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バーチャルwar  作者: ムーンライズ
17/34

風前の灯火

 二式飛行艇は着水して海面に浮かんでいる乗組  員の救助に向かった。勿論、階級順の救助にな  り梅田がまず拾い上げられたが、梅田は撃たれ  ているせいで意識がハッキリしていなかった。  その為、代わりに信濃の艦長の鹿島大佐が本国  に細かな情報を無電した。

 

 その後、画が指揮する武蔵、信濃、播磨はある

 地点を目指し航行していた。


「画大校!先ほどの二式飛行艇にはびっくりしま

 したな」


「いやぁまったくだな陳小校!何とかやり過ごせ

 たが、梅田達が発見されるのも時間の問題だろ  う。いやもう発見されているかもしれないが、

 もう陽が沈む、我々の勝ちだ」


「しかし、大和はどうなったのでしょうか?」


「そこだよ、誤算だったのは!まさか機関部が故

 障するとはな、急な事で山形を置いたがどうな

 った事か…確認したいが危険な真似はできん、

 まぁ山形には悪いがな」


「報告!10時の方角に発光信号!」


「予定通りだな、でわお迎えする用意をしようで

 はないか」


 発光信号を送った多数の艦艇は巡洋艦1隻と駆  逐艦4隻、輸送艦が5隻の艦隊で構成されてい

 る。武蔵達と合流した輸送艦からは続々と兵士

 がボートを使って武蔵、信濃、播磨に乗り込ん

 で行く。その中に少し貫禄のある将校達が武蔵

 に乗り込んで行く。


「李大将!お待ちしておりました!」


 画は深々と頭を下げて李を迎えいれた。


「おお君があれかな?なんて言ったか、そうそう

 画大校かね。今回の働きご苦労だった」


「ハッ!ありがとうございます」


「おいっ!画大校!1隻足らんではないか?どう

 なっているのだ?」


 画を罵るように言ったのは李の参謀の連中将だ

 った。画は一連の流れを説明し、理解を得よう

 としたが連は聞く耳もたずと言った態度で話を

 聞いていた。画も内心ではムッとしたが上官な

 のでグッとこらえながら説明した。


「それなら引っ張ってでも連れてこんか!どれだ

 けの損失だと思っている!」 


 画の隣に居た陳小校もつい拳を握りしめたがそ

 れ以上は何もできなかった。彼等が怒りを覚え

 るのも当然でこの作戦に参加した工作員の殆ど

 は、自分の望まない人生を祖国の為と押し付け  られ強引に人生をねじ曲げられた者ばかりで、

 長い偽りの年月の果てにこんな言い方をされた

 ら腹が立つに決まっている。それでも我慢しな

 くてはいけないのが軍隊なのだろう。

 連がまた口を開こうとしたとき李大将が止めに

 入った。


「まぁ仕方あるまい、連中将もうその辺にしてお

 きなさい」


 連はまだ言いたげな顔をしていたが李に言われ

 て口を閉じた。


「それにしてもデカい艦じゃなぁ、これが我が海

 軍の物となると心強い物じゃな。おっと見とれ

 ている場合ではないな、次の作戦に移りましょ

 う」


 一悶着はあったが、一行は武蔵の艦橋に姿を消

 していった。その後、武蔵を先頭に信濃、播磨

 それと巡洋艦と駆逐艦の艦隊は、すっかり陽が

 落ちた夜の海を航行して行った。



 一方、菊地は会議が終わりいつものように開発

 部に来ていた。今日はオリバーが来たせいか、

 一段と活気に溢れている光景をみて菊地は嬉し

 い気持ちになっていた。こういう時に意外と新

 しい物が産み出される事が多いからだ。

 そこに慌てた様子の小野が菊地の元に走りこん

 できた。


「長官!大変です!今、横須賀の基地から緊急電

 が入りまして、武蔵、信濃、播磨の3隻が清共

 和国の手に落ちました!」


「何っ!何を言っている?それは無いだろ。大和

 型は今日、沖合で公試運転をしているんだぞ、

 誰が言っているんだそんな事を」


「長官!事実であります!警戒飛行を行っていた

 二式飛行艇より信濃の艦長、鹿島大佐が無電を

 送って来ておりますので間違いありません!」


 更に詳しい報告を受けた菊地は直ぐに対処する

 指示を出したが内心でわ焦っていた。それは先

 ほど高橋から受けた報告に関係していた。

 その後、出撃可能な二式飛行艇や駆逐艦、海防  艦が索敵に全力を注いだが直ぐに陽が落ちてし

 まい発見出来ないでいた。レーダーさえあれば

 直ぐに見つけられるのだが、まだこの時点では

 レーダー搭載艦は大和型だけであった。それも

 かなりお粗末な能力しか持たなかった。



 呉 三島造船工廠 検問所


「なぁ、なんか慌ただしくねぇか?」


「あぁさっきも憲兵隊が入って行ったしな、しか  もこんな時間にだ、ただ事ではないぞ」


「でもよ、どうせ俺達下っ端には関係の無い話し

 だろ。聞いても教えてくれないだろうから言わ

 れた通りに誰もここを通さなければいいんだろ

 うけど、理由くらい教えてほしいもんだよな」


「まったくだ、そんなものに命は賭けれねえ」


「ん?おいっ!何か聞こえないか?エンジン音み

 たいなの」


「おー確かに聞こえるな、空からだ、何機か飛ん

 でるな、でも暗くてなんも見えねぇわ」


「おっ!照明弾落としたぞ、そうか!空からも警

 備してんじゃねえか?」


 彼等が呑気な会話をしていられるのも今の内で

 あった。彼等が照明弾の光に見とれながらしば

 らくすると、耳をつんざく飛翔音が聞こえてき

 ていた。



 戦艦武蔵 艦橋


「李大将、そろそろ目標地点になります」


「分かりました、それでは始めましょうか」


「ハッ!これより本艦は砲撃体勢に移る、各員持

 ち場に着け!」


 辺りは陽が沈み暗闇の世界が広がっているが、

 30キロ先の陸地は街の灯りでうっすらと空が

 明るくなっている。武蔵、信濃、播磨の3隻は

 単縦陣で進撃していた。巡洋艦と駆逐艦は最大

 戦速で陸地に向かって突き進んでいる。10分

 程前に水偵を飛ばしていた画は照明弾の光を待

 っていた。双眼鏡を覗き待ち望んでいると空が

 何発もの光に照らされ陸地の姿を写し出した。

 すでに照準に入っていた3隻は武蔵を皮切りに

 射撃に入る。1斉射で6門の砲身が火を噴くと

 続けて残りの3門が火を噴く、爆炎で辺りは明

 るくなり艦体は反対に大きく揺さぶられる。斉

 射を繰り返し5斉射目で陸地に着弾し始め13

 斉射でやっと目標に着弾した。日頃から訓練し

 ていない乗組員が大方を占める事を考えれば良

 く当てたと言うべきだろうか。その後も砲撃を

 繰り返し、反転し尚も砲撃を繰り返し約1時間

 半に渡り46センチ砲弾を叩き込んだ。画達が

 砲撃を繰り返していた目標とは、呉の三島造船

 で艤装工事を行っていた改大和型の3隻、紀伊

 尾張、伊達だった。当初は51センチ砲を搭載

 する計画で進んでいたが、砲身の製作の問題と

 艦の大きさ、数値上で見積もられた排水量の増

 加で速力が出せない事から見送られ、大和型と

 同じく46センチ砲を搭載し全門一斉に斉射で

 きる事と船体のスリム化で速力を30ノットま

 で引き上げる目的で2連装8門とし、大和型で

 心配されていた副砲下の弾薬庫にかかるヴァイ

 タルパートの強化から副砲は搭載しなかった。

 結果的にこの判断は間違っておらず、この3隻

 の改大和型は何発もの命中弾を食らったがどの

 艦もヴァイタルパートは食い破られておらず、

 見事に46センチ砲弾に耐えてみせたが、駆逐

 艦による魚雷攻撃を40本近く受け3隻共、海

 底に擱座してしまい艦橋の中間辺りから上が水

 上に出ている情けない姿になっていた。その後

 駆逐艦と合流した武蔵達は暗闇に紛れ姿を消し

 た。



 横須賀 開発部


 菊地は軍令部に戻らず開発部で指揮に当たって

 いた。武蔵、信濃、播磨の行方は一方に掴めな

 いでいた。機関部の故障で横須賀に引き返して

 いた大和は横須賀沖5キロ付近で海兵隊の手に

 よって確保され、乗組員全員が監視の元に無事

 横須賀に到着した。その後厳しい尋問を受けた

 乗組員の中から工作員は一斉に逮捕されて収容

 所におくられた。もちろんその中には山形少佐

 の姿もあり、将校ゆえにより厳しい尋問を受け

 る事になった。


「長官!大変です!」


 またも小野が慌てた様子で報告にきた。


「今、呉の基地が砲撃されているそうです!」


「何っ!まさか…あの3隻がやっているのか?」


「ハッ!ほぼ間違いないかと」


「お、小野少佐!呉には改大和型が居るはずだ!

 まさかそれらを狙ってか?」


「ハッ!その通りでありまして…更に駆逐艦が雷

 撃を行っている模様であります」


「何?駆逐艦が雷撃!止まっている艦に魚雷なん

 か撃たれたらほぼ当たるじゃないか、何か対抗

 する手段はないか?近くに何か艦は居ないのか

 このまま改大和型がやられたら本当にマズい事

 になるぞ!」


 菊地が焦る気持ちを小野は十分に理解している  が、手持ちの動員できる艦船は全て武蔵達を探

 す為に北方の海域に展開させていたので、近く

 にはまともに使える艦船は居なかった。もっと

 も捜索に出した艦船が近くにいたとしても老朽

 化した軽巡洋艦や駆逐艦では役には立たなかっ

 ただろう。砲撃が止んで被害報告を聞いて、菊  地や周りに居た連中は声が出なかった。最終的

 に本日の被害は、武蔵や信濃、播磨は盗まれて

 紀伊、尾張、伊達は中破そして着底となり、も

 はや日本には大和と少ない水雷戦隊が残された

 だけでまともな戦闘は不可能になってしまった

 のだ。ここにきて初戦のラーズ島の海戦の大敗

 が大きく響いてきていたのだった。

                                                                                                                                                     

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