一周して山田の存在に気づき挨拶した
「海軍指令長官の菊地です、この機体は?」
山田は挨拶をしてから説明した。
「これは10式試作戦闘機です。中ノ島飛行機と
開発部が共同で造りました、全長11メートル
全高約4メートル、前幅14メートル、
エンジン出力は約2000馬力で最高速度は
6000メートルで660、武装は20ミリ
機関砲2丁と12ミリ機銃4丁です」
菊地は見とれていた、シルバーの機体で主翼
は途中から少し上向いている、ペラは4枚で
外観のかっこよさが気に入った。
「山田さん!平田少佐!完璧ですよ!試験飛行
わ済んでいるのですか?」
菊地が嬉しそうに聞いている
「えぇ先週済ませました」山田が答えた
「山田さん、航続距離はいくつですか?」
菊地の質問に山田が答える
「実際にはまだそこまで計っておりませんが
計算上は1500です」
また菊地が答えた後質問した
「山田さん完璧なのですが私の要望は航続距離
は2000キロは欲しいのと翼を折り畳み式に
してもらいたい、それと戦闘機と攻撃機を
出来れば一つの機体でこなしたいのですが
機体の複座方も欲しいのですが3カ月
で出来ますか?」
「やってみましょう、私も旋回性能が気になって
いるのでそれを踏まえて改良してみますよ」
山田の言葉に菊地は安心した、昨日山口から
海軍には飛行機が無いって聞いてもう駄目かと
思っていたからだ。
「一年位前ですかね、私の所に小野少佐が来て
海軍にも飛行機が必要なときが必ず来るから
極秘扱いで試作出来ないかと言ってきまして
山田さんに設計を頼んだのですよ、いや本当に
こっそりやるのが大変でしたよ」
平田少佐の話を聞いて菊地は小野少佐に
向かって「よく頑張ったな」と肩を叩いた