卓上の作戦
リング島から南西1500キロ 伊401
「艦長!スクリュー音聞こえます!数、多数!」
「何隻いる?」
「分かりません、しかし多数居るのは間違い無い です」
「艦長、潜望鏡上げてみますか?」
艦長の田嶋大佐はしばらく考え、この船団をや
り過ごす事にした。潜望鏡の反射で自艦の存在
を露呈したくなかったからだった。
「いや、副長やり過ごそう。我々の任務は第1に
敵攻略部隊の発見だ、もし見つかればこの船団 の事を知らせることが出来なくなる。本艦は船 団が通過後、浮上し司令部に無電を打つと共に 晴嵐を飛ばし上空から船団の確認をこころみる 事とする、石田を呼んでくれ!」
軍令部 長官室
「長官!リング島周辺を哨戒している伊号より無
電が入りました」
「我、リング島南西に1500キロ地点にて多数 の船団と遭遇、これより晴嵐にて索敵を開始す るとの事であります」
長官室に息を切らせながら小野が報告にやって
てきた。軍令部の通信室は地下にあり、作戦室
も兼ね備えており有事の際には地下から指揮が
取れるように厚いコンクリートで造られている
。小野は階段を駆け上がり長官室のドアを開け ると高橋少佐の姿があった。
「そうか、やはり居たのか。高橋少佐の情報通り
だったな。じゃあこれが攻撃部隊だとしたら攻 略部隊はきっとまだ後方に居るはず、小野少佐 の読みが当たれば…小野少佐、潜水戦隊の配置
は済んでいるのか?」
「ハッ!配置は完了しているはずです。それと長 官、彼等も西島で補給と整備を受けていると報告 が入りました。」
「そうか来たか!で、リング島の避難はどうだ?」
「ハッ!一般人の避難に関しては西島への避難は 終わっております。第6水雷戦隊も第5水雷戦 隊と合流し所定の位置で待機している頃です。 しかし陸軍は頑固としてリング島を死守するの 一点張りで話になりません」
「そうか、陸軍らしいな。じゃあ後は我々が思い
描いた用に事が進むのを待つしかないか。それ
と高橋少佐、ユカラシアに展開しているガルー ナ軍の航空兵力を知りたい、吹田少尉に連絡を とって探らせてくれるか」
「ハッ!わかりました」
リング島南西1400キロ上空
「少尉、あれじゃないです?2時の方角です!」
「どれだ?おっ間違いないな!おいおいえらい数 だなこりゃ、デカいのも沢山いる、これは攻撃
部隊だな少し降りて確認しよう」
山田少尉が操縦する晴嵐が発見したガルーナ艦
隊はリング島攻撃部隊であった。参加している 艦艇は戦艦12隻、巡洋艦14隻、軽巡洋艦5
隻、駆逐艦25隻の艦隊であった。菊地と小野
が考えた作戦としては、現状まともにぶつかる
だけの戦力がない日本には姑息な戦いを仕掛け
るしか手は無く、しかもこの作戦は全て卓上の
計算で計画された物であり準備期間もほぼ無い
事から成功する確率は低いと思われた。
ガルーナ艦隊旗艦 戦艦モンタナ
「フレンチ提督!上空にフロート機を発見したと
ミズーリが言っておりますがどうしますか?」
「どうせ偵察だろう?放っておけそんなものは、
見たいなら見せてやればいいんだ!我々は逃げ たり隠れたりはせんぞ!見てみろローマンこの
艦隊を世界最強とはこの事を言うんだ」
「サー!しかし提督、我々は最強ですが、後方の
攻略部隊が心配ですので手は打つべきかと思い
ますが…」
「そうかぁ…でわお前に任せる」
「サー、ありがとうございます」
ガルーナ艦隊指揮官のフレンチは血気盛んな性
格で戦闘が始まれば退くことを知らない男で初 戦のラーズ島の海戦でもフレンチが指揮するこ の艦隊が日本軍を海に葬っていた。しかも最近
本国から増援を受けた中で新造艦のモンタナが
来た事でより気持ちが大きくなっていた。モン タナはガルーナ帝国が日本の大和型と撃ち合う
べく造られた51センチ砲8門の弩級戦艦であ
った。それが3隻も揃えば気持ちもより大きく なるであろうが、そんなフレンチを上手く制御
しているのが参謀長のローマンであった。彼は
フレンチとは逆で慎重な性格で頭が良くいつも
影ながらフレンチをサポートしていた。早速ロ ーマンは何隻かの巡洋艦から水偵を飛ばし迎撃
に向かわせた。
リング島 陸軍独立大隊
「ほらお前らっ!もっと深く掘らんか!自分の命
を守ってくれるのはその穴だけだぞ!」
「なあ俺達本当にここで戦うのか?海軍も逃げち
まって軍港は空っぽだぞ、街にいた奴らも海軍
と避難しちまったしよ俺達なんでここで穴掘っ てんだよ」
「バカ、声がデカいぞ!少佐に聞かれたら何され
るかわかんねーぞ、いいから言われた通り穴を
掘れ」
「こんな穴じゃどうせ助からないぜ、敵さんは師 団単位で来るんだぞ、俺達1個大隊で勝てるか よ、この島は戦闘するには狭過ぎる隠れる場所
もねえ、俺はもうおしまいだ」
陸軍の総司令部はプライドからリング島からの
後退を許さず、兵力1個大隊、1個砲兵大隊、
戦車1個大隊、航空隊一個中隊を持ってリング 島の死守を決定していた。リング島の最高指揮 官は道端少佐となり急ピッチで塹壕やトーチカ
を作っていた。司令部の無茶な命令に道端も怒 りを覚えたが軍人である以上やもえなく最善を
尽くすべく孤軍奮闘していた。きっと奴らは港 と飛行場は無傷で手に入れたいはず、そして海 岸が崖の所は避ける…そして…ん…道端は地図 を眺めて唸ってしまう。とても守りきれるわけ がないと…。最終的に道端は水際での抵抗は一 切行わず飛行場の防衛に全戦力を投入する事に
決め飛行場までの道にいくつかの防衛線を造る
作業を進めている所だったが彼等にはまだ意味
の無いことだと知る由もなかった。
翌日 リング島沖15キロ 旗艦モンタナ
「よぉし諸君!明朝0700より本作戦を開始す
る、今晩は警戒を怠るな!明日にはあの島に鉄
の雨を降らしてくれるは!ガッハッハッハ」
ガルーナ艦隊は深夜2時頃にリング島沖に到着
した。明朝より開始する上陸作戦の地ならしと
して攻略部隊より1日早くリング島に展開して
いたのだった。一方、攻略部隊はリング島より
約900キロ後方を航行していた。
ガルーナ軍 攻略部隊 旗艦アトランタ軽巡
「ガスター司令官、そろそろお休みになられてわ いかがですか?私が見張っておりますから」
「ありがとう艦長、大丈夫だ。それに何か寝付け
無くてね。」
「でわ私のとっておきのブランデーを少しお飲み
になっては?かなりキツいので一瞬で寝付ける
事ができますが」
「ありがとう、私は大丈夫だ。そのとっておきと
やらは無事に上陸を果たしたら頂こうかな」
攻略部隊を護衛している艦隊は旗艦アトランタ を中心に軽巡洋艦3隻と30隻のフレッチャー 級駆逐艦からなっていた。護衛艦隊のガスター 司令官はこの任務の山場は今晩だと踏んでいた それは日本軍が夜襲を好んで仕掛けてくるのを 知っていたからだった。夜襲があるなら今夜し
かないとガスターは考えていた。この後、ガス ターの考えは見事に当たる事になる。
「艦長!レーダーに艦影を捉えました!数10数
隻、距離約30キロ、10時の方角です!」
「やはり来たか…艦長!左舷の駆逐艦群に対応さ
せ、右舷の駆逐艦群に輸送船周囲の警戒を強化
させてくれ!これから我が艦隊は戦闘行動に入 る、我々の任務は輸送船の護衛だ!何としても
輸送船を護るんだ」
第5水雷戦隊 旗艦阿賀野
「艦長!そろそろ予定海域に向かおう、多摩に発 光信号、これより最大戦速にて突入する!我に
続けと」
この第5、第6水雷戦隊で特別編成された艦隊
の司令官は市川少将で参加艦艇は軽巡洋艦、阿 賀野、多摩、駆逐艦は陽炎、不知火、雪風、舞 風、吹雪、初雪、白雪、深雪からなっていた。
市川の言う予定海域とは菊地と小野が卓上の計
算から導き出した海域だった。最初は誰もが根 拠の無い作戦だと言っていたが、昨日と今日に かけて伊401から攻撃部隊通過後に新たな船 団が通過したと無電が入ると皆、驚いていた。
「艦長、きっと敵さんは今頃レーダーとやらで我
々の存在に気付いてるだろう。少しでも多くの 見張りを立たせ発見に務めてくれ、我々の役割 は護衛に付いている駆逐艦だ、1隻でも多く釣
り上げて輸送船から剥がすぞ」
「ハッ!心得ております。日頃の訓練の成果をこ
こで見せましょう」
現状では日本の艦艇でレーダーが装備されてい
たのは大和型しかなく、他の艦艇は望遠鏡と人
の視力に頼るしか無かった。しかし後で分かる
事だがこの頃のガルーナ軍のレーダーは大和型
よりは優れていたが菊地が思っていた程、高性 能ではなく照準とレーダーを連動させて射撃す る所までは進んでいなかった。ラーズ島の海戦 では、初弾から至近弾を与えたのはレーダーの おかげだが、その後の砲撃はガルーナ軍の方が 単純に日本軍より優れていただけだった。
「所で司令官、潜水戦隊の方は大丈夫でありまし
ょうか?」
「彼等が主役のような作戦だ、我々が犬死になら ないように今は祈ろうじゃないか」