67◆どこの世界でも、やっぱり人は争いを避けられないようです
シェリーが涙を零した理由は実に不愉快な話だった。
シェリーは現在、当然の様に学校へ通っている。
学校なんてものは、当然立場や強さが違う者達が集まる場所だ。
何かしらの問題が起こる事は必然とも言える。
シェリーに現在起こっている問題は……実に、私やルークがモロに関係する話だった。
六爵家と言うのは正直な所、貴族として下から数えた方が早い立ち位置だ。
ヴァルツァー五爵の例でも判るように、この世界の貴族達が必ずしも善政を行う訳でも無いし、他者を攻撃しない訳でも無い。
要は、シェリーが気に入らなくて攻撃してくる奴がいるとの事。
主犯格は三爵の令嬢で、取り巻きに五爵の娘が二人ついているらしい。
シェリーは元々の性格として、それ程自分から押していくタイプでは無い。
それ故に、自然と似た様な感じの六爵家と七爵家のお嬢さん二人と仲良くなったらしい。
そして、問題はそこから発生したとの事。
友達になった六爵のお嬢さんはその三爵の令嬢と昔から知り合いで、何かと嫌味や嫌がらせを受けていた様だ。
その行為を許せなかったシェリーは止めてくれる様に頼んだのだが、今度はシェリーに矛先が向いてしまったらしい。
シェリー自身にはそれ程攻める部分が無かった為、必然的にその家格の違いにより生じている差で攻めてきた。
最終的な決定打となったのが、シェリーが王都へ来た際の護衛の数であったようだ。
シェリーがたった二人の護衛しか付けられなかった点を指摘し、田舎の貧乏貴族が偉そうにするなと攻め立てられた。
本来のシェリーならそれ位はスルー出来た筈だったのだが……困った事に、ルークや私の事を悪く言われた為に我慢が出来ずに反論してしまった。
それならば自分を護衛してきた者達よりも優秀なはずだと強引に決闘騒ぎに発展させられ、もはや収集が付けられないらしい。
準備もあるだろうからと余裕を見せられ、決闘の期日は十日間あったらしいがそれも明日で最後。
実はルークが今の仕事に出る前からこの話があったらしいのだが、こんな事で迷惑を掛けたくなかったシェリーが黙っていたらしい。
その結果が、毎日の嫌がらせに近い言葉での攻撃。
流石にシェリーも友達のお嬢さんも落ち込み、疲れ果ててしまって居た。
……そこに私登場。
まぁ、殺る……もとい! 戦るしか無いね!!
☆ ☆ ☆
決闘とやらのルールを確認したが……嫌がらせ以外の何物でもなかった。
まずは人数。
十二人との事。
私達が二人しか居ないという事を知った上で、自分を護衛してきた人数でなくては差が判らないからと向こうの人数に合わせられていた。
こちらはシェリーの友人の護衛も加えていいとの条件を出されているが、普通なら周囲の貴族が集まって、協力しながら王都へ送り出すのが基本である。
特に、友人は六爵家と七爵家のお嬢さんだ。
独自で雇った護衛など居る訳が無い。
現在はルークも戻って来ていないので、私一人しか居ない。
相手も十八歳以下なので、正直負ける気はしないのだが……流石に人数が多くて面倒だ。
色々と目立ちすぎるしね。
どうしたもんかと考えていると、追加で出てきた情報に面白いものがあった。
従魔の扱いについてである。
へぇ……魔物も出して良いのか……。
恐らく私が意地の悪い笑顔を浮かべていたのだろう。
ミルロード六爵が、
「何か策を思いついたようだね?」
そう聞いてきた。
「従魔が使えるのならば、それで水増ししていきます。詳しい規定とかはありますか?」
そう答えると、
「基本的に人間と同じサイズ以下なら一人分、それを超えるサイズは二人分、三人分と種族や大きさで変わって行くのが普通かな」
との事。
流石に亜人達を連れてくるのは色々不味い。
エグフォルドタイガー部隊に活躍して貰おう。
その後も規定について色々聞いておいたが、特に参考になる事は無かった。
その話をしている最中も、シェリーがご迷惑をお掛けして御免なさいと泣きながら繰り返していたのだが、その痛々しい姿が私の闘志(かなり黒い)に燃料を注ぎまくっていた。
☆ ☆ ☆
一旦王都から出て、人も居ない目立たない場所で移動迷宮に居る一郎達を呼んだ。
一郎達には《簡易出口付与》という能力を使用してある。
前にネイアに付与した事はあったが、結局使ったことは無かったので実際の使用は初めてだ。
門と言うのはあまりにも微妙な感じがするのだが、黒い穴の様な物が私の近くに湧き、そこからサツキが出てきた。
その後に次々を同じものが沸き、全てのエグフォルドタイガー達が現れる。
ギルドカードの提示と、ゲルボドの時と同じように責任を持つという証明書を書き、すんなりと街の中へ入った。
前回と違って、私にはこの街にあるギルドでも実績があるので、本当に簡単な物だけで済んだ。
街の中での一郎達は……まぁ、普通に目立っていた。
私の後を一列に歩く様は驚きの眼差しで見られているが、あまり恐怖は感じていない様だ。
まぁ、これだけ整然と歩く様を見れば、どれだけ従順に歩いているかを理解できるからだろう。
屋敷に着くまでの我慢だと自分に言い聞かせて、私は黙々と歩いた……。
☆ ☆ ☆
屋敷に着き、まずは門番に驚かれる。
まぁ、当然だ。
次に庭師に驚かれた……。
まぁ……当然だ。
……どう考えても、このまま屋敷に入れたら酷い事になるな。
そう悟った私は、庭に移動迷宮を呼んでマスタールームへ一郎達を入れた。
そろそろ食事の時間なので、食事が終わった後にでも皆に紹介しよう。
☆ ☆ ☆
夕食が済み、ミルロード六爵が是非早く見たいと乗り気なので、使用人にもしっかり周知してから屋敷へ五匹とも連れて行った。
六爵は迷宮の方へ出向いても良いと言っていたのだが、私が敢えて屋敷の方を選んだのだ。
何故なら、本当はシェリー達をエルナリアの街へ迷宮経由で連れて行く予定だったのだが、流石に落ち込んで泣き腫らした顔のシェリーを領主に見せる訳にはいかない。
それ故、連れて行くのはこの件が済んでからにした。
そうなると、マスタールームにある扉を見せるのは好ましくない。
まず確実にミルロード六爵は余計な事を聞いてくる。
その為に今日は屋敷の方を選んだのだ。
流石に周知されているので驚く人はいなかったが、やはりこの大きさの魔獣は迫力が半端ではないらしく、怯えが隠し通せていない使用人も居た。
ここは我慢しておいて貰おう。
いずれはここで番犬の代わりに番虎として置いておく可能性も高いので。
因みに、ミルロード六爵は大喜びで一郎に抱きついて家臣達に引き剥がされていた。
そしてその横ではシェリーが次郎とお見合い中。
ピクリとも動かない。
ラナはどうやら皐月に気に入られたらしく、どこに移動してもピッタリとくっつかれていた。
明らかにその表情にはいつものクールさが無い。
どうやら若干苦手な様だ。
だが……敢えて放っておく!
残るルルは、三郎と四郎の間に埋もれながらその毛並みを堪能していた。
その様子を見ていた使用人達には、猫の様な行動を取るこの大きな魔獣に対しての恐怖心が、だんだんと薄れてきた感じが見て取れた。
まぁ、最初としては概ね良好と言えるだろう。
一応は明日の事も確認しておかなくてはならないので、ミルロード六爵に何人分で換算されるかを聞いてみたが、予想としては三人分ではないかという返答だった。
従魔を使用する際にはマスターは必ずメンバーに入る必要がある為、私と後三匹で構成を考えておこう。
因みに、マスターがリタイアした場合は従魔も戦闘から除外されるとの事。
すなわち、開幕から私が集中して狙われる可能性……大。
まぁ、その方が手間としては楽でいいんだけどね!
全部粉砕して差し上げましょう。




