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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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78◆王都集合からの二週間にあった出来事(4)

 さて、十四日間の間にあった事で最大の衝撃を伝えよう。

それは十三日目の朝の事だった……。


 朝起きたら……呼吸をして無い事に気が付いた。

最初に考えた事は……あ、又死んだ? だった。

流石に過去に死んだ事がある経験は伊達では無い。

衝撃は殆ど無く、淡々と自分の状況確認をしていく。


 心臓の鼓動を感じない。

しかし、血液は流れて居る。

おや?


 体温も平熱位に感じる。

何故?


 これはどんな状況なんだ?

そう思って、身体に流れる魔素の流れや消費量で状況を確認する。


 ……大体理解出来た。

私の身体はどうやら仮死状態に近い様だ。

肉体全体の細胞がほぼ機能していない。

そのくせ、人間として違和感のない生命感は残している。


 鼓動は無いのに血液が流れ、細胞は動いていないのに熱は維持する。

食べ物を口にしてみた所、消化は胃の辺りにある魔素がそのままエネルギーに分解変換している様だ。

胃で全てを分解吸収している様なので腸は停止したままであり、間違い無くトイレにはもう行かない事になるだろう。


 さて、この状態で生きていると言えるのか?

勿論、死んでは居ない。

しかし、普通に生きているかと言えば難しい。


 何故なら、私の現状はどうも半精神生命体となっており、肉体と同化しながら操って居る感じの様だ。

脳も活動を停止している為、必要な情報は外部の記憶媒体を読み取る感じで行っていると思われる。


 魔素と同化した半精神生命体。

それが今の私にピッタリな表現かもしれない。


 現状だと肉体から離れる事は出来ないが、もしかしたら肉体が壊れたら別存在に変わってしまうかもしれない。

その時に私の自意識があるかどうかも怪しいので、流石に試す気にはならないが。


 そこで気になって自分に《識別》を使ってみた。

特殊情報には、新たに《覚醒者(第一段階)》が追加されていた。

そこで大体理解できた。

私はどうやら、人から一段階上の存在へ上がったらしい。


 まぁ……正直に言えば、これは想定内なので全く驚きはないのだけどね。

前世で会った異世界人、ラス=ニールはこの状態の先にいた。

本人曰く、


「精神生命体とは言っても、肉体を保持している限りは人間と変わらないから問題は無い。加えて言うなら、普通に肉体に完全同調する事も出来るから人間として人生を終える事も可能。肉体が死んだら完全な精神生命体として活動することになるけどね」


と言っていた。


 自分でなってみた感じとしては、呼吸が無い事と心臓が動いてない事以外に変化は感じられない。

死人が動いて居るのと違い、肉体を流れる魔素をエネルギーとして使用しているだけでほぼ人間と同じ機能を有している。


 明かな変化としては、呼吸が必要ないので水中等の活動が可能。

トイレに行く必要が無い。

まだ確認はしていないが、今日の睡眠時間は一時間位だったので、下手をするともっと短くなっているかも。

因みにラスは一日の必要睡眠時間が十分程度と言っていたので、おそらくいずれはその辺りまで到達するのだろう。


 不便になった事は……。

うん。

便利にはなったが、困る事は何も無いな。


 正直に言えば、こうなる事を私が望んでいたので全く問題は無い。

理由は簡単だ。

魔素の海って、呼吸が出来ずに渡れるの? と言う疑問があるからなのだ。


 単身魔素の海を渡るラスと同じ条件にはしておきたい、と言うのが私の希望である。

いつかは前世の世界の結果を見たい。

それが私にとっての最終目的なのだから。




 ☆ ☆ ☆




 午前は製作作業を行う日と先生や師匠と一緒に《付与魔法》の修行というか勉強会を行う日に分かれているが、この日は先生の都合があるので製作予定だった。

リーナが《魔素の泉》を習得してからは、リーナと一緒に製作を行っている。


 師匠は生活の為に数種類の同じ製品を《錬金術》で作り出す生活をずっとしてきたが、先生や私に触発され、更には十分な素材が好きに使える事で研究熱が再燃した事もあり、私だけでも大丈夫な状況だと伝えて手伝いは当面お願いしないと伝えてある。

毎日色々と試行錯誤しながら頑張っているので、成果が出る事をとても期待している。


 製作に使用している場所に行くと、リーナは亜人達と一緒に何かやっていた。

どうやら迷宮から回収してきた素材で、亜人達の装備を追加や改良している所の様だ。


 ふと、何となく気になってリーナに《識別》を使ってみた所、


粘人族:女 レベル34

特殊情報:《混沌の結晶》《捕食融合体》《形状変化》《浸食共有》《女神の加護(亜種)》《覚醒者(第一段階)》《???》《???》


うん、増えてる。


 単に同時にそうなったのか、それとも私に触発されたのかは判らないが、リーナも覚醒者になってる様だ。

まぁ、元々呼吸していたか怪しい生態なので、私以上に変化は乏しいとは思われるが。


「みんな、おはよう」


そう言って、皆の所に行くとリーナが立ち上がって抱きついて来た。

亜人達は整列して一斉にお辞儀をする。

動きが更に洗練されてきているのを感じる。


 まずはいつも通り魔送石の製作から開始。

リーナがいる為に製作テンポは飛躍的に伸び、一日三個を目途に量産している。

魔送石には魔素を送る以外にも使い道があるからだ。


 魔送石の原型、魔送流の腕輪(仮)だった頃から確認出来ていた事だが、この石は魔法を送り込む事が出来る。

要は、見えて居ない場所に居ても魔法対象に出来るのだ。


 これには使い道が色々ある。

そして、魔素自体を送る場所も増やす方向で考えている。

まずは一郎達エグフォルドタイガー達と、ルークにもそろそろ従魔として《迷宮の虜》を五匹程用意させてそれらに魔素を供給する。


 今までは数に余裕が無かったが、これで一郎達は魔法物質が希薄なエリアでの活動が可能になり、特殊能力も性能が向上する可能性がある。


 それからルークを始めとした仲間にも装備させる方向だ。

最初は極微量を流し、余裕を確かめながら増やしていく。

現在の私は魔素の流れを恐ろしく正確に把握出来るようになっている。

肉体に負荷がかからない量を見極められる自信がある。

そろそろ全体的な強化を図る事が出来る余裕が出来てきた。

思っていたより恐ろしく展開は早いが、準備が出来たのなら躊躇しても仕方が無い。

一気に突き進もう。



 

 ☆ ☆ ☆




 これでこの二週間の事は大体は終わりかな。

その他の事としては、ずっと前から試していた魔素を直接原魔石に封じ込む方法は無理だと分かった。

先生や師匠を交えた実験により、直接魔素を送ると原魔石に使用している専用魔法の構成をぶち壊す事が判明。

ただ、魔素に調整した専用魔法を作る事が出来れば可能だと言うのが全員の一致した考えだ。


 これに関しては一番得意なのが先生なので、先生を中心に特殊魔法を構築中。

因みに、熟練の《変換魔法》使いは魔法を自分の意志で構築し、無駄な部分を削ぎ落しながら呪文として構築可能なのだとか。

私も今後は余裕がある時に、教えて貰いながら呪文化の作業を頑張ってみよう。


 後は……相変わらずな物として《魔獣の牙城》は《自動MP回復(極大)》のお陰でここ数日は毎日一~二回MPを供給出来ている。

このまま続けて、駄目そうなら諦める方向で。


 それ以外に、村周辺にある石碑迷宮に関しても特に変化は無い。

こちらに関してはその他の三つの迷宮にヒントがある可能性もあるので、ある程度余裕が出来たら探索した方が良いだろう。


 問題はどういった構成で行くか……という点である。

普通に考えればルーク達にリーナを加えたメンバーが妥当だろう。

しかし、今回の覚醒によってリーナや私は睡眠時間が一時間を切る事になった。

そうなると、その二人に亜人を加えた構成でのチャレンジも有りだと思える。

屋敷の番にしているエグフォルドタイガー達も連れ出せれば良いのだが、全部を連れて行くとルーク達にバレそうなので状況次第かな。


 まぁ、準備は色々整ってきた。

ここからが本番と言えるだろう。

まずは【竜殺し】を目指して、頑張って行くとしましょうか。

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