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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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82◆ルークとの確認 エルナリア六爵への報告と相談

 ルークから第三王女とヴァルツァー五爵の件を聞き、私達は当事者となる可能性が高いエルナリア六爵に相談する事を決めた。


 六爵の午前は基本的に忙しいはずなので、午後になってから行く事にする。

急ぐ必要は無いのかと言えば、今日は一郎と次郎が向こうに居るので問題は無いだろう。

エグフォルドタイガー達には、現在魔送石を装備させて居るので能力も底上げされている。

40レベル以下の相手ならば、何人で来ようとそうそう遅れは取らないだろう。


 《迷宮の虜》による意思の疎通で、襲撃があった際には即連絡が来るのですぐに向かう事もできる。

因みに、移動にかかる時間は一分という所だ。

移動迷宮を呼びだしながら《フルブースト》発動、マスター用扉を経由しながら領主館へ移動出来るのだから少し時間を稼いでくれれば問題無いという訳だ。

まぁ……移動には多少窓なんかを壊すけどね!


 さて、取り合えず、行くまでの間にもう少しルークとは詳しく話をしておこう。


 まずは第三王女。

こちらの目的は、ほぼ確実にルークの抹殺であろう。

この王女は勇者の熱狂的な信者らしいのだが、特殊情報が《勇者信者》から《勇者狂信者》へとランクアップしたそうだ。


 この状態になると勇者への信仰よりも邪魔者の排除の方が優先となり、勇者の元へと旅立った可能性はほぼゼロとの事。


 ただ、あくまでも勇者の敵に対して以外は普通である為、一般人を巻き込むような事は基本的にはしないらしく、ルークと私以外に襲われる心配は無い様だ。

因みに、老魔術師じじいを連れ去られている事と、王城で保管されていたエゲツナイ効果の魔法具も持ち去られて居る為、老魔術師じじいから強引に情報を抜き取っている可能性が高い。

その事から、私の事もバレている可能性が大きいという訳だ。


 王女の戦力として考えられるのは、本人と爺の《迷宮の虜》達位だろう。

爺本人はほぼ廃人らしいので除外。


 それに対して、先日、ルークに勧めて五体の魔物を《迷宮の虜》で従魔にさせている。

それらにも魔送石と魔素の供給を行っているので、数は同数でも質は勝っているだろう。

油断していなければ、そうそう負ける事は無いのでルークには頑張って貰う方向で。


 問題はヴァルツァー五爵の方なのだが、シェリーに対しての襲撃はそこまで心配する必要は無いだろう。

王都に闇稼業の人員を派遣するとしたら、大規模に送り込む事は流石に困難だ。

一人二人ならばシェリーに渡してある魔素《アースシールド》を発動する魔法具で防げるはずだし、近くにはエグフォルドタイガーも何匹か居る。

となれば、やはり六爵本人と使用人の安全確保に関してが今回のメインとなるだろう。


 まずはルークにどう考えているのかを聞いてみたのだが、大規模で、かつ相手に知られ無い様に動く必要があるだろうとの事。

理想としては王都にしばらく使用できる屋敷を用意して、使用人も含めて全員で避難した方が良いという考えの様だ。

その上でエルナリアの屋敷には私達と王国軍で詰め、襲撃してきた場合は撃破する方向を考えているらしい。

まぁ、妥当かな。


 特に問題は無さそうだったので、


「そうね。闇雲に王国軍が動くよりも、領主館にある程度の人数を割いて貰った方が良いと思うわ。私達だけで待ち伏せても良いけど、人数が少ない事が向こうにバレるのは警戒されて逃げられる可能性が高くなるからお勧めはできないわね」


と、同意しておく。


 聞いている限り、ルークの考え方に問題は無い。

因みに、あくまで私との差が無いだけで絶対の正解と言い切るつもりは当然ない。

そこで、今回の件は貴族や王族相手をする事が多くなってきているルークの成長の為にも、私はあまり口を出さない様にする方針でいこうと思う。




 ☆ ☆ ☆




 基本的な方針は決まったので、午後の早めの時間に当事者であるエルナリア六爵の所へ報告と相談をする為に移動した。


 今回、ゲルボドとミラをシェリーの護衛として置いて来てある。

残念ながら、あの二人は交渉や相談にはほとんど寄与しないからだ。


 リーナも一緒に置いて来たのだが、シェリー達が一生懸命構い倒すので寝たり起きたりを繰り返していた。

まぁ、正直に言えばリーナはゲルボドと同等の強さを持っているので、ああ見えて心強い護衛も兼ねている。


 エルナリアの領主館には二つのマスター用扉が設置されているのだが、一つは私の迷宮経由で正門の近くに置いてある。

もう一つはルークが作ったミルロード邸とエルナリア邸を結ぶ独立ルートなので、今回の場合は当然こちらを使った。


 問題と言うほどでは無いがこのルートを使うと屋敷の中に設置されている扉から出現する為、要件を伝えるには直接領主の部屋の前まで行く事になる。


 約束もしていないのにいきなり部屋の前まで行く事になる点についてだが、王都からエルナリアに戻ってからは師匠の工房がある事からも好き勝手に屋敷の中をうろついている。

最早、勝手知ったる何とやらと言う感じなのだが、誰も何も言わないので既に容認されているのだろう。


 領主の部屋へ着くと、いつもの様に例の執事が居たので面会を申し込んだ。

領主はやはり午前中は仕事で居なかったようだが、午後からは書類仕事で部屋に居るとの事。

問題無く面会が許可され、部屋へ通された。


「ようこそ、二人とも。何か至急の用件があるとか。二人揃って……と言う事は、結構な大事かね?」


領主は、珍しく私達二人だけでいきなり来た事で何かあったと感じたらしく、そう聞いてきた。


「そうですね。あまり良い状況とは言えません」


私がそう言うと、領主がそのまま続きを促してきた。

そこからはルークに任せるつもりなので、視線で続きを言うように促した。


 ルークが、まずはヴァルツァー五爵について王城で聞いた内容を説明する。


「そこまで用意周到に逃げる準備をされていたのではどうしようもないな。そうなると、考えられる行動は二つ……国外へ逃げるか……ここへ報復に来るか、かな?」


私達の意見を聞く形で言葉を区切ったので、


「はい。どちらにしても恨みを買っているのは確かです……逆恨みとしか言いようがありませんが。それで、こちらに来るにしても国外へ逃げたにしても、安全だと判断が出来るまではこのお屋敷から避難して頂きたくて相談に来ました」


そう、ルークが答えた。


 領主が考えているような雰囲気だったのでしばらく待つと、


「避難する……と言っても、少しの間逃げ出してどうにかなる問題ではないと思うのだが、解決策はあるのかね?」


「まずは領主様の考えを確認してから決める方針なので先に説明に来たのですが、しばらく王都へ避難して頂こうと思います。必要な物は国の方である程度融通して頂けるようなので、こちらのお屋敷の代わりに使える物を用意して頂いて全員移動が望ましいですね。そして、こちらへは僕達と王都軍の方を派遣して貰ってしばらく様子を見る方向でどうでしょうか?」


ルークの答えにハッとした表情を浮かべ、


「それは、迷宮経由で全員移動させるつもりなのかね?」


そう聞いてきた。


 領主にその考えは無かった様だ。

まぁ、確かに迷宮を経由するなんて普通では有り得ないので、隠すのは当然ではある。

だが! ハッキリ言おう!!

シェリーがここに戻ってきている時点でアウトだ!!!


「この状況を有効に使う為にはそれが一番だと思います。あくまでこの後に王城で相談した結果になりますが、王都にこのお屋敷の代わりを用意して貰い、現在ミルロード卿の所に置いてある扉をそちらへ移します。その上で全員に移動して貰い、こちらへは僕達と王国軍の方が待機して襲撃を待ちます」


ルークがそう告げると、


「本来、今回の件は私とヴァルツァー五爵との問題。一応は領主という私の立場からすると、これ以上君達に迷惑をかける訳にはいかないと言う返答をしなくてはならないだろうな。今更な気はするが、それが貴族としての常識というものらしいからな。もし力を借りるならば、それ相応の報酬が必要となるだろう。しかし今の君達に対して十分な報酬となると……という事になる」


そう、領主が言った。


 正直、私と領主の間に今更報酬云々と言う話が出る意味が分からなかった。

師匠と私、ルークとシェリーの関係のせいで、もう全てがどんぶり勘定と言える状態だからだ。


 その後、理由を聞いた私は思った……貴族は何故こんなに面倒なのかと!

本当に厄介な奴らばかりだな!!

そういう感じでした……。

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