豆鉄砲?
松井の二式飛行艇とはリング島で再会した。
菊地は参加した二式飛行艇の搭乗員、陸戦隊員ら
にリング島での一週間の休養後に元隊に戻るよう に命令を出した。しかし日本に戻る都合上、太田 機にはリング島で一泊した後に日本で休養を取ら
せる事にした。オリバー家族は軍ではなく政府の
管理の元でリング島に滞在してもらう事にした。
この一日を利用して菊地は高橋と共にリング島を 見て回った。水雷戦隊の基地に立ち寄り施設を見 て回った。菊地達が外を歩いていると爆音と共に
編隊飛行で通り過ぎていく戦闘機隊がいた。
菊地が空を見上げていると
「長官、あれは陸軍の戦闘機隊ですよ」
そう高橋が菊地に教えると意外な言葉が返って
来て高橋は少し困ってしまう。
「高橋少佐、今から見に行こう!陸軍の戦闘機を」
「長官、しかし陸軍とは……」
高橋は最後まで言うのを止めた。この人には言っ ても無駄だと思ったからだ。
この世界の日本は実在の歴史以上に海軍と陸軍は
仲が悪く、まるで別の国同士の軍隊のようになっ ていた。意志疎通は皆無で合同の会議すら開かれ た事が無く、勿論装備品に関しては一切統一され ていない。海軍の場合は海に出て他国を知り自ら の軍事力を推し量ってきたが、陸軍の場合は他国 と接する機会は無く又、国の法律で他国に侵略を
行わないと定められている事から自国内にしか関 心を持たないで来た。陸軍の装備品に驚かされる 事になるとはまだ菊地も知らないこの後の話にな る。
菊地と高橋は飛行場に着いた。飛行場は基本的に
国営の航空会社と軍と半々で使用されている。
陸軍が使っている滑走路や基地施設はフェンスで
仕切られていて民間人を問わず軍の関係者も一ヶ 所しかない検問所を通らないと出入り出来ない造 りになっている。
さっそく高橋は検問所の衛兵に交渉を試みるが予 想通りの展開で、事前に許可を取らないと例え海 軍の長官だろうと大将だろうと入れる事は出来な いの一点張りで話が進まない。基地の司令官を出 せと言っても、それも出来ないと断られた。
高橋は分かってはいたが段々と腹が立ってきて声 が大きくなってきた。自分の所の司令長官を馬鹿
にしているのと同じように感じたからだ。高橋が 更に食ってかかろうとすると菊地が止めた。
「高橋少佐、済まなかったもう帰ろう、衛兵の君も
済まなかった」
そう言って帰ろうとすると基地内から飛行服を着 た男が車を運転して出てきた。菊地はその車を止 めて飛行服を着た男に話かけた。
「私は海軍の菊地と言うが、君はさっき海軍基地の 上を編隊飛行をしていた者か?」
男は海軍の人間に呼び止められた事に驚いたが
呼び止めた男が大将の階級章を着けていることに
更に驚いた。
「自分は陸軍リング航空隊の織田中尉であります
海軍基地の上空を飛行したのは自分の飛行隊で
ありますが、何かございましたか?」
織田は海軍だが大将である以上は敬意を払った
応対をした。
「いや何もないんだがちょっと聞きたい事があって
ね、織田中尉は自分の乗っている戦闘機をどう思 う?他国に比べて性能が劣っているのでは?と考 えた事はないかな?」
「自分は他国の戦闘機は存じませんが我が陸軍の
一式戦は最強だと信じておりますが」
「そうか、織田中尉は陸軍が好きなのかい?それと も飛ぶ事が好きなのかい?」
「自分は…陸軍も好きですし飛ぶ事も好きですが
いったい何の話なのでしょうか?」
「いや済まない!たいした意味は無いんだがここか ら話す事は海軍の機密事項なんで内密にしてほし いんだが、今海軍では極秘に戦闘機を作っていて ね、完成すれば一式戦など相手にならない戦闘機 になるはずなんだが、どうだろう?完成した時の テストパイロットをしてくれないかな?勿論、
陸軍には内緒で頼みたいのだけれども」
織田は一式戦の事をコケにした言い方にムッとし
たが、新型機には乗ってやってもいいかと思い快 諾したが何か気が収まらなくて一言皮肉を吐き捨 てた。
「しかし海軍さんは飛行機なんて造ってていんです か?ラーズ島では手痛くやられたそうじゃないで すか?船を造った方がいいんじゃないですか」
「ああ心配してくれなくても船も造っているよ。
まあ楽しみにしていてくれ、その時は追って連絡
するとしよう」
そう言って菊地と高橋は飛行場を後にした。
「長官、なぜ彼にあの話をされたのですか?」
「んー何でだろうな、なんかを感じたんだよ飛んで いる戦闘機を見てな。さぁ帰ろうかホテルに」
菊地はホテルに帰る車中で高橋から陸軍との関係
について色々と聞かされているうちに暗い気持ち になっていった。結局自分が好きに動かせるのは
海軍だけなんだと判ったからだ。何気に車中から 見える草原を見つめていると道路の路肩に停車し ている装甲車の車列が目に入ってきた。
「高橋少佐、この装甲車はなんて言うんだ?」
「長官、これは陸軍の一式戦車ですよ、確か一個大 隊が駐屯しているはずです」
「なにぃ?これが戦車だって?高橋よくみろ!本当 にこれが戦車なのか?」
「間違いありません、一式戦車です」
菊地は高橋に車を止めさせ降りて見る事にした。
そこには戦車兵も戦車の周りで休んでいたが菊地
は構わず戦車を眺めた。戦車兵は海軍が何で戦車
をじろじろ見ているのか不思議そうな顔をしてい る。菊地は車長を呼んで戦車の事を聞いて見るこ とにした。
「君!少し聞きたいんだがこの戦車砲は何ミリ何だ ろうか?」
聞かれた車長は不思議そうな顔をしながら答えた
「三十七ミリですけれども」
「これはあれかな?陸軍としては…主力戦車になる
のかな?」
「ハイ、この一式戦車は陸軍の最新式の主力戦車に
なりますがいかがしましたか?」
菊地は開いた口がなかなか閉まらなかった。 こんな豆鉄砲で戦車といえるのか?装甲なんてほ ぼ鉄板みたいな厚さしかないし覆帯は二十センチ
あるかないかだ。菊地は本当にがっかりしていた 今開発中の四十ミリ機関砲でも蜂の巣に出来るよ
うな戦車を主力戦車と言っている事にだ。菊地は
ガルーナ軍の戦車を知らないが到底太刀打ち出来 るわけはないと確信していた。菊地は海で勝って も、陸では相当苦戦するだろうと考え、日本に帰 るまでその事で頭が一杯になった。
日本に戻り休む間もなく、いつものように小野が 迎えにきた。小野は菊地の姿を見ていつもより少 し気持ちが高ぶっているように感じられる。
「長官っ!おはようございます!無事に帰られて本 当に良かったであります!」
「ああ、だが結果的には失敗に終わってしまったよ オリバーには協力してもらえなかったし、清水達 には悪い事をした。しかし得られるものも多々あ ったよ。小野少佐、今日は戦車を製造している所 に連れて行ってくれ」
「ハッ!しかし長官、今日は大統領に呼ばれており まして、これから大統領官邸に行かなくてはなり ません。その後でしたら同じ東京にございますか ら帰りに寄ればよろしいかと」
「なに?大統領が…」
菊地は大統領の存在を初めて聞いて驚いた。自分 が一番偉いと思っていたからだった。
「分かった。でわ帰りに寄ろう、連絡をしといてく れ」
その後大統領官邸に着くまでの間に車中ではなぜ
戦車なのかということや、陸軍について、陸戦隊
の話になり、そして菊地が留守の間に小野に頼ん であった事案の報告を聞きながら大統領官邸に二 人は向かった。