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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
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7◆クレリアさんとの出会いと魔法習得の決意

 翌日からも私達は毎日クエストを繰り返し、順調に蓄えを増やしていた。

基本的には薬草や森で取れるキノコや木の実等の採取とそこに現れる魔物の討伐をコツコツとこなしている。

ルークは他の冒険者達からスキルを得たいと思っているようだが、冒険者としての最低限の慣れは必要だと考えているので、もう少し慣れてからの方が良いと言っておいた。

他のパーティーと一緒に仕事をしても、お荷物になるようならこの小さなギルドの中ではすぐに悪評が広まって今後やりにくくなる。

そういった事情もあって今は当面の資金稼ぎをしている。

本当はギルドにある図書館を閲覧して、色々調べていきたいのだが……これが意外と入館料が高いのだ。

冒険者はあまりここを利用しない。

文字が読めない人が多いし、基本的な情報は冒険者間での話で済んでしまって居るからだ。

そうなると維持にかかる金額を少ない人数で支える事になり、必然的に閲覧料は高くなるのだ。

秋にはそれなりの食糧を家族に届けたいし、冬になると仕事が減るようなので高い入館料を度々支払うのは厳しい。

と言うわけで、今日も仕事を頑張ることにする。


「ん~、今日はどれにしようかな」


受けるクエストを確認していると受付の職員に声を掛けられた。


「エルさんとルークさん、おはようございます。後一回のクエストでランク二へとなれる規定回数に達しますよ」


 どうせランク一のクエストしか受けれない以上、その内上がるだろうと気にはしていなかったのだが、ようやく上がるらしい。


「ランク三に上がるまではクエストのクリア回数だけが評価になります。採取系も討伐系も同じ一回です」


「これは正規のギルド会員になる為の試験的な意味が大きい制度なので戦闘能力は問わない為です」


「ランク三になると二種類のクエスト資格に分かれます。戦闘能力を評価対象にする資格と採取や街中での作業等を行う非戦闘系の資格です」


「雑務などはどちらでも可能ですが、資格の必要なクエストの場合はパーティー内に資格を持っている方が居ないと受けることが出来ません。又、非戦闘系クエストは資格さえあれば受けることができますが御自身のスキルでクリア可能かどうかは自己責任になるので内容をしっかり把握してから受けて下さい」


「ランク試験は個別で行いますので自分の実力に合わせた資格を上げることになりますので自分に合った方向にお進みください。又、両方の資格を保有したい場合は個別に試験を行って取得して頂きます」


必ず説明する為に完全に決まり文句を読み上げてる感じなのが若干面白かったが、まぁ冒険者相手は大変なんだろうなぁと他人事ながらに思ったのは秘密だ。




◇ ◇ ◇




 ランク二になってからも街の周辺でのクエストを受けて堅実にランク三へ向けてこなしている。

クエストにもランクがあり、ランクが上がれば当然危険や収集難易度が上がってくる。

ランク二向けのクエストを規定数こなさなくては三へは上がれない。

森の少し奥に入る仕事も増えて来て、それに伴って魔物の危険度も増してきた。

今はまだルークだけでも何とかなって居るが、そろそろ魔法をどうにかする時期が来てるのかも知れない。

まずはそこそこ貯まってきた蓄えで、本格的に図書館での調べものを進めてみようかな。




◇ ◇ ◇




 街へやってきてから一ケ月が過ぎた頃にようやくランク三になれた。

図書館には何度か足を運んだが、魔法を使う為には個人毎の感覚に頼る所が大きいらしく、抽象的すぎて本からの取得は無理だと悟った。

他にも色々と調べておきたい事があったので、そちらを優先して調べている。

特に知って置きたかったのは勇者の事だ。

ルークが持つ能力を完全に秘匿する必要があるならば、他の冒険者と行動する際には特に気をつけなければならない。

バレても問題ない様ならある程度は好きにさせてしまった方が今後の役に立つ。

そこら辺を早めに見極めておきたかった。


 これまでのクエスト傾向や資質の判定を受けてルークは戦闘系ランク三、私は非戦闘系ランク三の冒険者へと上がった。

これに伴い、正規のギルドカードに変更される。

正規ギルドカードにはいくつかの魔法が掛けられていて、その一つに《照合》の魔法により識別可能な情報が書き込まれるものがある。

これによって各街のギルドでカードを通して情報を共有される為、身分証明としても重要なので絶対に無くす事は出来ない。

基本情報として、名前、年齢、性別、出身地、討伐実績、収集実績、指定討伐実績、規則違反歴等が書き込まれている。

討伐・収集実績はこなしたクエストや収集した証明部位や素材を元にした記録。

指定討伐実績は各ギルドで指定されている難易度が高い特定の魔物を倒した称号のような物との事。

このカードを作るには多少のお金が必要になるが、カードの作成にかかる手間賃とほぼ同じなので必要経費としては安い位だろう。

仮のカードではこの街の通行料がかからなくなるのだが、正規カードなら他のギルドがある街へも入ることが出来るので、長い目で見ればお得な値段だ。


 このランクアップを境に、魔法を学ぶ為に動こうと考えている。

前々から考えていた事だが、実は二日前に突然ありがたい申し出があったのだ。

ランク二に上がった頃から私を指名してクエストが発注される事が多くなった。

指名料として若干だが報酬に上乗せして貰えるので、ありがたく受けていた。

その相手が錬金術師のクレリアさんと言う名前だったのだが、二日前に直接話がしたいと突然ギルドで待っていた。

ルークにはこの後は別の用があり、戦闘系の報告を終えた後は私だけで清算を待つ予定だったのですぐに話を聞く事にした。


「始めまして、エルさん。最近指名させて頂いているクレリアです。よろしくね」


クレリアさんは五十歳位の少しだけふっくらとした体型の優しそうな女性だった。


「いえ、こちらこそいつもお世話になっています」


直接会いに来るとなると何か説明が必要な依頼だろうか?

そう考えていると、


「エルさんは冒険者として活動していますが、戦闘自体は苦手と伺っているのだけど……今後もそのまま弟さんに戦闘を任せるスタイルのまま行く予定ですか?」


と聞いてきた。


「いえ……。出来れば魔法をどうにか習得してみたいと思っています。他の冒険者の方から聞いた感じだと、自然魔法ならばコツさえ掴めば何とかなるそうですし」


 この一ケ月で、他の冒険者達とも多少話しが出来るようになってきたので、魔法等の情報も多少は聞いている。

戦闘に使う魔法には基本的には二種類、六属性ある。

冒険者が使うのはほとんどが自然魔法で、魔法物質を集めて属性を付与することにより自然現象に変化させる事によって行使する。

手順としては一点に精神を集中させて魔法物質を凝縮させ、そこに各属性のイメージを送り込む事により属性変化が起きる。

各属性に変化した魔法物質は制御する呪文により明確な形へと変化させて使用する。

この魔法系統は威力が高くは無いが制御が比較的容易である事とイメージさえ持てれば誰にでも使える事が特徴との事だ。

ただ、使えるのと使いこなせるのは別問題で、魔法使いの素質が無いと威力や精神力的に実用とはならないらしい。

もっとも、私はその心配はしていない。

私がこの世界に来る条件は強い精神力だったと女神は言っていた。

威力に関しては、簡易版である生活魔法で実験的に魔素を注いで見た所、数秒だけ火が付く魔法がいつまでも数倍の火力で燃えていた。

すなわち、威力が出なかったら魔素を大量にぶち込んで底上げすれば良いじゃない!! 的な考えでいる。

……この世界では《魔素の泉》は使えないと思っていたけど、実は有効なのかも? と最近思い始めてはいる。

まぁ、実際に使えるかはまだ不明なんだけどね。


 さて話を戻して、もう一つが変換魔法と言い、魔法物質を自然魔法で属性物質として発生させた後で錬金術により融合や変化をさせる。

典型的な物としては風属性で竜巻を作って他の属性を融合させる事による属性竜巻系魔法等だ。

単純な融合でも範囲が広くなり威力も強力になる。

更に難易度が高い物質変化を使用した物になると、複数の変化を同時に発生させて化学反応を起こす事により、通常では起こらない強力な効果を発生させる。

私的には化学という感じだが、この世界では化学という考え自体が確立されていないので個別の反応を色々試した結果を丸暗記して使っているとの事。

当然ながらこちらは錬金術の知識と技術が必須であり、使用するMPも大きい。

ちなみに魔法の属性は火 水 風 土 光 闇の六属性。

普通の人間は闇属性が使えないとの事。


「魔法を覚える気があるなら丁度いいわ。私からの話はそこに関わるものだし」


そうクレリアさんが言う。


「正直に言うと私の錬金術工房は今人手不足なのよ。弟子の一人は以前から自分の故郷で独立する予定で準備を進めて来たからいいのだけれど、弟子になって三年目の子が急に自分も独立すると言いだして飛び出してしまったの。正直に言ってようやくこれから中級クラスに入る程度の腕だったから……独立しても足元を見られて使い潰されるのが落ちなのだけれどね……」


そう言って一つ溜め息をついた。


「そう言う訳で、私の工房はとてもでは無いけれど仕事が回らなくなってしまったのよ。そこでエルさんにお願いしたいのが、こちらの都合で申し訳ないのだけれど、一時冒険者稼業を中断して私の工房を手伝って頂けないかとの相談なの」


「……どうして私にそんなお話がくる事になったんですか?」


流石に、何故私にそんな話が来たのかの理由が不明だ。

怪しい人だとは思えないが、納得できる理由が欲しい。


「一ケ月前位から、たまになんだけど材料の中で妙に摘んだ後の処理が良い物が手に入るようになったのよ。流石に気になってギルドで聞いたらエルさんが持ってきた物だとわかって、それ以降指名でお願いしていたと言う訳。そこで今回、エルさんなら下準備に関しては即戦力になると見込んで今回お願いにきたのよ」


成程、理由は納得できた。


「私は以前王都の学院で変換魔法を習った事が有るの。変換魔法には錬金術の知識が必須なのは知ってる? 私の所で錬金術の基礎を学びながら魔法を学べばお互いの利益にならないかしら? ちなみに私は闇以外の五属性とも使えるし、魔法物質の誘導も得意だから魔法の先生としては優秀な方に入ると思うわよ」


はい、ここで私の決意が固まりました。

師匠と呼ばせて頂きます。

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