卓上の作戦2
見張り員がガルーナ艦艇を目視したのは距離2 5キロ地点だった。市川が指揮する水雷戦隊は 単縦陣で最大戦速で突っ込んで行く。お互いの
相対距離は一気に詰まる。ガルーナ艦艇は2列 単縦陣で日本軍目掛けて突撃してくる。
軽巡洋艦 阿賀野
「艦長!砲撃だ」
「ハッ!目標先頭艦1、2番砲搭撃ち方始めっ!」
「艦長、針路そのままだ!ぶつけるつもりで行く
ぞ!水偵に照明弾を落とさせろ、後続の艦艇に
発光信号、何時でも魚雷を撃てるよう待機して
おけと!」
「ハッ!」
阿賀野 第1砲搭内
「ほらお前ら早く運べ!機力式に負けてるぞ!
お前らの働きにかかってるんだっ!コラッ!
早く装填せんかっ!」
「くっそぉ一生懸命やってるっての」
「おい聞かれるぞ!黙ってやれ」
「あぁ悪い、しかしなんで人力なんだよこの艦は
よくっそう、ちゃんと当ててくれよ砲術長!」
阿賀野の主砲弾は人力で装填、発射されていた
ため機力式の砲搭に比べて連射速度は遅かった
が汗水流し狭い砲搭内で頑張っている彼等のお
かげで当たりが出始め同じく多摩の砲撃も敵艦
を捉え始めた。
「艦長!先頭駆逐艦に命中っ!」
水偵が落とした照明弾のお陰でガルーナ艦艇の
姿が漆黒の海面から姿を現す。市川が双眼鏡を 覗いて確認すると先頭駆逐艦の艦橋に命中し建 造物が吹っ飛んでいた。
「今の相対距離はどれくらいだ?」
「約15キロ切ります!」
「見張り員、奴らが転蛇する時を見逃すな!」
「艦長!面舵です、右側の艦隊が面舵をきりまし
た!左側の艦列はそのまま直進!」
「司令官、奴ら頭を抑えに来ています転蛇してよ
ろしいですか?」
「よし艦長、我々は左側の艦列の頭を抑えつつ雷 撃戦を仕掛ける!」
「ハッ!水雷長、これから面舵で左の艦列に雷撃 戦を仕掛ける、奴らが同航戦に入ったら発射の
判断はお前に任せる」
「ハッ!了解しました」
「手の空いてる者は甲板で見張りをしろ!敵から
の魚雷を見逃すな!」
「艦長!艦隊に発光信号、遅れをとるな、と」
攻略部隊 旗艦アトランタ軽巡洋艦
「艦長、どうだ戦況は?」
「サー、敵艦隊の針路を抑え交戦真っ只中の模様
であります」
「艦長、針路を少し東寄りにとって輸送船に最大
戦速を出す用に通達してくれ」
「サー」
「艦長!対空レーダーに反応あり!距離60キロ
数10から20!」
「何!航空機だと!」
二式飛行艇編隊 太田隊長機
「機長、あれ砲撃の炎ですよ」
「間違いないな、市川少将頑張って下さいよ、俺
達は自分の仕事をするぞ。輸送船団を捜すんだ
戦闘が起きてるって事は必ずこの海域のどこか
に居るはずだ。」゛
「それにしても上層部もよくこの海域付近だとわ
かりましたよね?」
「ああ、長官と参謀の小野少尉、そして山口中将
も意見具申したと聞く。あの人達の緻密な計算 が当たったって事よ。さあ高度を下げるぞ」
太田が指揮する二式飛行艇、22機の編隊は西 島から飛来してきていた。その頃市川率いる水 雷戦隊は激しい砲雷撃戦の真っ只中であった。
敵駆逐艦隊7隻と距離10キロ辺りで同航戦に 入った市川水雷戦隊は何十射線の魚雷を未来位 置に発射した後、阿賀野は探照灯を照射し敵先 頭艦に対して砲撃を加えると多摩と駆逐艦隊が
集中砲火を浴びせ血祭りに挙げるが阿賀野も3
番砲搭に命中弾を食らって火災が止まらなくな り艦隊から離脱して鎮火作業に入る。代わりに 多摩が先頭に立った時、さっき発射した魚雷が
敵艦隊を食い破り一気に4隻の駆逐艦を大破、
轟沈させる。多摩が探照灯を残りの敵艦に照射
しようとした時、舞風と吹雪に魚雷が命中して
航行不能になり吹雪を交わそうとした雪風、陽 炎、不知火が艦隊から離れてしまう。残った多 摩、初雪、白雪、深雪は残り2隻の敵艦に対し て砲撃戦で大破させるも白雪と初雪が敵の砲撃
で小破してしまう。この一連の戦闘で市川水雷 戦隊は組織的戦闘が出来なくなっていた。
「司令官、火災が止まりません、一度停船して消 火作業してもよろしいですか?」
「やもえないか、艦長の判断に任せる」
「ハッ」
ガルーナ軍 駆逐艦 ストロング
「艦長!ロングショーの艦隊は壊滅状態にあるよ
うです」
「クッソォ!ふざけやがって日本軍め。奴らの仇
は我々が取ってやるぞ!フラガにロングショー
や他の艦の救助に当たらせろ、他の艦は俺に続 けと伝えろ、最初にこのはぐれた3艦を狙う。
水雷長!奴らに魚雷を喰らわしてやるぞ、発射 針路を教えろ」
「サー!」
水雷戦隊 駆逐艦 雪風
「艦長、吹雪と舞風の乗組員が退艦しております。
救助に向かいませんと!」
「分かった、陽炎に救助に行くように発光信号を
送れ。副長、味方の艦は見つからんか?」
「ハッ、黒煙を噴きながら航行している初雪と白 雪が前方約5キロ程の所を航行しています。
残りは確認出来ません」
「見張り員、敵艦隊は確認出来るか?まだ居るは ずだ!」
「ハッ、確認出来ません」
艦長の滝沢は最初に頭を抑えに来た艦隊が気に
なっていたが、まずは救助と本体への合流を目 指す事にした。すると見張り員から悲鳴のよう
な叫び声が伝声管を伝ってきこえてきた。
「左舷より雷跡!数1っ!直撃…」
見張り員が雷跡を確認したのは距離50mを切 っていた為に回避行動をとる間もなく雪風の左 舷中央に鈍い音と共に魚雷が命中した。
「被害状況を報告しろ!」
滝沢は伝声管に怒鳴り口調で言い放った。
「魚雷、不発!不発!」
「こちら機関室!浸水してるっ誰か応援を!」
「手の空いてる者は機関室に急げ!早く食い止め
るんだ!」
「艦長!不知火と陽炎が…」
滝沢が後方を確認すると陽炎は艦の中央付近で
大火災が発生、不知火は艦首を大きくさらけ出
し、艦尾から沈降し始めていた。その光景に唖 然としていた滝沢だったが耳に入って来た飛翔 音に気付くと雪風の周りに幾つもの水柱が上が
った。滝沢は力の限り大声で艦橋に向かって叫 んだ。
「面舵いっぱい!」
水雷戦隊 旗艦 阿賀野
「司令官、火災が鎮火しました。機関正常、いつ
でも行けます!」
「艦長、我々の残存艦艇が判るか?」
「いいえ、分かりませんが砲撃炎が見えているの
は敵艦隊のはずでありますからまだ味方の艦は
健在かと思います」
「分かった、艦長もう少し付き合ってもらうぞ!
今、砲撃している敵艦隊に対して雷撃を行う」
「ハッ!お供させて頂きます!水雷長、魚雷の準 備だ急げっ」
一方で太田が指揮する二式飛行艇の編隊は攻略 部隊本体を発見し高度800mから水平爆撃を 行なったが、精度は悪くことごとく海面に向か って落ちていた。海面に落ちてからしばらくす
ると海面が白く盛り上がり勢い良く水柱が噴き
出す、太田達が投下していたのは爆弾ではなく 爆雷だった。
二式飛行艇 太田機
「同じ落とすのであれば爆弾の方が落とし応えが あるのに勿体無いです」
「お前の気持ちは分かるが、今回の作戦の主役は
我々ではないのだ、仮に爆弾を投下した所で戦 果は期待出来ないだろう。まあ爆雷でも落とし
所によっては爆圧で船体に損傷を与えられるか
もしれん。何にせよ俺達の仕事は爆雷を投下し
て、照明弾を落としこの眼下の攻略部隊を漆黒
の闇からさらけ出す事だ。さあ出来るだけこの
空域に留まって爆雷と照明弾を落とすぞ、それ
が我々の仕事だ」
「ハイ、分かりました機長」
ガルーナ攻略部隊より南東20キロ
「そろそろ時間だ、行こうか副長」
「ハッ艦長」
「メインタンクブロー!潜望鏡深度まで浮上する」