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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
幕間一
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幕間一の9◆学院組その後3(シェリー)

 私の名前はシェリー=アリエス=エルナリアと申します。

フルネームでは今回が初めてなので、この機会に名前の構成も説明をさせて頂きますね。


 その名前についてなのですが、最初が個人を現し、最後が家を現すのはご理解して頂けていると思います。

問題は中間に位置する名前なのですが、こちらは貴族と正式な聖職者だけが持つ、女神様に捧げた神聖名となります。

ですから、お父様はヴァリであり、私はアリエスと言う名前が神殿内や女神様に関係する場所で使われる個人名となります。

逆に、それ以外の場所ではほぼ使われません。

神聖な名前の為、それ以外の場所で使う事は不敬とされる為です。


 さて、現在は決闘から十日程経っています。

学院は五日間が授業、二日間が休みという流れを繰り返しており、それ以外に臨時の休みが偶にあります。

長期休みは年に一回、夏の始まり位から約三か月間となります。

何故そんなに長いのかと言うと、私の実家もそうですが、往復に一ヶ月や一ヶ月半かかる事を考えて頂ければ納得して頂けると思います。

因みに一ヶ月は三十日で、お姉様がたまに使う一週間という単位は、私は他では聞いた事がありません。


 この長期休みなのですが、一年目の私達の学年ではあまり帰るかたは居ない様です。

余程近い場合を除き、遠方からの往復による危険性とかかる費用を考えると当然の選択と言えます。

私に至っては、三年間の長期休みに帰る予定すらありませんでした。


 所が状況は一気に変わり、現在は二日の休みの後半を実家で過ごす事になっています。

これは、お姉様が持つ迷宮の能力で自由に行き来できる様になった為です。

三年間はお父様とは会えない可能性が高かった為、とても嬉しいです。


 そして二日ある休みの前半なのですが、誰かに用事が無い限りはクレイスやメイと一緒に過ごす事になりました。

決闘の件でより二人との関係が深まり、クレイスの御屋敷へ招待された事が切っ掛けでそう決まったのです。


 この集まりには現在そこまで忙しくも無く、移動は迷宮経由で必要な場所に行けるお陰で余裕のあるお姉様にも参加して頂いております。


「時間が取れる間は参加しても構わないわ」


と、お姉様からの同意も得られているので毎回お声を掛ける事にしているのです。


 私としてはルーク様にも参加して頂けると嬉しいのですが、その事をお伝えした時に若干困った顔をなさいました。


「シェリー、ルークの参加は止めた方が良いわ」


そこに、お姉様からも参加に同意して頂けないお言葉が……。


 ですが! クレイスやメイもお会いしたがっているので、素直にこのまま引く訳にはいきません。

そこで、


「クレイスやメイもお会いしてみたいと言っていますので、一度で良いのでどうでしょうか?」


そう、聞いてみた所、


「シェリー……、それが不味い理由なのよ」


だそうです。


 理由を聞いてみました所、


「シェリーがルークと初めて会った時はどんな感じだった?」


と聞かれました。


「初めてお会いした時から、それまで持っていた冒険者さんのイメージと違ってとても優しそうで、お聞きしていた実績が信じられないほどの謙虚で誠実な方に見えました。お父様がいましたので私がお話する事はほとんど無かったのは残念でしたが、その頃からルーク様が特別に見えていたのは確かですわ」


そう答えると、


「ルークが優しくて誠実で謙虚なのは認めるわ。ただ、その件は私も話は聞いているのだけれど……領主様が居た事だけがシェリーと話や視線を交わす事が無かった理由では無いのよ。それが、まさに今回反対する理由でもあるのだけどね……。ハッキリ言って、ルークは貴族の方と話をするのが苦手なの。まぁ、それはある意味当然ではあるのだけれど。そこらに点在する農村育ちの十五歳成人直後で、堂々と貴族相手に話が出来る方がおかしいのだから」


と言われました。


 言われた内容に関しては納得できるのですが……何かが引っかかります。


「ですが……お姉様、お姉様がそのように気後れした所は見た事がありません。ルーク様にしても、おじ様とお会いした時には普通だったと思うのですか?」


そう、疑問を口にした所、


「私は少し訳ありで、別に気後れとかはしないわね。ルークとミルロード卿に関しては、最初からフレンドリー過ぎて緊張すらさせて貰えなかっただけかな。加えて、ルークの中では私やゲルボドと同じ分類に仕分けられているっぽいし」


そう言いながらルーク様の方へ視線を向けたので私も一緒にそちらを見ると、ルーク様はわざと視線を逸らせていました。


 お姉様からクレイスとメイの夢を壊さない為にも、もう少しルーク様が自信を持つまで待って欲しいと言われてしまいました。

私は大丈夫だと思うのですが、お二人共から賛同を得られなかったのですから諦めるしかなさそうです。


 しかも、


「そういや、今更シェリーに隠しても仕方が無いから教えておくわ」


と、軽い感じにとんでもないお話が飛び出しました。


「私がルークと違って貴族相手に気後れしない理由なんだけど、ゲルボドと同じ様に私は異世界から来たからなのよ。ただし、ゲルボドと違って死んでから生まれ変わっているけどね」


との事です。


 どうやらお姉様は一度、二十二歳まで別世界で生き、死んだ後に女神様に呼ばれてこの世界に来たそうです。

しかも、その理由が勇者様になる為だったとは……驚きです!

実際には勇者様が少し遅れながらも生まれ、お姉様は一般人としてこの世界に転生してきたそうです。


 本来ならば何の能力も無く、記憶も残らないはずだったはずですが、ルーク様と双子であった為に予想外の事が起き、消えるはずだった能力や記憶がお姉様に再吸収されてルーク様と共に能力が宿ったとの事。


 《女神の祝福》をお持ちなのは知って居ましたが、まさかその正体が勇者様の能力の一部その物だった事には驚きを隠せません。

もっとも、これでスキル獲得方法が普通では無さそうだったり、勇者様しか使えない《無詠唱魔法》や《無限倉庫》に似た収納能力である《アイテム》が使える事にも納得がいきました。


 また、お姉様個人の能力である《魔素の泉》が前世の能力である事や、ルーク様より更に強い理由が色々明かされて驚き疲れてしまいました。

その反面、流石お姉様と今まで以上の憧れと尊敬の念を抱く事になったのは言うまでも無いでしょう。


 それにしても……そうなると、ルークも勇者様のお力の一部をお持ちになる訳で、世界でも希少な能力と強さを有した偉人となる事が約束されているようなものです……。


 では、私はその横に立つ程の資格があるのかと問われた場合、正直な所……自信を持ってあるとは言えません。

所詮、私は貴族の末席に何とか名を連ねているに過ぎず、もし無事に結婚出来たとしてもルーク様が得られる物は国の外れにある特徴の無い領地だけ。


 ルーク様を信じられない訳ではありませんが、私よりも魅力的で得られる物が大きい方などいくらでもいます……。

ルーク様の凄さが分かってしまった為に、正直な所……急に不安が押し寄せてきました。


 そんな私をお姉様がじっと見ていたのですが、


「ルーク、ちょっとお使い頼める?」


そう言って、ルーク様に迷宮から何かを持って来て欲しいとお願いしていました。


 ルーク様が部屋から出ていくと、


「シェリー、そんなに自信の無さそうな顔しないの! ルークにとってシェリーが一番なのは事実なのよ? この先に出会う可能性がある誰かなんて正直どうでも良いの。ルークは既に売り切れ! シェリーはそのルークに相応しいと思って貰える様に努力して行けばいいの。因みに、ルークには浮気は絶対に駄目だし、そういう誠実さの欠ける行動をした場合は私が許さない事を徹底して教え込んでいるから心配無用よ」


おっしゃいました。

完全に御見通しだったようで、……流石に恥ずかしい……です。


 お姉様の前世では一夫一妻が基本であり、子供の頃からそのお姉様に教育されてきたルーク様は完全にその考えに染まっているらしく、ルーク様の性格も相まってまず大丈夫だと念を押されてしまいました。

結婚する相手から得られる損得勘定で言えば、出来るだけ王侯貴族には近寄りたくないルーク様にとっては私が考えていた事はデメリットでしかなく、私ですらルーク様の御実家がある領地なので抵抗が薄いだけだと言われてしまいました。


 それならば、お姉様という心強い味方の居る私がいつまで悩んでも意味はありません!

私に出来る努力をし、ルーク様のお隣に自信を持って立てるだけの淑女になれるように頑張れば良いだけです。

お姉様に守って頂いたこれからの学院生活を大切にし、ルーク様やお姉様に胸を張れる様に努力して行きたいと思います。

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