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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
68/138

68◆決闘……? 君達……もっと強くなってから出直す様に……

 くだらない理由から始まったらしい、決闘の最終期日がやってきた。

このシステムは貴族が通う学校である為、一応正式に認められているらしい。

私の出番は登校してすぐにあるらしいので、師匠の所に行ってサクっと魔送石を作って帰ってきた。

そこまでMPを使うとは思えないが、一応それ以上は使わないでおく。

さて、どんなくだらない戦いになる事やら……。

……ある意味、逆に楽しみになってきました。




 ☆ ☆ ☆




 学校へ行く際にシェリー達は馬車を使っている。

私は乗っても乗らなくてもあんまり変わらないので、念の為に馬車に付いて歩いている一郎の背中に乗っていた。

こうしておけば、私の従魔だと誰が見ても判るだろう。

因みに、私は《迷宮の虜》で使役しているが、普通は使役系のスキルで支配するらしい。


 学校の敷地へ入る際に門番に説明し、教師の許可を得てから訓練場へ案内された。

相手の護衛とやらがゾロゾロとやってきたが……高くてレベル10……馬鹿にされているんじゃないかと思う位の奴等だった。

こいつらの顔と表情は……それはもう憎たらしい面構えばかりだ。

もっとも、まだ駆け出しの年齢である事を考えればこんな物なのかもしれない。


 私達が来る最中に出会ったオーガ系でもなければ、街道を歩いて居れば魔物もレベルが10に満たない相手が殆どだ。

もしかしたらこいつ等でも少年護衛としては良い方なのかもしれないと考え直した。

まぁ、私の相手としては全く話にならない事には変わり無いが。


 明らかにこいつが親玉だなと判る女生徒が現れ、


「へぇ、何とか最終日に間に合わせたみたいね。でも、二人居たはずの護衛が一人しか見えないけど……もしかして怖くて逃げられちゃったの?」


と言ってきた。


 その言葉に下品な笑いやヤジを飛ばす護衛集団。

こいつ等、本気で腐ってるなぁ……。


 教師が審判も務める為、こちらの戦力の査定をまずは行った。

やはり予想通り、一匹で三人分と見なされる事になり、一郎と四郎、そして皐月を連れて壇上に上がった。

少し心配しているような表情のシェリーに、余裕の態度で任せろと合図しておく。


 さて、わざわざ同じエグフォルドタイガーなのに構成を考えたかという理由なのだが、普通に使えるスキルに差があるからだ。

最初から個別にスキルが有ったのかは判らないのだが、気が付いたら全然戦い方が違っていた。


 まずは一郎。

捕まえた段階からリーダーだった個体なのだが、《衝撃の咆哮》というスキルを使用する。

これは、《風魔法》系の衝撃と雷を組み合わせた特性を持ち、自分の前方に広範囲で衝撃波を撃つ。

これを喰らった場合は、抵抗に失敗すると一瞬だが電撃で動きが阻害される。

エグフォルドタイガーの狩りは相手に合わせて臨機応変に対応するのだが、大物相手には完全に相手の真正面に立って盾役を担っているのが一郎だ。


 次に四郎。

《風魔法》系の広範囲な斬裂能力を持つ個体である。

ソードドラゴンの様な狭い範囲を切断するタイプでは無く、広く浅く切り裂く感じなので大きな傷は与えられないが、足止めにはとても有効な能力だ。


 最後に皐月。

こちらは《水魔法》系による、《幻影の水鏡みかがみ》という能力だ。

周囲に発生させた水分を自分の幻影として大量に作り出して攪乱に使用する。

潰されても潰されても即復活するという……実に嫌がらせな技だ。


 次郎と三郎は攻撃タイプな為、相手に即死クラスのダメージを与える可能性があるので今回には適していない。

これらが今回のメンバーを選んだ理由だった。


 私が壇上で待っていると、ニヤニヤ二しながら明らかにこちらを馬鹿にしている護衛とは正反対に、厳しい顔でこちらをうかがっている審判役の教師が対照的だった。


「では、今回の代理決闘を始める。ルールは最大十二人同士の対決。怪我に関しての責任は依頼者にあり、問題が起こった場合は全責任を依頼者が取る事となる。ただし、故意に殺意を持って攻撃する事を禁じ、もし故意だと判明した場合は国の法に則って処罰される。注意されたし」


そこで明らかに私に対して念を押す様な態度を見せた。


 その表情にはある種の焦りの様な物を感じた。

……ああ、成程。

その理由に思い当たって納得する。

先程、この教師が居た集団の中に《識別》を連発していた人物がいた。

《識別》を使える人物がいるとは、随分良い人材を配置しているなと感心したものだ。


 私のレベルは36、一郎達は最近獲物のレベルが頭打ちな為に上昇が止まってはいるが33~34レベルある。

対して相手は最大10レベル。

この戦力差は絶望的な差だ。

やる前から結果が見えて居る為、教師達が望んでいるのは出来るだけ穏便な結末という事だろう。


 私の匙加減一つで、死なない程度に血の海に変えても文句が言えないこの状況。

私の決断次第でどうとでもなる訳だが……流石に血の海は止めておこう。

シェリー達に見せる様なものではないからね。




 ☆ ☆ ☆




 審判の教師から、しつこい位に念を押されてようやく決闘が始まるようだ。

布陣は前に一郎と四郎、後ろに皐月と私。

相手は……どうでもいいや。

舐めきってるんだろうけど、全く布陣とすら呼べない配置だ。


 開始の合図が聞こえ、一郎の《衝撃の咆哮》が聞こえた。

相手は……全員動きが止まっている。

そこに膝の辺りを狙う高さで四郎の斬裂攻撃《風裂斬ふうれつざん》が発動する。

太腿辺りだと大きな血管があるので出血が多くて面倒、下腿だと細いので切断してしまうとこれまた面倒、という理由から膝を指定しておいた。

革で出来た装備で膝を守って居たが、完全に抜けて膝を切り裂いている様だ。


 そこに皐月の《幻影の水鏡》が発動し……審判の教師から試合終了が告げられた……。

……

…………

………………

……………………はぁ!?

私……何もしてないんだけど……?


 審判や他の教師の様子を見て、状況を把握した。

その様子は、全員が行動不能だと言える状況になったら、すぐ止めるつもりで待ち構えていた様だ。

そこに四郎の斬裂攻撃で全員が移動に少なからず支障がでるレベルの怪我を負ったのだ。

ここぞとばかりに止めに入って来たようだ。


 まぁ、もうどうでもいいや。

うんざりしながら練習場から降りようとすると、一部の男子生徒から嘲笑やヤジが飛んできた。


「おいおい、これ単に魔獣が強いだけじゃねぇのか?」


「あれだけデカい事言っておいて、これで終了とか馬鹿じゃないのか?」


「これなら俺がやった方がまだマシだな!」


その他にも色々聞こえるが、どうでもいいので放置。


 呆然とした感じこちらを見上げているシェリーやその友達の所へ行こうとした時に、私に向かって手袋の様な物が投げられた……。

それも一つや二つでは無く、合計十二個だ。


 投げられた方を見ると、先程のヤジを送って来た集団らしい。

全部避けたが、これって決闘の申し込みじゃなかった?

それを確認する為に教師の方を見ると、一人を除いた全員が絶望した顔でこちらを見て居た。

ああ、やっぱり決闘の合図であってそうだな。


 審判の教師に確認したところ、相手は貴族だが決闘を申し込んだのが向こうである以上は怪我をさせても問題無いとの事。

基本的にはさっきと同じルールだそうだ。


 まぁ、逃げる必要も無いので相手になっておく。

相手全員に壇上に上がる様に促し、逆に一郎達は全部降ろした。


「それでは始めて下さい」


審判は始めて良いのかを一瞬悩んだようだが、私が頷くとすぐに開始の合図をした。


 結果は言うまでも無いだろう。

《フルブースト》すら使わずに、全員の肩と膝の関節を外して芋虫の様に転がすのに一分もかかってはいない。

だってコイツラ……さっきの奴等よりも更に弱いんだもの。

いくら私の基本身体能力がルーク達に劣るとはいえ、レベル一桁に負ける訳は無く、熟練度が上がって来た《格闘術(異世界)》の動きに対応できずに餌食となったのは当然と言えた。


 因みに、当然だが左手は使って居ない。

手首から先が未だに無いからだ。

人からは見えない様にそちらは肘から先を全て覆う長い手袋をして、手の形をしたダミーを作って義手のように装着しているので誰にもバレていない様だけどね。


 この段階で、既に話し声は全く聞こえなくなっていた。

そこに審判から私の勝利が宣言されると……一気に歓声が沸いた。

残って居た生徒からは祝福と賞賛の声が降り注いだ。

どうやら思ったよりも問題は無い様だ。

一安心。

私の為に、今後のシェリーが肩身の狭い思いをするのは不味いからね。


 こうしてこの下らない決闘は幕を閉じた。

まぁ、事後処理がまだ残っているらしいけどね。

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