幕間一の5◆亜人3(マツリ)
私の名前はマツリと申します。
以後、お見知り置きを。
私達は現在、隊長を中心にしながら様子を見ています。
勿論、隊長に異常な所が無いかの確認の為です。
隊長は約二日間、元の姿であるカオススライムの姿のまま意識を失っていました。
現在は新たな能力を身に付けながら復活を果たして居ますが、正直な所……急激な変化の副作用で何らかの不調を起こさないのかが心配です。
私は睡眠こそとって居ましたが、この二日間はずっと隊長に巻きつく様にしながら過ごしていました。
初めから動きがない為、そのまま冷たくなってしまわないかが恐ろしくて離れる事が出来ませんでした。
その行為も全くの無駄では無かったらしく、隊長が肉体をコントロールする為の目印となれたとの事で褒めて頂きました。
現在は隊長が自身の変化を確認して居ましたが、その瞳から涙が零れ落ちた為に……正直な所、どうしていいか分からないというのが現状です。
隊長は物凄く悲しそうな顔をしながら、
「……ママに怒られる……」
そう言っていました……。
マスターに怒られる……。
正直に言えば、私も恐怖で身が凍る感覚が体の芯まで突き抜ける感じがしました……。
マスターの前に居るだけで、その存在感に押しつぶされそうになる気がします。
それ位、マスターから感じる存在感は強く……圧倒的です。
隊長は涙が頬を伝うお顔のまま、ハッとした表情で扉のある方向を向きました。
……予想はしていましたが……そこにはマスターの姿がありました。
そこで私は不思議な事に気付きました。
マスターの存在に今まで気が付かなかった事です。
ここに居る私達亜人達は……ハッキリ言えばマスターの駒です。
その価値は、道端に落ちて居る小石を拾って投げている程度の代物なのです。
要は……使い捨ての駒以下……でしょうか。
これは、迷宮に生まれ、迷宮に死すべき私達の存在価値そのものであり、《迷宮の虜》は更に絶対的な支配を意味しています。
私にとっては神にも等しいマスターなのですが……現在はその繋がりを感じることが出来ません。
勿論、こうして目の前に存在を認識してしまうと身体が委縮してしまうのですが、迷宮にお越しになった瞬間に理解できるいつもの感じでは無いのです。
マスターは部屋に入ると少しだけ状況を確認するように全体を眺めて居ましたが、隊長の所へ歩み寄ると、
「リーナ……。何があったの?」
と、優しく声を発しました。
隊長はマスターの眼を真っすぐに見つめながら、
「……ママ、ゴメンナサイ。リーナ、ママのお手伝いが出来る様になりたくて……でも、失敗しちゃったの。それで……この子達の《迷宮の虜》も無くなっちゃったの……ゴメンナサイ」
そう言いました。
成程……。
ようやく理解ができました。
隊長がマスターにこれまでの経緯を説明しているのですが、私達とマスターを繋いでいた《迷宮の虜》と言う状態が解除されている様です。
代わりに上書きされたのが《浸食共有》と言うものらしく、今まで以上に利便性の高い物であるらしいのですが……問題としては、マスターの代わりに隊長が私達の主となってしまっている様なのです。
……確かにこれは、問題のある行動と取られてしまうかもしれません。
いくら隊長が私達とは別格とは言え、それでも同じマスター配下の魔物です。
それがマスターを無視して自分の配下に状態を書き換えてしまうなど……あってはならない事です。
しかしマスターは、
「馬鹿ね、リーナは。そこまで頑張らなくてもいいのよ? ゆっくりと能力に慣れて行けばいいの」
と言って、マスターの涙を拭いてから抱きしめて居ます。
流石マスター……その御心は広く、特に御咎めはありませんでした。
その後は隊長の状態や私達の状態を調べて行き、
「正直な所……本当に驚いたわ……《ウィンドウ》が使える上、まさか《魔素の泉》を自分で獲得してしまえるなんてね。しかも、色々と新しいスキルまで獲得してるし」
と、驚き続けて居ました。
隊長はマスターの能力をそのまま複製しているらしいので《魂の回廊》と言うスキルも持っていますが、普段は使用できない様になっているようです。
これを使用する為には条件が必要らしいのですが、隊長とマスターは問題無く使用できました。
マスターが今回の件で得られたスキルを獲得し、
「《無限浸食》《自動MP回復(極大)》《精神分離》《魂魄保護》……か。中々面白そうなスキルがあるわね。特に《自動MP回復(極大)》はルークの役にも立つし、大助かりになりそうな感じね」
と言っていました。
本来マスターが持って居た《自動MP回復》とは重複して効果が得られるらしく、その効果は絶大だそうです。
そして、マスターは《無限浸食》を隊長に対して使って見た所、隊長に対してだけ繋がりを持てたとの事です。
「リーナが既に繋がりを持って居る関係でどうなるか怪しいから、亜人達の事はリーナに任せるわ。もし何かあった場合は私に《浸食共有》で連絡してくれていいからね。ただし、今回みたいに無茶はもう駄目よ」
「……うん。無茶な事はもうしない。約束するね、ママ」
そう言って隊長がようやく微笑んでくれました。
そして、ここでマスターから一つの指示があるようです。
「まずは確認してからになるけど、リーナが迷宮を作って、この部屋からそちらへ移動した方が良いかな」
との事です。
「……リーナ、ここが好き。ここに居ちゃ駄目なの……?」
隊長がそう答えましたが、
「ん~。取り敢えずは確認してから決めようか」
そう言って部屋の扉の前に移動し、ミノタを呼びました。
「ミノ太、一応襲われる事を警戒しながら外に出てみて」
との指示を受け、
「イエス! マスター! ミノタ 行く」
そう言いながら、元気にミノタが飛び出して行きました。
外に出たミノタに対してオークの一団が即座に襲い掛かって来ます。
……あれ?
違和感を感じてマスターの方を向くと、
「やっぱり私との繋がりが切れて、魔物から攻撃を受ける様になってるわね」
だ、そうです。
何故マスターが移動を指示されたのかが良く理解出来ました。
「ここが好きなら、自分の迷宮からの転移門をここに設置すればいいのよ。襲って来る魔物が居た方が今後の鍛錬にも使えるだろうし」
「……うん、そうする。迷宮はどんなのがいいの? ママ」
マスターの指示に、隊長が同意したようです。
少しマスターが考える仕草をしましたが、
「これから候補が出て来る可能性があるから、取り敢えずしっかり作るのは一つでいいかな。ここに転移扉を設置するなら固定迷宮で。そうなると、やっぱりミルロード卿の領地にでも作るのがベストかも」
だそうです。
私にはミルロード卿と言うのが誰なのかは良く判りませんが、どうやら場所は決定したようです。
「候補の場所は決まったけど、土地の所有者に確認するからしばらく待ってね。後、少し迷宮を使いやすい様に作り直しておくわ」
マスターが続けてそう言いましたが、どうやらこの部屋のすぐ隣にもう一つ部屋を作り、他の魔物が入れないエリアに階段をずっと上まで作るそうです。
私達は亜人を食べない為、食糧確保が面倒にならない為の対策だそうです。
流石マスター、正直な所……全くそんな事は気にして居ませんでした。
その変更に加えて、この階の出現魔物を変更するようです。
現状居るメンバーの他に亜人を追加する予定は今の所無いとの事なので、利便性向上の為だそうです。
その後はしばらく隊長とマスターはお話をしていましたが、隊長が希望を伝えてくれたらしく、色々と便利な品を提供して頂けた様です。
それに加え、全員の防具とミノタの斧、ミノタとオガキチの打撃格闘対応型手甲、ゴブスケの杖を頂きました。
私の弓は特殊な形状だった為、次回来る時までに作成して頂けるとの事です。
今後の予定としては、マスターからの指示により、迷宮内の魔物との戦闘訓練をしばらく行う事に決まりました。
隊長の迷宮が出来るまではその過程で手に入れた食材を食べる予定となっています。
《浸食共有》の効果がどうなっているのかのテストも兼ねているらしいので、私も一生懸命頑張ろうと思います!




