知りゆく身分
再び車の後部座席に乗ると車は走り出した。
小野少尉は時計を気にしなが走らせてる
せいかさっきよりも運転が荒くなっていた。
菊地はこれから何処に連れて行かれ、
何の会議に自分が出るのかまだ知らない。
疑問には思っていたが小野少尉の邪魔を
したら悪いと思いあえて聞かなかった。
移動している時間に少し記憶を整理してみた。
まず自分逹が何らかのテロに巻き込まれたのは
まず間違いない。
逃げようとして開いていたドアの部屋に
入って伏せた。
そしたら爆発音が聞こえたと思ったら
自分の背中に何か当たって……
ふと自分の背中を気にしたが特に痛く
なかった。
そして意識が戻ると小野少尉の車に
乗っていた…
そしてここがゲームの世界だと…
今までの流れからすると間違いないだろう。
じゃあ何のゲームなのだろう?
軍事物は間違いない、しかも小野少尉は
俺の事を長官と呼んでいた。
何の長官なのだろう?
その答えは直ぐに出た
車が停車したと思ったら小野少尉が窓を
開け、軍服を着た人と何かやり取りしている
視線を外に向けると、車は大きな門の前で
止まっていた。他にも3人程軍服を着た人が
立っている。さらに視線をずらすと看板の
ような物に字が書いてある。
そこにはなんと「日本海軍軍令部」と
書いてある。
待てよ、長官てまさか海軍のトップの
司令長官の事か!
自分がいま少し汗ばんだのを感じた。
その汗の理由は、海戦シュミレーション
の類のゲームはやったことがないからだ。
何時もするゲームはガンシューティングで
勝手がまるで違う事に焦ったのだ。
菊地が汗ばんだ事など知る由もない
小野少尉は再び車を走らせなんぼも
しないうちに停車させ、下車して
回り込みドアを開けて
「菊地長官、会議までもう時間がありません
のでお急ぎ下さい、私は車を移動させて
参りますので!」
菊地は小野少尉の緊迫感ある物言いに、
まだ心の準備が出来ていないのについ
「ハイ」と返答する。
菊地は車を降り建物を見渡してみる。
建物は白い石垣で造られており、二階建てで
屋上からポールが伸び、日の丸と旭日旗が風で
なびいている。
建物の入り口にはやはり海軍軍令部と
書いてあり、両脇には小銃を携帯した
衛兵が立っている。
とりあえず中に入ってみるかな。
菊地が入り口に向かい階段を3段登りきり
建物の中に入ろうとしたときだった
衛兵が小銃を軽く構え
「ちょっと待て、貴様どこに行くつもりだ」
「ここが何処だか分かっているのか」
菊地は焦った、少なくても自分は長官の
はずだ、こんな衛兵に銃を向けられるとは
思っていなかった、しかも銃を向けられて
いる、恐怖心からか声も出ないし何と
言い返せばいいのか頭の整理がつかない。
「貴様聞いてんのか?お前は誰なんだ?」
「怪しい奴め警備室に連れてってしごいてる」
両脇を衛兵に抱えられ警備室に連れて行かれ
そうになっていたときだった
「コラァー!貴様たち長官に何をしているか!」
その声は菊地にしてみれば聞き慣れた声で
今、唯一自分の味方の小野少尉の声だと
直ぐに分かった。
「ハッ!少尉どの、この者が誰かと問いただし
ても返事をしませんのでこれから警備室に
連行するところであります」
すると小野少尉は顔お赤くしてさっきよりも
大きな声で衛兵をどやしつけた
「馬鹿者!その方は本日付けで我が
日本海軍中央府司令長官に赴任した
菊地佳泰大将だぞ!この馬鹿者共が」
衛兵は突然怒鳴られたのでキョトンとしたが
直ぐに状況を掴んだのか顔が青ざめてきた。
「大変申し訳ありませんでした、数々の
御無礼お許しください」
衛兵達は背筋を伸ばし敬礼をした。
菊地は窮地を脱した事でもう良かった
ので「気にしないで下さい」と硬直
して立っていた衛兵達に話しかけた。
小野少尉は時間が無いことを思い出し
「長官!早く中へ参りましょう」と
菊地を促した。
急ぎ足で進む小野少尉に続いて菊地も
急ぎ足で追いかける。
すると小野少尉が立ち止まりドアを開けて
「菊地長官、こちらでお着替え下さいと」
菊地を促した。
言われるがまま部屋に入ってみると
壁に一着の真新しい白い軍服が掛かっていた。
「お着替えが終わりましたら隣の会議室に
行って下さい」そう言って小野少尉はドアを
閉めた。
菊地は軍服に袖を通しながら
「これじゃあコスプレだな」
ぼやきながら着替え終わり据え付け
の鏡で自分を見てみると、凛々しい自分の
姿にちょっとにやけてしまった。
そして言われた通りに隣の会議室に向かい
ドアを開けると、会議室に集まる人達の
視線を一斉に浴びついたじろいでしまった。
その中の一人の将校が菊地を誘導する。
「菊地長官こちらの席にお座りください」
言われた席に向かい着席すると会議室
が一望できた。
自分がいわゆる上座に座り両サイドに
それぞれ30人位だろうか?一列に着席
している。
まだ自分にはそれぞれの顔を見るほどの
余裕は無く、正面に向かって顔を上げて
いるのが精一杯だった。
菊地が着席したのを確認すると先ほどの
将校が話を進めた。
「本日の会議進行役は私、作戦課山形が
進行させて頂きます。
本題に入る前に本日付けで西方艦隊より
中央府艦隊司令長官に着任致しました
菊地大将より挨拶を承りたくぞんじます」
菊地は何も考えていなかったので手短に
挨拶をすませる。と言っても何も浮かば
ないのが本心だしまだこの場の空気に
なじめていない。
「西方艦隊より着任致しました菊地です。
よろしくお願いします」
言い終わるのと同時に山形少佐に視線を
送り進めさせた。
「それではこれより先日行われた
ラーズ島沖海戦の戦火報告をさせて頂きます」
その言葉に菊地は会議室全体が
待ってましたとざわついたような感じがした
がそれより気になっている事があった。
それは自分の正面の壁に張ってある地図
だった。
その地図には日本が無いのだった。