オリバー作戦4
菊地は辺りを見渡していた。さっきまでこちらを
照らしていた探照灯の光は消え、代わりに滑走路
で激しく燃え盛っているトラックが辺りをうっす
らと赤く照らしている。夜空を見上げると三機の 二式飛行艇が爆音を響かせ大きく旋回している。
今の爆撃で大方のガルーナ兵は片付けたが単発的
な抵抗はまだ続いてた。菊地は突破するなら今し
かないと思ったが歩いて行くには危険過ぎる、
周りを見るとさっき茂みに突っ込だトラックが
目に入った。菊地は太田にトラックが動くか
確かめに行かせた。トラックに辿り着いた太田は
運転席のドアを開けて中で倒れてる敵兵を引きず り出し、鍵を回してエンジンをかけてみる。
数回セルを回しすとエンジンは動いた。太田は
ギアをバックに入れ菊地達の所へトラックを滑ら
せた。菊地はオリバーとの交渉は決裂したが、
ここに置き去りにする事は出来ないので安全な所
まで連れて行くつもりだった。誰一人欠ける事も なくトラックは海岸に向かって走り出した。
ターミナルを過ぎるまでは単発的な抵抗は受けた が空からの援護射撃で乗りきれた。海岸までは
およそ六キロの距離、道路は海岸線の道路にぶつ かるまでは一本道で迂回路はない。
菊地は太田に無線で直上の援護と海岸線の道路の
確保を命じた。海岸線を警戒しているのは清水機
と松井機だった。両機は西と東に別れ衝突を避け るため航法灯を点けて飛行していた。
すると西側を飛行していた清水機は十キロ程先で 車列の用なライトを発見し少し高度を上げながら 爆撃の準備に入った。清水は投下準備をするよう に指示を出し高度計を確認し爆撃体勢に入ろうと
するとさっきまで見ていた車列が見当たらない。
清水は辺りを探すが下は真っ暗で何も見えない、
旋回してもう一度確かめようとしたときだった。
清水機に向かって無数の光の閃光が飛んで行き
清水の二式飛行艇は火を噴いて…爆発した。
「ポール大尉、テーラ大佐は相当お怒りの様子で
したね」
「ああ、そうだな軍曹、そのとばっちりがこっちに
来るとわな」
「しかし大尉、レジスタンス相手に対空車両まで連 れてくる事は無かったのではないですか?」
「そうかもしれないが軍曹、備えはあった方がいい し、気がかりな事もある」
「あれですか?レーダーに映ったっていう機影の
事ですか?一瞬だと言っていたので寝ぼけていた
んじゃありませんか?」
「それだといいんだがな」
ポールの不安は形となって現れた。車列の先頭で
ジープに乗っていたポールは前方の夜空にランプ が点灯している事に気がつき車列を止め、ライト
を全部消すように無線で命令した。
エンジンを止めると空から爆音が聞こえる、ポー ルは対空戦闘の指示を出し、準備が出来次第攻撃
するように命令した。四台のハーフトラックの
荷台から一斉に対空砲が発射されると飛行機は
瞬く間に翼付近から炎をあげて海岸の方に堕ちて
行き確認は出来ないが爆発した。ポールは一個小 隊を墜落現場に向かわせ、自分達は二個小隊と
対空車両を引き連れ空港を目指した。
太田機と松井機には清水機が堕ちるまでの様子
が無線を通して聞こえていた。
太田機は必死に呼びかけるも清水機から返事は
帰ってこない。しかし西の方角には赤く燃えてい る場所がはっきりと見えていた。太田は誰よりも 墜落現場に行きたかったろうが口に出さず目の前 の任務に集中するように松井と自分に言い聞かせ
ていた。太田は松井機に出来るだけ浜辺に近づい て着水するように指示を出し自分は上空で警戒し
ていた。菊地達のトラックは飛行場からの一本道
を抜け海岸線の道路を東に曲がり、来たとき乗っ てきたゴムボートを目指して森の中を進んでいる 所だった。
「オリバー博士、この国に居てもまた危険が及ぶで
しょうから一度わが国の領土のリング島で休養さ
れてはどうですか?あぁ心配されなくとも、もう
開発に協力してくれとは言いませんから」
オリバーは妻と話し合い菊地の申し出を受ける事
にした。
菊地達は森を抜けて茂みに隠してあったゴムボー トを発見し浜辺に向かって担いでいた。
菊地は結果としてはオリバーに断られて目的は
達成出来なかったが、個人的には色々と収穫は あったし、何よりもこうして無事に皆で帰れる
事に喜んでいた。しかしその喜びもつかの間だっ た。浜辺まで来て西の方を見ると赤く燃えている
炎の先と煙が夜空に伸びていた。菊地達は全く気 づいていなかったのだ。飛行場から高い木々が茂 る森の中を進んで来たので遠くの方まで視界が見 えなかったので無理はない。菊地は無線で太田に 確認して初めて清水機が堕ちた事を知った。
菊地は山田に数名人選させて清水機の墜落現場に
向かう事にした。「誰もが自分が行きます」と
言ってくれたが二次災害を懸念して半数で向かう
事にした。二隻のゴムボートに別れ、高橋にオリ バー家族達を任せ着水して待機していた松井機の 二式飛行艇に行かせ、菊地達は西に向かってエン ジンを吹かした。太田には松井の二式飛行艇が無 事に離水するまでは上空で援護するように命令が
出ていた。エンジンを全開で向かっていくと炎が
上がっている場所に近づいて来た。周囲を確認し ながら砂浜に降り立ち、茂みの方に向かって行く と、茂みから閃光が向かってきた。慌てて全員伏 せるが間に合わなく高野と倉田がそれぞれ撃たれ た。山田は手榴弾を投げ菊地も投げる。他の今井
や成田は軽機関銃をぶっ放す。しかし遮蔽物も無 く敵の圧倒的な火力に身動きが取れない。菊地は 高野と倉田にズリより生死を確認するが幸いにも
足と肩を撃たれてはいたが命に別状は無さそうだ
菊地は倉田が持っていた無線機で太田に支援を要 請した。
「太田大尉!浜辺で釘付けになってて身動きが取れ ない、上から支援してくれ!燃えている手前だ、
これから発煙筒を焚くから目印にしてくれ」
太田はエンジンの出力を出来るだけ絞り低空で
侵入していき発煙筒より森側を機銃掃射していく
旋回しては機銃掃射を叩き込み、菊地達も持てる 火力で森の方に短機関銃を乱射した。次第に抵抗
が弱まってきた時、西の浜辺の方から人の気配を
感じた山田は銃口を向けた。するとこっちに向 かってライトの光がチカチカ点滅している。
その点滅を見ていた吹田は何の意味なのか理解し た。「長官!キャリーがレジスタンスの仲間を連 れて来てくれたようです」
グッズ少尉が率いる一個小隊は、森の中を墜落現 場に向かって進んでいた。森は約三百メートル位 で森を抜けると海が広がっている。グッズ少尉は
炎が上がっている場所を目指し、分隊ごとに扇状
に進んで行くように命令していた。分隊は八名で
構成されていて無線機が一台配備されている。
小隊は火災の起きている所に辿り着いが、木々が 燃えているだけで機体の残骸が見当たらない。
代わりに沢山の土が掘り返されている。不思議に 思ったグッズ少尉はこのまま浜辺まで進むように 命令した。百メートル程進んでいくと波の音が聞 こえてきた。最初に浜辺に着いたのは東寄りを進 んで来たゴーン軍曹の分隊だった。海は真っ暗で
機体の残骸なんて見えるもんじゃない、ゴーンは
無線手を呼び寄せグッズ少尉に報告しようとした ときだった、東の方から何かエンジン音のような
音が聞こえてきた。耳を澄ませると間違いなくエ
ンジン音だった。ゴーンは浜辺に散会していた部 下に茂みに隠れるように指示し、茂みから音の正 体を確かめるべく息を潜めていた。すると真っ暗 な海からボートが現れ数名が浜辺に降り立ち辺り
を警戒し始めた。ゴーンは小さな声でグッズ少尉 に報告した。グッズ少尉は応援をよこすから待機
していろと言っていたが、その数名は自分達に向 かって進んで来る。ゴーンは唾を飲み込み必死に この緊張感に耐えていたが、部下の一人が耐えき れず引き金を引いてしまった。そうなると他の連 中も耐えきれずに引き金を引いてしまう。二人か 三人に当たった気はしたが伏せられたので確認は 出来なかった。しかし浜辺からは相当な閃光が飛 んで来る事から致命傷にはいたってない事が想像 できた。ゴーンは手榴弾のピンを抜いて投げよう したときだった、隣にいた無線手の横で手榴弾が 爆発して無線手は吹っ飛びゴーンは耳をやられて 何も聞こえなくなってしまった。隣りの部下が空
を指差して何か言っているが、ゴーンは聞こえな いが指を差している方を見上げると空から光の閃 光が突き刺してきた。周りの木や葉が飛び散り
辺りは修羅場と化していた。応援に来た他の分隊 も、空からの機銃掃射でかなりやられているみた いだ。周りの状況を見ていると西の方に銃を撃っ ている奴らもいる。その先に目をやると茂みから
沢山の閃光が飛んでくる。ゴーンが最後に目にし たのはグッズ少尉が無線を持ったまま銃弾に倒れ る所でゴーンも胸に痛みを感じて意識を失った
キャリーの仲間は森に入り掃討戦を展開してくれ
ていた。菊地は太田に援護射撃を止めて清水機の
捜索をするように指示を出す。太田は照明弾を投 下しながら周囲を探すが破片すら見当たらない。
捜索を海の方に広げて照明弾を投下すると、浜辺 から百メートル程の所に海面につっこむ二式飛行 艇を見つけた。菊地は負傷した高野と倉田をキャ リーに任せて山田と吹田とボートで向かった。 幸い浅瀬で二式飛行艇は前かがみになりながらも 海上に突き出ていた。近づいて行くと主翼の上で こっちに手を振っている乗組員達の姿が見える。
到着し主翼の上によじ登ると乗組員達は頭や額か ら血を流している。その中で仰向けに横たわって
いる清水を見て菊地は駆け寄った。清水は頭から 血を流し胸を強打したせいで意識が薄らいでいた 清水は菊地に気づくと小さな声で何度も何度も
「すいません」とささやいていた。菊地は清水を を励ましながら皆で主翼から下ろし太田機に乗せ
ようとしたが、状況を聞いたキャリーが清水を
預かると言ってくれた。確かに何十時間移動して
治療するよりもここで治療したほうが生存率は
上がるが置いていく事に菊地達は気が引けてい た。その様子を悟ったキャリーは菊地達に言った
「あなた達日本は私達をガルーナから救いに来て
くれるのでしょう?それなら私も全力で清水を
救うからあなた達がまた来てくれた時、元気な
清水と合わせてあげるから、必ずもう一度この
ユカラシアに戻って来て」
キャリーの意気込みを聞いて菊地は清水を任せる
事にした。ついでに出血の止まらない倉田と高野
もお願いする事になった。清水一人じゃ心細い
どろうと言う配慮も含まれていた。
浜辺でキャリーと別れる時、菊地は「必ずもう一 度戻って来る」と約束して別れた。