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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
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8◆錬金術師への弟子入り、師匠よろしくお願いします

 クレリアさんの所でお世話になる方向で話を進めるにあたり、取りあえず確認しておく事がある。

期間の問題だ。

錬金術も面白いとは思うのだが、ルーク一人で冒険者と言うのは流石に不味い気がする。

短期間ならまだ良いのだが、年単位となると色々ボロを出して厄介事を起こしかねない。

ルークの持つ能力は、それ位取り扱いが難しい物だと私は認識している。


 クレリアさんが出した条件は、とりあえず年内は決まった納期がある為に必須との事。

冬は素材の関係であまり仕事は忙しくないので、その期間に集中して魔法修練期間に当てる。

来春以降はそのまま残ってくれても良いし、冒険者に戻ってもいいとの事だった。

それだけの期間でどこまで魔法が使えるようになるかは人それぞれだが、最低でも五種類の自然魔法は使えるようになるし、錬金術と変換魔法の基礎は教え込めるので後は実戦で使用すれば自然魔法と変換魔法は徐々に使いこなせるようになるだろうと言われた。

あくまで魔法の素質があれば、という条件については、


「エルさんには魔法の素質があるわよ」


とクレリアさんに言われてしまった。


「魔法物質の誘導が得意なのは言ったと思うけれど、私は魔法物質に普通より過敏な体質なの。魔法が使える素質がある人の近くに居るとそれだけで判るのよ。エルさんからは普通の魔法使いより顕著な素質を感じるわ」


OK。お墨付きまで頂いたし、春までにある程度物に出来るとすれば言うこと無しだ。

いずれルークにも練習風景を見せて《簒奪の聖眼》でスキルを確保しておけば、冒険者に戻ってからも一緒に練習する事で見本にも出来るかも知れない。

っていうか、ルーク自体にも魔法を学ばせるいいチャンスでもあるのか。

まぁ、流石にすぐに見せてくれとは言いにくいし、仕事の手伝いよりそちらを優先しすぎていると思われるのは好ましくない。

冬の魔法強化期間あたりにでも、さり気なく観察させる機会を作ろう。


 と言うのが二日前の事である。



 ☆ ☆ ☆




 以前から機会があったら魔法を覚えると言ってあった。

今回がその機会であるのは間違いない。

ランクが三に上がるまで待ってもらう方向でクレリアさんと話がついていたので、そろそろルークに魔法を覚える為の行動に移る旨を伝える事にした。


「どうせ魔法を使えるようになるならやっぱり変換魔法ね」


「でも変換魔法は大きな街の学校なんかで数年かけて覚えないといけないらしいよ」


クレリアさんについての話は教えていないので当然の疑問だろう。


「私が最近よくクエストを受けている錬金術師さんの名前覚えている?」


「クレリアさんだよね」


お、名前は覚えていたようだ。


「そう、クレリアさんは以前変換魔法を王都で学んだ事があるの。それで、条件次第では教えて貰えるかもしれないのよ」


私的にはかなり決定しているのだが、流石にルークの考えも聞いておかなくてはならない。

ルークからは問題なく賛同が得られたので、私は翌日からクレリアさんの工房で働く事になった。




 ☆ ☆ ☆




 錬金術と聞いて、前世の魔女が窯で煮込むイメージしか湧かなかったが全く違った。

クレリアさん改め、師匠が行うのは変換魔法を使用した錬金術だということだ。

変換魔法自体が錬金術を応用して確立した魔法である為、その融和性は高いのだそうだ。


 手順としては、魔法物質を固めて発生させた簡易錬金窯を発生させる。

これは魔法物質が見えない人間には透明で見えない。

通常はこの中で魔法物質に属性を与え、錬金術により変化や融合させる事で純粋な六属性以外の効果に変える。

その場合、魔法物質が尽きると魔法の効果は消えるので何も残らない。

ただし、引火した火や形状を変化させた自然界の物質は元に戻らない。

そこで師匠の場合は通常の素材を簡易錬金窯の中に入れ、変化や融合の影響を通常の物質に与えて錬金術を行う。

魔法を使わない純粋な錬金術の場合は実際に窯で煮詰めたりするらしいのだが、魔法を使った方が質が安定する上に時間的にも速い。

問題となる点はそれなりの魔法技術を要求される事と、MPの枯渇状態では作成出来なくなる点だ。

そして、師匠のMPで出来る作業量と納期の兼ね合いを考えると、もうこれ以上遅れる訳にはいかない所まで来ているらしい。

因みにMPが無いのならば通常の錬金窯との並行作業で行えないのかと聞いた所、品質に差が出来てしまう為に納品するに値しない品質らしい。


 早速私も必要な下準備の方法を教えて貰った。

そして、用意された材料を見て納得した。

確かに私の方が圧倒的に上手い処理が出来ているなと。

下準備自体は私的にはそこまで難しいとは思えない工程だった。

いままでやってきた事の応用程度だったので、五回もやれば納得できる作業方法を確立し、十回位で完璧にこなしていると師匠からお墨付きを貰える位になった。


「流石にエルは基本が出来ているから余裕でこなせるみたいね。とても助かるわ。それじゃ、どんどん下準備の方を宜しくね」


そう言われたので作業をサクサク進める。

今までの知識と照らし合わせて効率化できる部分や改善点を考えながら進めて行く。

流石に改善出来る点は無かったが、自分のやり方に合った効率化は多少出来た。


用意されていた材料が全て無くなったので、とりあえず師匠の所へ行く。

作業中だったので一旦終わるまで大人しく見ていようと部屋の端で眺めていた。

……面白い!

私には魔法物質が見える。

これが魔法による魔法物質の変化かぁ……。

今使っているのは水と火の魔法らしい。

素材となる薬草と事前に調整した液体とを水魔法で溶解させてから濃度変化を起こし、火魔法で加熱して成分の性質を変化させている。

最後に水魔法で成分調整を行ってから風魔法で時間を調整しながら冷却している。

水魔法には氷系統も存在しているらしいから、敢えて風魔法での冷却に意味があるのだろう。


 今見た魔法による魔法物質の変化を思い出す。

目にした感覚を自分なりにイメージする。

それから周囲の魔法物質が自分の手に集まる様子を想い描く。

魔法物質がゆっくりとだが集まっていき、満足な量ではないが集積する。

そこに自分のイメージを重ねた。

手の上には赤く変化した魔法物質がある。

火は出ていない、しかし熱を持つ魔法物質。

かなり弱々しいが、先ほど見た加熱の魔法と同じ魔法がそこにあった。


「これは驚きね……まさか一度見ただけで魔法の感覚を掴んじゃうなんて……」


師匠がこちらを向いて驚きの表情を浮かべていた。

……面白い!

もっともっと本格的に魔法を学びたい!!

今はとにかくそれしか考えられなかった!!!




 ☆ ☆ ☆




 私が師匠から錬金術と魔法を学び始めて二週間が経った。

あれからすぐに五属性分の魔法感覚を教えて貰い、錬金術すらも少しずつ学んでいる。

どうやら普通の弟子とは桁の違う速度で吸収しているらしく、すでに修行一年以上の弟子よりも戦力として使える域にまで達していると言われた。

まぁ、実際には魔素の扱いの経験と、前世の化学の知識を総動員しているんですけどね。

こうして早朝から陽が落ちるまで仕事と勉強と練習で埋め尽くされていたがとても楽しかった。

ちなみにこの工房には二階が弟子用の住居となっていたが、今は私しか居ない。

部屋も空いているのでルークも使って良いと言って貰えた。

あまり人前で調理出来ない魔物食材の消費も出来るので、生活費が浮いて助かっている。


 私が一緒に行動しなくなってからルークは、これまでに多少話をする事があった冒険者達と一緒に動く事が増えてきたようだ。

あまり目立つ事はしないようにとは言ってあるが、まずは命が大事だとも言ってある。

絶対に帰ってくること。

それだけはキツク言い含めておいた。

折角再び与えられた命だ。

今度こそ皆で幸せに暮らしたい。

それだけが今の私が求めている事なのだから。

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