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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
幕間一
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幕間一の7◆学院組その後1(クレイス)

 私はシェリーの友人で、クレイス=フェイ=ラミナスと言います。

お父様の爵位は六爵。

すごい裕福という訳では無いけど、それなりに安定した生活は出来ているので十分と言えるでしょう。


 私の家は土地を持つ貴族ではあるのですが、商業活動の方にも重きを置いています。

その件に関しては、元々は商人の家系にラミナス家の四女が嫁ぎ、本来ならそこで継承権が無くなるはずだった所に、領地に居たラミナス家全滅と言う恐ろしい状況が発生した事が発端となっています。


 嫁ぎ先に着いて二日目、七日目に現当主の前で正式な継承権辞退を行う予定であった為に今はまだ継承権があったその日……ラミナス領に居た一族全員が、隣国から押し寄せた魔物と盗賊団によって全員死亡したとの報が伝わったらしいです。


 四女が嫁ぐ為に出発した二日後、貴族籍から抜ける際の習わしとして数日遅れて出発する筈だった当主が家を出る直前に襲われたらしく……本当に運命の残酷さとしか言いようがありません。


 すぐに王国の軍隊の方が出兵して討伐と混乱の鎮圧を行いましたが、荒れ果てた土地と有効なままの継承権が残ったという訳です。


 そのままでは領地からまともな収益など見込めず、継承権を破棄出来ずに持ってしまって居る為、廃爵とするのは国王様に対する不敬と言われ……どうにか模索した結果が、爵位を持ちながら商人としての活動を行う現在の形だったようです。


 仕方が無い事ではありますが、貴族達からは貴族モドキだとか商人貴族などと言われて陰で蔑みの対象にされる事も多いと聞いた事があります。




 ☆ ☆ ☆




 私の実家は隣国に直接隣接とまではいかないまでも、相当近い位置にある土地です。

王都までは結構な距離がありますが、近隣に歳の近い学院組が数人居ましたので、ここに来るまでに困る事はありませんでした。


 私が王都へ来る際には四つの家が合同で護衛を用意し、更にはお父様達で日程を予定したらしく、とある三爵の令嬢が王都へ向かう少し後を移動するように調整したらしいのです。


 この令嬢の家は実家の辺りを纏める大貴族である為、父に連れられて何度かご挨拶等にも言った事があるのですが、その度に私は色々と嫌がらせを受けていました。

私は貴族では無く、ここに来る資格など無い……との事です。


 王都へ着いてからは、後をつける様な真似をする……浅ましく下賤な奴だと馬鹿にされ続けました。

事実も多少は含まれている上、そもそもが反論する事は自分の立場だけでは無くお父様にも被害が及ぶ恐れがありました。


 その為に何も反論はせずに我慢をしていたのですが、学院でお友達になってくれた私と同じ六爵家の娘であるシェリーが止める様に意見してくれました。


 嬉しい反面、その行為がどんな悲劇をもたらすのかに恐怖を感じた事も確かです。

その予想は当たり、今度はシェリーが攻撃される対象となりました。


 この件に関しては……私には何も出来ず、決闘騒ぎにまで発展させられて苦しむシェリーに何度心の中で謝ったのかは分かりらない程です。


 決闘に負ける事は相当なデメリットが生じます。

それを……こんな無茶な話で押し通す三爵の令嬢には殺意すら湧いたのも事実です。

しかし、そんな状況から一転。

以前からお話だけは聞いてはいましたが、お姉様が決闘に間に合い、圧倒してしまいました。


 あの時の感動はずっと忘れる事は無いでしょう。

後で聞いたお姉様のレベルは36。

私のお父様が雇っている護衛の方ですら20台な事を考えると、私達よりたった三歳の違いでその恐ろしいまでの強さは異常と言えるとの事です。


 しかも、一緒に連れて来た魔物の強さは33~34レベル。

五体全部を相手に戦うのならば、一流と言われる冒険者が三十~五十人必要なのだとか……。

この事実により、対戦相手が10レベル以下ばかりの決闘には全く意味など無く、いかに被害を抑えて終了させるかが審判役の先生達が努力した点だそうです。


 正直な所、この決闘の後は学院における私達の環境が明らかに変わっています。

特にシェリーが。


 今までは、下位の貴族である私達は見下されて相手にされない方向で放置されていました。

今はと言うと、畏怖の対象と言えばいいのでしょうか?

絶対に触れる事が許されない、恐怖の対象といった感じです。


 まぁ、その気持ちは良く分かります。

あのお姉様の圧倒的な戦力は、絶対に係わってはいけない物だという事を全員が理解出来るからです。


 同レベルの一対一ならばどう転がるかは分かりません。

しかし、六人で相手にしてようやく対等であるエグフォルドタイガーが、たった三人分で決闘に出れてしまう現実。

このハンデだけでもどうにもならないのに、一流の方達だけでその人数を集めるのは余程のコネか繋がりを必要とし、更に膨大な量のお金を必要とします。

まともな神経の方なら挑む気すら失せるでしょう。


 因みに、六人で挑む必要がある魔物が何故三人分なのか?

六人分に変えられないのか?

そう思う方も居るかもしれません。

しかし、魔物の強さは千差万別。

決闘時に全てが分かる訳も無く、結果として、大きさや種族で規定されているのが現状なのです。


 そして、お姉様に叩きのめされた計十五名がどうなったのか……その結果も恐怖を増大しています。

そう、今も学院に残っているのはたった三人だけ。

他は全員実家に戻されているのです。


 これが何を意味するのか……?

貴族の家に生まれた者の最低限の義務である、三年間の学院生活の剥奪。

即ち、貴族である事の終わりを告げられたという事です。

因みに、病気や国で認めた例外では融通が利く場合はありますが、基本的に十二歳~十五歳だけが学院に通える期間となっています。


 今回の事を逆恨みし、私達に危害を加える事が出来ない様に……彼ら彼女らは各家で幽閉されると先生から聞かされました。

また、シェリー、メイ、私とお姉様、更にはその保護者等に、あまり表だって動かない様ではありますが、外に出る時は密かに護衛が付いて居るようです。


 これは、最低でも私達が学院に居る間に何かあった場合に、加害者側の貴族達は自分が関係する全てを徹底的に調べられる為、完全に真っ白な統治を行っていない場合は何が御家断絶の危機に発展するか分からないからという理由です。

その為、私達は高額の維持費を払ってでも護衛しなくてはならない対象となってしまっている訳です。


 そして、お父様にはもっと直接的に護衛が付いて居るらしいとの事。

レベル20台の方が十二人でローテションを組んでの対応らしく、命に代えても守るよう命じられていると言う事からも……その本気度は相当な物を感じます。


 因みに、その三爵様からは商売相手として相当大きな利権を与えられた様です。

それによって、できるだけ遺恨を無くしてお互いが歩み寄る事を望んでおり、お父様に付いている護衛の大半は三爵様個人が信用できる人材を派遣しているらしく、その真剣さが窺えます。


 まだあまり詳しくは聞いて居ませんが、王都での仕事を持っているメイのお父様も相当な優遇処置を受けているらしいです。

一番の被害者とも言えるシェリーに関しては、お父様である六爵様が王都へ来る事がほぼ無いとの事なので、何らかの対応をしているとは思うのですが今の所分からない状況です。


 当事者の御一人であるお姉様に関しては、三爵様を始めとする加害者側の当主様全員が頭を悩ませているとの事。


 お姉様は、


「私達が行く場所に対応出来るレベル以外は邪魔だから付けないでください。足を引っ張られるのは御免です」


と、隠れて護衛していた相手を簡単に見つけてハッキリ言い切ったそうです。


 お姉様のお仲間は三人。

それに加えて、最低でもエグフォルドタイガーが五体。

それこそ一流冒険者が最低でも三十人以上必要だと言われたような物らしいので、三年間もの長期間を護衛として維持するにはどれだけの金額が必要か、私には想像もつきません。


 私でも無理だと分かる条件を突き付けられ……自分の子供の仕出かした馬鹿な行動の為とは言え、流石に不憫だと感じてしまいます。

特に三爵様本人は高圧的な方では無く、民に対してもそれほど無理を押し付ける方では無いと聞いています。

要は……教育を間違えた、という事でしょうか。


 お姉様にも一応譲歩して差し上げたらどうでしょうか? とお聞きした所、


「残念だけどこちらも時間制限付きで行動している訳だから、足を引っ張られるのは困るのよね。しかも、向こうが一方的に悪いとなればなおの事。ルークに爵位か貴族との結婚を許可してくれるのならばいくらでも譲歩するけど、それが出来ないのならば全員大人しく引っ込んでいて欲しい所ね」


との事です。


 この件に関しては本来の当事者である私が、迷惑をこうむったシェリーの今後にかかわる事に口を出せる訳も無く……私に出来る確認はしたという事で終了です。


 それにしても、まだお会いした事はありませんが……シェリーがお慕いしており、お姉様がここまで協力を惜しまないルーク様にはとても興味があります。

今は王都に居るそうなのですが、日中は色々と動いて居る事が多いそうです。

いずれは紹介して頂けるはずなので、その時を楽しみにお待ちしております!

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