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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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84◆ほぼ予定通りの人員の確保に成功 屋敷も良い感じかな

 元々話に加える予定が無かった二名が退出したので、話は本題に入っていた。

遠征部隊は継続してヴァルツァー五爵領付近を捜索中との事。

まぁ、これはどうしようもない事らしい。


 先程居た男の方がその責任者らしいのだが、当然本人は現地には行っておらず、連絡も使い捨てで数をあまり揃えられない魔法具を使っての一方的な連絡が送られてきただけに過ぎない。

まぁ、音声のあるメール、又は留守番電話みたいな物かな。


 この魔法具は素材の問題で希少なのだそうだ。

先生に確認した所、作り方は知っているとの事。

ただし作り方も色々とあり、先生の知っている方法では素材は高く、製作難易度も高いくせに送れる時間は短いという……正直、作るより買った方が安くて良い物が手に入るとの事だった。


 その兼ね合いもあり、軍で使用している物は高値たかねで購入した物を緊急時だけ使用する事が許された品だそうだ。


 今回の件が片付いたら、師匠や先生と一緒に魔送石と組合わせられないかやってみよう。

上手く行くと有り難いのだが、まぁ……多少でもヒントになれば十分かな。


 私がそんな事を考えている間も話は続いており、退出した男がもし協力する気が合っても結局は遠征部隊の主力は五爵領に居る為に今回の件に参加する事は不可能との事。

とある理由により、それは仕方が無い事らしい。


 この遠征部隊を送れない、とある理由と言うのは……ぶっちゃけると連絡手段が無いと言うだけの事である。

本来なら王子や国王すら今回の話に係わっているので、王城に保管してある予備の連絡用魔法具で通達できるのであれば今回の件で問題は無くなる。

もっとも王子には迷宮経路で行く事を伝えてあるので、どちらにしてもそんな事はしないのだが。


 しかし、その本来という前提を覆している理由が実は第三王女にあった。

ハッキリ言えば、王女が色々な魔法具を持って行く際に、連絡用の魔法具も全てを持ち去られていたのだ。


 無い物は使えない。

それ故、遠征部隊が協力するのならば、非常時に備えた予備戦力を投入せざるを得ない状況となっていた。

その戦力の投入を決める話し合いが、先程の内容では当然納得できないだろう。

時間的に間に合う可能性が恐ろしく低い場所に、片道二週間もかけて送り出す方がどうかしているからだ。


 そういった状況の為、早馬を飛ばした所で結局は現地戦力でも到着に二週間以上かかるのでは意味が無く、間に合う可能性が絶望的な件で予備兵力を出す訳にもいかない。

確かに突っぱねられても仕方が無いだろう。

対応の仕方はともかく、おそらく私でも同じ様に考えるだろうしね。


 それ故、王子にしても私達が迷宮を持って居る事を伝える気が無い為、誤解させたまま退出させたと言うのが正直な所だ。

何故なら、ルークが迷宮の事を王子達に教えた際の条件は公言しない事である為、説明で言わなかった段階で相手の出方に任せるしか無いのだから。

もっとも、王子にしても彼らが必要だとは思っていない雰囲気があからさま過ぎるほど感じられるので、特に問題は無いのだろう。


 そして、女の方は第三王女を含む女性王族の護衛をしていたので連れて来たらしいが、あれこそ邪魔なので早々にお引き取り願いたかった様だ。

私としてもあれと一緒に仕事はしたくないから助かった。


 結局の所、レックス達が四部隊全員一致で協力してくれる意志を示しているので有り難く力を借りる事に。

加えて、宮廷魔道部隊の隊長は協力する様に上から言われているらしく、王子から直接要請された事もあって十分に乗り気には見えた。

そして、どの程度が参加してくれるかは分からないが、自分の部隊の隊員には協力して貰える様に説得してみるとの事。


 しかし、ここで重要なのは、命令では無く任意で協力して貰うという形だ。

私達自体が、エルナリア卿に対してゴリ押しで参加してる形を取っている。

その私達に王子が部下に命令する形で指示するのは後々不味い事になりかねない。

それこそ、貴族の矜持が云々と言う奴らに口を出す切っ掛けを与える事になる。

それ故、任意での協力は必須なのだ。


 ただし、あくまで仕事であり任務でもある。

王子に協力を仰いだ結果という形で、仕事扱いにする方向なのだ。

参加が自分の意思ではあるが、内容としては王子からの特別任務と言う形になる。


 これは王子を緩衝材にする事で貴族の口出しを封じる作戦なのだが、本来なら王子に対してこんな事を頼む方が問題になる。

しかし、ルークが蟻や蜂の件で多大な貢献をしており、更には第三王女の被害者と言う事で多少の無理を言うのも見逃される立場であるのだ。


 そこを前面に出す事で五月蠅い奴らも私達に直接文句が言え無いし、エルナリア卿には王子の後押しがあるのならば任せるという姿勢をとって貰う事で、攻撃させない口実を得られるだろう。




 ☆ ☆ ☆




 話し合いは基本的にルークの持ち込んだ案で落ち着いた様だ。

参加理由も私と師匠の関係を前面に出し、第三王女の件も含めて対応を練る為にエルナリア卿には屋敷を提供して貰う形を取る方向で情報を流す事にした。

これでエルナリア卿に対する大半の苦情は封殺できるはずだ。


 さて、結論としては当初の予定であったレックス達以外に宮廷魔道部隊からも多少は人員を出して貰える可能性が高くなった。 

しかも、今回来た隊長の部隊は全員女性らしい。


 これは私としては有り難い事だった。

女性が何故有り難いのかと言えば、メイドの格好で屋敷内部で行動できる人員が欲しかったからだ。

外部から見て、不自然さを出来るだけ少なくするためには必須と言える。

しかも、魔法を使える人員だと装備の問題が減る事も大きい。

腕輪型で魔法の発動具を作る事で、殆ど手ぶらと言える状態で行動しつつ戦力は確保できるのだ。


 さて、大体の話が纏まり、王子も時間的に厳しくなってきたので今回の話は終了となった。

この後は用意して貰った屋敷を案内して貰う方向で話がついているので、私とルークは早々に王城を後にした。




 ☆ ☆ ☆




 用意して貰った屋敷の場所だが、レックスが知っているらしいので案内して貰える事になった。

レックスはこうなると思って、ご苦労な事に待機していたようだ。

そして合流したレックスからは、


「まぁ、予定通りの人員で行う事になりそうだが、実際の所……お前らから見て勝ち目はどんなもんだ?」


と聞いてきた。

それに対し、


「負けは無いかな。被害も出す気は無いけど、こればっかりは相手次第なので絶対とは言えないっていう程度」


と、私が答える。


 実際の所、余程の事が無い限りは被害は出ないはずだ。

その為の準備は入念にする予定だしね。


 そんな感じに話をしながら、王城からしばらく歩いた位置にある屋敷に案内された。

早速中を調べた所、エルナリア邸と比べても十分な大きさがあり、荷物や人員をそのまま移動させても問題は無さそうだった。

シェリーの学院も近いので、そう言う意味でも都合が良いだろう。


 中を見て回ると中々面白い作りで、この屋敷を建てた人物は相当敵からの襲撃を恐れていた事が窺えた。

主人の部屋へ行く為には、相当手間のかかる経路を辿る必要がある。

丁度屋敷の中央付近に配置されて居る為、窓も無い堅牢な作りとなっている上、おそらく隠し部屋として地下室がありそうだ。


 何故地下室の存在が分かったのか?

それは、私が魔法物質の流れを感知しているお陰だ。


 私は《覚醒者》になってから、今まで以上に魔法物質を鋭敏に感じるようになって居た。

それを利用して、この屋敷に入ってから多少ではあるが人に影響がない程度で魔素を放出していたのだ。


 この魔素は拡散し、周囲の部屋に隙間を通りながら拡散して行った。

そして、この部屋に入ってからは明らかに不自然な動きで、大きな備え付けにしか見えない本棚の後ろから下に向かって魔法物質が延々と流れて居るのがわかったのだ。


「これは防衛が楽でいいわ」


今は仕掛けを調べるのが面倒なので、後で調べようと考えながらルーク達にはそれだけを言っておいた。


 こちらの屋敷が襲われる可能性は少ない。

なんせ迷宮経由でここまで来るのだから、余程エルナリア卿自身をサーチ出来る魔法具でもない限りは知られる事はないはずだ。


 ただ、絶対と言う事は無い以上対策は必要である。

その対策に関してだが、有り難い事にここは経路は限られ、不意打ちを食らいにくい作りなのでこちらの罠も仕掛けやすいらしい。

因みに、直接的なダメージを与える物は殆ど作らずに拘束系の物を多用する。

理由は、単純に手間に見合った効果を発揮出来ないからだ。


 師匠の流派では攻撃的な物はあまり好まれていなかったらしく、一応作れる程度の魔法回路しか伝えられて居ないのだ。

それ故、当然私も作る事が出来ない。

まぁ、捕獲用の魔法具で大半は無力化出来るので、その系統を無理に作る必要も無いので問題は無い。


 大まかな下見を終え、移動が面倒なのでそのまま私が移動迷宮を呼びだして移動する。

ここなら誰にも見られないので問題は無いだろう。


 さて、移動したら早速準備に取り掛かろう。

リーナも居るし、MPに関しての問題もクリアーしている。

準備段階こそが私とリーナの見せ所なのだから、頑張るとしましょうかね。

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