83◆貴族の矜持とか見栄とかプライドとかは正直どうでも良いです
領主が今更報酬云々を言い出したのは、どうやら他の貴族からの横槍が入るからとの事。
貴族とは平民の上に立って管理統括する為に居る存在であり、平民からの施しを受けるなど言語道断、貴族の矜持を著しく損なう行為だ! と騒ぎ立てる輩が数多く存在するとの事。
まぁ、貴族の中にはプライドと選民意識と優越感で生きてる奴も居るだろうから、そこに拘る奴も相当多いのだろう。
今回の件は国王にすら知れ渡って居る為、普段は歯牙にもかけない辺境の六爵相手でも喚く輩が出るのは必然との事だった。
……なんてめんどくさい奴らだ……。
「君達に隠しても意味は無いだろうから言ってしまうが、冒険者風情に弱みを見せる様な無様な行いをするとは何たる事か……と、とにかく口を挟んで来る輩が多いのだよ」
そう、少し呆れた顔をしながら領主が説明してくれた。
まぁ、だからと言ってそんな事で引く気は無いので、
「領主様の言い分は分かりました。それに対するこちらの言い分を伝えさせて頂きます」
そこで一旦区切り、領主が頷いたのを確認してから続る。
「報酬……と言う意味では、ある意味で私達は既に頂いております。公に出来る事ではありませんが、五年間のお嬢様に対する婚姻の保留……【竜殺し】になるなどという話しを信じ、そこまで譲歩して頂いているのですから。もっともそれを外部に伝える訳にはいかないので、私達に関しては領主様に断られたのにも関わらず、師匠を守るという名目で強引に参加させて貰った……と言う事にしましょう」
「確かにそれならば問題にはならぬな。エル殿とクレリアが師弟関係である事を明言し、それを前面に出してしまえば口を出せる者はおるまい」
私の案に領主がそう答えたが、この際もう少し突っ込んで話もしておこう。
「まぁ、建前としてはそう言う事で。実際の所、領主様に死なれるのは色々困ります。お嬢様が悲しむ上、ルークとの関係を認めてくれる相手が居なくなります。まず、お嬢様の後継人となる方では話が通じないでしょうからね」
そう、私がぶっちゃけた発言をすると、
「ハハハッ。流石はエル殿だ。痛い所を容赦も躊躇も無く突いてくる。確かに二人の結婚を見届けるまでは責任を持って生きねばならんな」
そう言いながら、いつまでも笑っていた。
やはりこの領主にならばルークを任せても良いだろう。
もしくだらない奴だった場合、私の方でもルークとシェリーを引き離す為に色々手を考えないといけない所だったので面倒が無くてありがたい事だ。
そこからは、再び話の進行役をルークに任せた。
領主との相談は進み、王都での準備が出来次第マスター用の扉を移動させて移動する事で合意。
その際に、使用人には外部が見えない小型の乗り物を用意して移動させる方向になった。
経路や方法を知らせないままで行く事が出来るので、情報拡散のリスクが若干だが減るからだ。
移動の際にはマスター用の転移扉を通る為、その大きさに合わせた人力車の様な物を作ってゴーレムに引かせる予定でいる。
領主の仕事に関しては出来るだけ王都で事務処理をメインに行って貰い、直接行く必要がある物に関しては当面代役をたてる方向で行う事になった。
基本的に代役の方には私が同行する事にする。
ルークだと面倒な第三王女の関係があるからだ。
王女だけならまだしも、ヴァルツァー五爵の方まで同時に発生すると面倒だし危険でもあるのだ。
もし王都で都合の良い屋敷が確保出来なかった場合は、最悪ミルロード邸にしばらく厄介になるので伝えておいて欲しいと言われた。
ミルロード卿なら、嫌と言うとは思えないので問題はないだろう。
そして、ここで迎撃する為の準備が必要な為、色々と仕掛けをする許可も貰った。
主に防御用の対侵入者用の警報とトラップみたいなものがメインだ。
ここに仕掛ける予定のトラップは、基本的にキーワード式のものにする。
何故なら、侵入者が居ない時にも発動する様な物は面倒で仕方が無いからだ。
私達の仲間内だけなら人数が少ないのでどうとでもなるが、今回の予定では王国軍の人間にも協力して貰う。
そんな大人数では、どうしてもミスが起きるだろう。
致命傷になる様な物は設置し無いとは言え、下手に発動させられても困るのは確かだ。
それ故の選択である。
主な設置物は《危険感知》の魔法具と拘束用ネットや粘着性の行動阻害弾発射装置等だ。
戦闘自体が予定され、これらの魔法具を使用する為には置いてあるのもは邪魔になる。
そこで室内の家具や貴重品は《アイテム》経由で全て避難させ、相手に違和感を持たれ無い様に《錬金術》を駆使して模造品を作成して飾っておく予定。
素材は沢山あるので問題は無いだろう。
土や粘土、土中に含まれていた金属も精製して結構な量を確保してある。
木材も沢山あるし、魔物の革に至ってはいくらでも供給可能。
因みに革以外の素材をどこで確保したかと言うと、ロウに任せている故郷の村で行われている工事現場での廃棄物などだ。
土はそのまま、石は細かくすり潰してから同じ規格の箱に詰め込んである。
木材は生木が殆どなのだが、乾燥される事自体を《錬金術》で盛り込んで作るので何の問題も無い。
見た目と強度だけなら十分に通用する出来の家具が出来るので、余程の目利きでも無ければ見抜けないはずだ。
製作する事になった場合、時間はあまりかけてはいられないはずだが、幸いリーナという作り手のお陰で速度は単純に二倍。
《自動MP回復(極大)》とオガ吉の《闇の魔手》によるMP吸収、そしてそれを有効に使える《浸食共有》によるMPの委譲。
最早、《錬金術》と《魔法付与》による製作に関しては、笑うしかない程の強化がされていた。
取り敢えずは領主との相談はひと段落したので、次は王城へ向かうことになっている。
さて、早速移動しよう。
☆ ☆ ☆
エルナリアの街から王都へ戻ってすぐに王城へ向かった。
予め行く事が決まっていたのですんなりと応接間に通され、少しだけ待つと数人が部屋に入ってきた。
既に会った事があるのは第一王子アレスクルト、レックスの上司、師匠の兄弟子で最近は私も習っている先生の三人。
そして、初めて会うのも三人。
一人は歴戦の戦士といった感じの男で、綺麗にはしているのだが傷も多い野外戦闘や探索に向いた装備をしている。
因みに、傷はあるが金がかかっていそうな良い品で装備を揃えてあった。
次は女で、傷一つ無い装飾の凝った鎧をつけている。
こちらは見た目だけが華美な普通の装備。
最後は布製で普通のローブを着た女だ。
軽く紹介があり、男の戦士が今回の五爵みたいな王都から離れた場所での作戦を行う部隊の責任者との事。
騎士である八爵らしいのだが、実力で部門責任者まで上がった強者らしい。
八爵ならば、金でこれだけの装備を整えるのは厳しい可能性が高い。
あれらは王国からの貸与品かな?
次に騎士鎧を装備した女なのだが、王妃様や王女様の護衛の為に存在する女性だけの騎士団の責任者との事。
正直、この女は役に立つのかが怪しいレベルだ。
何故なら《識別》した結果、
人間:女 レベル21
特殊情報:《カリスマ強化個体》《誘惑能力強化個体》《話術強化個体》
だそうだ……。
何この特殊情報!
見た事も無い系統の情報なんですが……。
ただ、やはりレベルの低さが気になる。
男の方はレベル38。
まさしく叩き上げの隊長に相応しいレベルだ。
レックスの所の上司は36。
ローブの女は精々十台終盤か二十歳位だとだと思うのだが、レベルは30もあった。
まぁ、レベル以外の評価基準もあるってことかね?
最後はローブの女なのだが、宮廷魔道部隊の隊長との事。
責任者は別に居て、あくまで隊長の一人との事……気が弱そうだし、貧乏くじでも引かされた感じかな?
向こうの紹介が終わり、私達の事も一応は紹介されたが、正直な所……ローブの女以外は反応が悪い……と言うか、馬鹿にした態度にしか見えない。
まぁ、気にしても仕方が無いので放置しているとルークが話を始めた。
こちらからの要望である、仮の屋敷の件は問題無かった。
主が居ない丁度良い物件があるらしく、既に場所が決まったとの事。
問題となったのは次の話だ。
ルークはこの段階で移動手段については語らなかった。
エルナリアの街で防衛を行う為、そこで襲撃に備える事だけを伝えたのだ。
まぁ、無難な対応と言えよう。
これに反応したのは、当然の二人。
「王子から同席するように要請があったので来てみれば……こんな子供が無理な事ばかりを言うとはな。申し訳ないが私はこれで辞退させて頂きます」
「そうですわね。正直な所聞くだけの価値がある話では無いでしょう。私も失礼致します」
そう言って、邪魔な二人が出て行った。
まぁ、最初からそれが予定通りなのだろう。
ルークも一瞬だけ躊躇したようだが、ローブ女以外は全く気にした感じが無いので話を続けている。
どうやら今回の件に一応は関係する部隊なので、声だけは掛ける必要があったと言う程度の奴ららしい。
「あの二人、実力はあるのだが頭が硬いのが難点でね。もっとも、宮廷魔道部隊に至っては責任者すら来る気は無いのだがね」
そう言われ、その役目を押し付けられたローブ女が顔を青くしながら俯いた。
私としてはあの女騎士に実力があるのかが気になって仕方が無いのだが、管理職や交渉事、お飾りとしての見た目の良さに関しては一流である可能性もあるので……面倒だから突っ込むのはやめた。
まぁ、どうやらここからが今回の相談の本番の様だ。
ルークも頑張って説明や交渉を行っている。
まぁ、今回は君がメインなのだ!
頑張れ!!




