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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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80◆ルークは用があるので私達はそのままのんびりです

 ルークはリーナに関する事でまだまだ聞きたい事がありそうだったのだが、今日は何か重要な話があるとの事で城に呼ばれていた事も有り、詳しい話は後で聞くと言い残して部屋を出て行った。


 これまでの二週間の間に、私達の実家へシェリーやミラ、ゲルボド、ミルロード卿&エルナリア卿を連れて行ったことがあったのだが、ミラは実家で妹のルナと仲良くなっていた様だ。

シェリーは私達の母さんと一緒に居る事も多かった為、あまりルナと話が出来なくて残念がっていた。

そのせいもあってか、リーナを膝の上に乗せてずっと話をしている。


「それにしても、流石に私が母親って言うのは年齢的に疑問を持たなかったの?」


そう聞いた所、


「何と言えばいいのでしょうか……お姉さまの雰囲気が、何故か十五歳に感じる事が出来ないと言うのが正直な所なのです。そのせいでしょうか? 不思議と納得できてしまいました。」


との事。


 ゲルボドはともかくミラも同じ様な感じらしく、違和感が無かったらしい。

う~む。

前世でも子供は居なかったので、あまりお母さんな雰囲気は無いと思うのだが!

まぁ、大人っぽい雰囲気を醸し出していると解釈しておこう。


 ルークが帰って来るまでは暇なのだが、リーナは確保されているし全員がのんびりモードに入ってしまっているので動くのも面倒だ。

ここは、このままで出来る事をやろう。


 ゲルボドは部屋の隅で既に半分寝ている感じなので、私もクッションを持ってそちらへ移動する。

ゲルボドは寝る為に尻尾が邪魔なのか、思いっきりうつぶせで寝ているのでその背中の上にクッションを置いてそこに頭を乗せる。

チラッとだけ半分目を開けたゲルボドは、何も言わずに再び目を閉じた。

それを確認してから私も目を閉じる。


 眼を閉じてすぐに《浸食共有》によって亜人達と一緒に居るパペット、【リーナドール(仮)】……通称ドールに意識を移す。


 亜人達は部屋には居ない様なので、次にマツリへ視点を移した。

どうやら私の迷宮内で狩りをしているらしく、オガ吉の姿も見える。

ミノ太とゴブ助は別の所に居るらしく、マツリの視界内には居ない様だ。


『マスター? どうかなさいましたか?』


私が《浸食共有》で視覚を使っている事を感じたマツリが問いかけてきた。


『他の二人はどこに居るか分かる?』


『はい、例のキノコ部屋に採取へ行ってます』


私がそう聞くと、すぐに答えが返って来た。


 因みにキノコ部屋と言うのは、私が何となく迷宮内でもキノコは育つのか……? と言う疑問から始めた栽培施設だ。


 亜人達が住んでいる七層の真上、六層で魔物の侵入を塞いでいる部屋で、食用のキノコを苗床になる土や枯れ木を持ち込んで育ててみている。

意外と程良い湿気があり、今の所順調な気はするし、成長が速いものは既に亜人達が食べている。

管理は主にゴブ助が行っており、手伝いでミノ太も付いて行ったようだ。


 どうやらこれから食事を作る様なのだが、大型の冷蔵用魔法具に食材はそれなりに入れてあるので最近は色々と料理もしている。

因みに、一番料理が上手いのはミノ太だった。

ぶっちゃけると、私よりも上手い。


 正確に言えば、ミノ太は思いっきりミノタウロスの姿をしているが人間からの転生者だ。

本来の転生者は別人格として存在していたらしいのだが、とても酷い性格だった為、リーナが邪魔だった人格を潰して記憶を吸収した事で一つになったとの事。


 一番人間離れした姿なのに一番常識的という、物凄いギャップのある存在となってしまっている。

料理の腕は前世の記憶のお陰であり、行動自体も恐ろしく人間臭いのである意味衝撃的だった。


 本当はこの暇な時間で少しやりたい事があったのだが、食事をこれから作るとなると時間的に微妙かな。

そこまでどうしてもという訳では無いので、ここは撤退しておこう。

因みに、私がやりたかった事とリーナの移動迷宮が置いてあるのは同じ目的なのだが、まぁいずれ語ろう。


『また夜にでも連絡するわ。それじゃね』


そう言って、私はマツリから視覚共有を切った。


 そう言えばこの亜人達なのだが、《浸食共有》に上書きされて私の《迷宮の虜》では無くなった為、五体とは別枠で迷宮外へ出せるかと思ったら普通に制限で引っかかってしまった。


 繋がりは切れているのだから、流石にそれは無いだろう……責任者出て来い! と思いながら《迷宮の虜》の解除をしてみると、今度は普通に出られるようになった。

……何故そんな所だけ残ってるのかと文句を言いたい所だが、残念ながら誰かが管理しているかどうかも分からないのでは文句の言いようがない。




 ☆ ☆ ☆




 目を開くと、隣にミラが寝ていた。

人の動く気配は感じていたし、歩き方からミラかなと思っていたので予想通りではある。


 リーナは相変わらずシェリーの膝の上で、話をしながらお菓子を頬張っている。

ルルも加わって可愛がっている様だが、ラナは少し離れた位置で皐月さつきを撫でながら静かに座っていた。


 さて、現在の私は覚醒者と言う状態にあり、睡眠時間が一時間も必要無い為に正直全く眠くは無い。

この状態で寝ころんでいても暇なだけなので、少し簡単な作業をしておこう。


 まぁ、作業と言いながらやる事は単純な事だ。

例の《スティールMP》で効率よく吸収出来る特殊な魔石を結構な数用意してあるので、このまま寝転んでMPを供給するだけである。


 内容的には、右手に《アイテム》から加工した魔石を取り出してMPを封入、再び《アイテム》へ戻すだけの簡単なお仕事です。

一つの魔石に封入出来るのは百程度のMPなのだが、これの有効な活用法も現在開発中なので乞うご期待と言った所だ。

まぁ、ぶっちゃけると《スティールMP》を《付与魔法》で魔法具化しようとしてるだけなのだが!


 現在の感触としては行ける感じがしている。

逆に、無理だと感じたのは《フルブースト》だった。


 魔法は比較的容易に封入可能なのだが、《フルブースト》は単独魔法では無く複合魔法な為か、上手く一つの回路として纏まってくれなかったのだ。

逆に《危険感知》と同じ様に微調整で少しづつ上手く発動に近づいている感触がある《スティールMP》は、そう遠くない段階で完成に漕ぎ着けるだろう。


 もしこれが完成すれば、色々と利便性が向上する事になるだろう。

一番の利点は、師匠や先生に事実上のMP移行が可能になると言う点だ。


 私は豊富なMPで結構強引に終わらせているが、師匠や先生は無駄を省き、合理的に研究を進める事になれている。

要は、考え方自体が洗練されていると言える。


 そこに多くのMPが供給される事は実験と研究速度が飛躍的に上がる事を意味し、私からの依頼も色々と受けて貰える事に繋がるだろう。

人数が多い事は発想の着眼点の多様化が起き、それらが交わる事で更に発展する可能性も広がる。

これは私達の為にも大いに役立ってくれるはずだ。

もっとも、一般に広げる気はないけどね。




 ☆ ☆ ☆




 ダラダラとMPを封入しまくっていたのだが、流石に封入する魔石の方が先に尽きた。

MPは《自動MP回復》系で随時回復しているのでまだまだ余裕はあるが、流石にこんな態勢のままやれる事は少ない。

いい加減起きるか、と思った時にルークが帰ってきた様だ。


 もっとも、部屋には入って来ないで《通話》をして来たので、どうやら取り敢えずは私と話がしたいようだ。

まぁ、リーナの事を色々確認しておきたいのだろう……そう、予想はしていました。

それは半分当たっていたが、それだけでは無かった。

どうやら、中々面倒な事が起きている様ですよ……。

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