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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
73/138

73◆左手の再生 そしてルークとの話し合い

 ルーク達を迎えに行くと、疲労がたまって居たのだろう……ポカポカとした陽気に負けて皆で寝ていた。

チャンス!

ルークが寝ているうちに何とかゲルボドを連れ出そう!!


 《消音移動》を発動して、ゲルボドに近寄る。

それでも消しきれなかった気配を感じたのか、ゲルボドが眼を開いた。

こちらを確認して口を開こうとしたので……静かに、かつ正確に《フルブースト》状態で口を鷲掴みにする。


 ルークはまだ起きてはいない。

セーフ!

ゲルボドは何故かこういう時には意外と空気を読むので、何も言わずに静かに部屋を出る私について来た。

……こいつ、いつもの空気を読まない行動は、わざとやっているんじゃないかと疑いたくなる時があるんですが……。


 まぁ、それはどうでもいい。

必要な時に空気を読んでくれるのならば問題は無いからだ。


「ゲルボド、ちょっと私に《快癒》をお願い」


「わかったシャ――――!」


ゲルボドは特に何も聞かずに《快癒》を唱え始めた。


 さて、何故《快癒》が必要なのか……。

それは、現在私の左手首から先が無いからだ!

ただし、再生されるのかどうかは微妙だと考えている。

何故なら、私の手はリーナに持って行かれているのだが、魔素の流れを考えると空間を隔てているだけで私の手が健在の可能性がある。

もしそうだとすると、再生はされないだろう。


 では、再生出来なかった場合はどうするのか……?

自我を持ってしまったリーナをどうにかする事は私には無理だ……。

だって、あんなに可愛いのだから!


 そう言う訳で、もし再生出来なかった場合は最悪義手だな。

ただし、私の場合は色々上手くやれる可能性が高い。

簡易ゴーレムの様に、私の意思に反応して動く手を作る事が出来れば良い訳だから。

少し時間は掛かるかもしれないが、やれる気はする。


 さて、結果を言おう!

手は再生出来ました!!

ただ……一応は再生する事ができた……と言い方を変えておこう。

まぁ、普通に動かせるし、完全に普通の手ではあるんですがね。


 ここで問題なのが、本当に普通の手なのだ。

残念ながら、魔素が流入して行かない。

ただ、その答えは簡単だった。

手が再生しても魔素の流出が止まってはいない為、再生された先には届かないのだ。


 義手よりはマシだし、このままでもどうにかなるにはなるのだが……一応少しは足掻いてみよう。

魔素が届いていないだけで、魔素で肉体崩壊を起こす程脆い状態で再生された訳では無いだろう。

それならば、手首から消えて行く手前から迂回すればいい訳だ。


 現在の私は魔素の扱いが相当上手くなっている。

流れの量や場所を操作し、無意識でもそれを維持できる。

そのいい例が、魔送石に送り込んでいる魔素量等は自分で調節している点だろう。


 さて、それでは試してみましょう。

まず腕に流す魔素の量を少し上げる。

これはリーナに流れ込んでいる量を変えない為だ。

流れる魔素量が少なくなって何かあっても嫌なので、安全策で行く。

腕にかかる負荷は多少感じるが、地味に《自動HP回復》と《肉体再生》が良い仕事をしてくれている。

この状態を数日耐えれば問題無く馴染むはずなので維持しておこう。


 本番はここからだが、流出部位の手前から皮膚の外ギリギリを通して再度手に魔素を流し込んでみる。

OK。

流れ込んだ。

ただ、ここからどうするかが問題だ。

戻して流れを作っても良いのだが……意味はあるのか? ……いや、無いな。

迂回して手に流す感覚は掴んだ。

後は、普段身体に流している量と同量程度を送り込んで置いて放置。

戦闘時に《フルブースト》を発動してしまうと溜めてある分が消費されるので、その時だけ流し込む様にしよう。


 これで手に関しては問題無く使える。

ちょっとだけ手間が増えた程度だ。


 ようやく問題は解決したので、ゲルボドに御礼を言っておく。


「ゲルボド、ありがとう」


「どういたしましてシャ――――!」


ゲルボドが返事をした段階で、ミラが部屋の中で起きた気配がした。


「それじゃ、中に戻ろうか」


「OKシャ――――!」


こうして無事に手の事は終了。

後はルークが起きるまでミラやゲルボドから皆がやっていた仕事の話でも聞いて居よう。




 ☆ ☆ ☆




 今回終わらせた仕事について、ミラから聞いているとルークがようやく起きた。


「あら、ルーク。やっと起きたのね」


そう言いながら、微笑んでおく。

手の事はバレていないはずだが……何となく後ろめたい気分を誤魔化す為と言えなくもない。


 ここでゲルボドが打ち合わせ通りの台詞を言った。


「エル、街でおっちゃんが言ってたシャ――――! 学院で決闘したシャ――――!?」


そう。

ミラから聞いて、既にルークがこの事を知っている事は分かっている。

それならば……先に攻める方が有効な手段だ!

ミラやゲルボドには、どうせ話をするならこの方がスムーズに話しが出来るからと言い含めてある。


 少し意地の悪そうな顔を演出しながら、


「聞いてしまったのなら仕方が無いなぁ。ルーク、今回の仕事の前にシェリーと会ったわよね?」


「はい……」


ルークが、不味い……という顔をした。

OK。

これはこのままの勢いで行ける!


「その時、シェリーの様子に何か感じなかった?」


「何となくだけど……少し疲れていた感じに見えた……かな」


私はわざと、ゆっくり頷いた。


「それで、シェリーには理由を聞いてみた?」


「聞いてはみたけど、疲れる事が続いたけど大丈夫だって……それ以外は教えて貰えなかった」


思い出す為か、少し遠い目をしながらルークがそう答えた。


「シェリーにだって聞かれたくない事は当然あると思うわ。でもね……、本当に困っている可能性がある時はもう少し気を配った方が良いとは思うのよ。勿論本人にしつこく聞くのは駄目。でも、それとなくラナやルルから聞いてみるとか……そういった所からも確認しておかなくては今回の様な事になってしまうわよ」


諭す様にルークにそう言うと、反省した雰囲気になった。

よし、今回の話し合いは私が優勢のまま進められそうだ。


 私も幾つか失敗しているが、致命的な失敗は手を失った事位だ。

それも既に解消済み!

ようやく余裕を持って話が出来ます。


 そこからは私がシェリーに会ってからの流れを一通り話した。

そして最後に、

 

「護衛集団は私が何もしない内に一郎と次郎の特殊能力で牽制したら終了。その後の貴族の坊ちゃん達は《フルブースト》すら使わずに全員肩と膝の関節を外してやったわ」


そう言いながら、ニヤリと意地の悪い顔で締めくくっておいた。


 この件の結果や私のレベルは、今後同じ様な事が起こらない為の抑止力として普通に公表されているとの事も伝えた。


「こればっかりは仕方が無いわ。シェリーに対して喧嘩売って来る馬鹿が減るなら許容できるしね。そもそも……ルーク。あなたがやった蟻退治の方が目立ってるって事は知ってる?」


ここで、私の方でもギルドでおっちゃん達に聞かされた情報を披露しておく。


 蟻退治の為に王国軍が動いて居た事は少し事情通な冒険者やギルド職員等は知っており、ルークがギルド長達や王国軍の隊長達と移動している所が結構目撃されている。

直後にその隊長の部隊に同行して街を出発しており、どう考えても蟻の件に関わっているとしか思えない行動を取っていた。

そう言った情報が、憶測も含めて噂になって居るのだ。


 ここまで来るとルークも諦めた様だが、もう一つだけ私の行動に対して説明を求められた。

私が盗賊団を捕まえた際に肉祭りをやった事が噂になっている件についてだ。

【迷宮の聖女】や【迷宮の魔女】等と呼ばれて噂になって居るのは、私も耳にしていた。


 この噂が広まった理由が、置いてきた魔獣の素材だった事は正直予想外だった。

私の迷宮に居る魔物はあまり見た事が無い種類の物が多いとは思っていたが、この大陸に居ない魔物が大多数だったらしく、ギルドに売られたその素材から話が大きくなってしまったらしい。


「爺の迷宮の外で襲撃されたでしょ? 迷宮の内部の事ばかり考えて残党を無視していたけど、放置した奴らが盗賊団になって周囲の村を荒らしてたのよ。極論を言ってしまうと、私達があそこに居たお陰で被害を受けた大量の村人がいた訳。ルークは自分達のせいで死に瀕した村人を放置できる?」


と、正当性を前面に出して押し切った。


ルークの方の話は《通話》である程度聞いてはいたのだが、魔族の配下に当たる魔獣人との出会い。

魔王が復活した際でも、滅多にこの大陸に現れる事が無い脅威である魔獣人に二人も遭遇したとの事。

この際に置き土産である蟻と蜂の魔物の巣を退治しており、王国軍のお偉いさんや第一王子に顔と名前を覚えられ、終いには第三王女を倒したらしい。

まぁ、正確に言えば、勇者を信奉というか崇拝している王女には私達の能力は勇者の偽物にしか見えなかったらしく、王城内で思いっきり襲われたらしい。

《スティールMP》で昏倒させる事で怪我は負わせていないらしいが、王女を倒すとか……もうどうしようもない状況になっているという事らしい。

勿論、お偉いさんに目を付けられずに活動するという、今まで目標にしてきた事に関しての話だ。


 そんな中にも朗報が多数あったので、これはこれで良かったのかもしれない。


「それにしても、大陸ギルドの推薦と図書施設の使用許可は有り難いわね! それに加えて余裕がある時だけでも《付与魔法》の指南を受けれるのは大きいわ!」


と言うのが、その内容だ。

ルークに爵位を持たせて使用する権利を得ようと画策していたのに、あっさりと王家所有の図書施設まで使えるようになったのは有り難い。

それに加え、師匠とは違う《付与魔法》の回路を知っている人から指南して貰える事はとても嬉しい。

当初の方向性とはかなり違って来ているが、これはこれでOKだろう。


 これで大体情報は出揃ったかな。

中々思い通りには事は運ばないな……それが今の正直な感想です。

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