58◆ルークとシェリーの今後についてのお話
私の様子が肯定を表していないと感じたのだろう。
領主が、
「その様子だと……もしかして、諦めては居ないのかね?」
そう聞いて来た。
「はい。まだ二人とも若いですし……お互い初恋同士なのもあるのでしょう。道が残されているのならば、そう簡単に諦めはつきませんね」
「エル殿も道はある……と、考えている様だな。どのような手段かね?」
領主が、私の態度からそう読み取って先を促す。
「領主様の爵位は都合が良い事に六爵です。すなわち、得られる可能性がある七爵の爵位でも結婚は問題視されない。要は、【竜殺し】の実績さえあれば結婚する資格を得られる……そう言う事です」
流石に、【竜殺し】になる等と簡単に言う私の精神を疑いそうになるのは当然だ。
領主の表情にはあからさまに戸惑いと懐疑、期待と切望、そんな変化が入り乱れた。
しかし、そのような態度はほんの数瞬で終わり、
「エル殿は……、本気でそのような事が出来る……とお考えか?」
そう聞いて来た。
その表情は期待……といった感じだろう。
「出来ますね」
私は、そう言い切った。
そして執事の方へ向き、
「先ほど私を《識別》していました様ですが、その時見たレベルを領主様に伝えて頂けますか? それと、覚えているのならば最初にお会いした時のレベルも一緒に」
執事と領主が一瞬だけピクッと反応した。
執事が領主に無言で伺いをたてると、
「さすがはエル殿だ……《識別》をしている事が見破られて居たとはな」
そう言って執事に発言を許した。
「では、現在のエル様のレベルは36です。初めて会った時は18でした」
その言葉に領主だけではなく、師匠も愕然とする。
「まさか……この短期間で、そこまで強くなれるものなのか……?」
「流石エルね。あきれて何も言えないわ」
と両者からの一言。
「私やルークには、相手がスキルを使用した際に名称も含めて感知する能力があります。因みに、最初から手を抜かないで実力を見せたり、隠さずに《アイテム》の事を話したりしたのも《識別》で《女神の祝福》持ちだとバレていたからです」
「成程……もしかして、その成長速度の速さも《女神の祝福》が関係しているのかね?」
「そうですね。私達は勇者様の持つ《聖気吸収》というスキルが無い為に自動的な経験の上昇はありません。ですから、自分で経験を積まなくては強くなれませんが、それでも条件さえ満たせば人より速く成長する事が可能です」
「現在はその条件を満たせていた……と、言う訳か」
「はい、その通りです」
そんな領主との言葉のやり取りを静かに聴いていた師匠から、追加で質問が出る。
「もしかして……その条件って言うのは、スキルの初歩をしっかり学ぶ必要があるとか?」
私が師匠に弟子入りした際の事を考えて導き出した可能性なのだろうが、残念ながら違う。
「いえ、違います。自分より高いスキルを持つ相手が使用するのを見て、上手く習得する事が出来ればそのまま無意識に使いこなせて行きます。ただ、そこには少し問題があり、戦闘技術以外は自分で知識を得る必要があります」
「成程……。それでエルは《自然魔法》があれだけ急に成長したのに、《錬金術》を一生懸命学ぼうとしていた訳ね」
「はい。師匠の教えのお陰で《錬金術》や《付与魔法》をここまで使いこなせるに至っています。この御恩はいつでもお返しするつもりで居ますので、私に出来る事であれば何でもお申し付けください」
そう言って、私は深々と頭を下げた。
「そう言って貰えると私も教えた甲斐があったわ。もし何かあった場合にはよろしくね」
師匠はそう言って、優しく微笑んでくれた。
その後は、まずはルークが爵位を得られる事を前提に、二人をどう扱うかを決める事になった。
領主としては、本人の気持ちを出来るだけ尊重したいとの事。
一応、執事や師匠にも意見を言って貰った結果としては、
「【竜殺し】の英雄を婿様として迎えられるのであれば、当家にとっては間違いなく良いお話となるでしょう」
「ルークはエルと同じ能力を持っているだけに、冒険者としても優秀だったので良いお話だと思います。性格が優しくて誠実なのもお勧めな点ですね」
との事。
「しかし、それも全ては【竜殺し】の称号を得られる事が前提となる。エル殿は可能だと言って居たが、目途は立っているのかね?」
「はい。【竜殺し】の称号を得る為には、絶対に必要なのが信頼できる仲間です。それも実力が伴った仲間。現在、私とルークに加え、旅の途中で仲間になった異世界人と獣人の女の子がメンバーとして居ます。異世界人の能力は現在のルークを上回っており、女の子は今はまだ未熟ではありますが、異世界人のスキルを複製するという特殊スキルを使った事により……間違いなく、すぐに強力な戦力となるでしょう」
因みに、ルーク達は、私と別れた後に面倒な件に関わってしまっていた様だ。
魔王が復活している現状だと不思議ではないのだが、魔族の部下なのか眷属なのかはよくわからない魔獣人と言う奴が現れたらしい。
何とか撃退したが、とても強かったとの事。
魔王自体は勇者と共に復活する事が周期的に決まって居る為、復活して居る事自体に問題は無い。
頑張れ勇者!
私に言えるのは……ただそれだけだ!!
それはともかく、魔王が復活してもこの国にほぼ影響が無い事の方が多い。
魔王は遥か南の海を越えた先から出現し、魔族の本拠地もそこにある。
この大陸は世界の北側にあり、途中に他の大陸もある事から、こちらの大陸は基本的に被害を受けない。
その上、この国は大陸の北側にあり、更にエルナリア領は北の端にある領地なので魔族に襲われる可能性はほぼ無い。
問題は、王都ですらまず見る事が無い魔王の配下に遭遇してしまった事実が……色々と面倒な事と言える。
それなのに更に面倒な事も起きており、レベル30にも達する危険な魔物の巣を発見してしまったらしい。
その数は軽く百単位だったらしいので、よく無事だったと言える。
まぁ、大半は個別に殲滅していたらしいから何とかなったのだろう。
この魔物は大陸に全く居ない事は無いが、王都付近で見られる事はまずないらしい。
私は、その魔獣人と言う奴が持ち込んだと踏んでいるが……実際の所は不明だ。
それらの戦いを経て、恐ろしい事にミラのレベルが27になってしまっているらしい。
ルークは33、ゲルボドは37との事。
レベルを上げる相手に困る状況では無いとはいえ、あまりにも速くて笑ってしまった。
まぁ、本当にレベル上げで困難になるのは40を超えた後、更に50からはもっと厳しい状況になるはずだ。
主にレベルに合った相手を探す事が。
上位竜の討伐には最低でも全員が60は欲しい。
四人で行くとしたら、出来ればそれ以上だ。
さて、話を領主との会話に戻そう。
「今のメンバーだけでも上手く行けば倒せる実力は得られると考えています。ただ、保険の為に臨時で雇う可能性も考慮して、絶対に裏切らせない報酬と魔法具等も用意する予定ではありますが」
そこで、魔法具と言う言葉に師匠が反応した。
「その魔法具って言うのは、どんな物を考えているの?」
「まだ先なのでこれから覚える魔法次第で仕様は変わるでしょうが、極短時間ですが嘘を封じる魔法が《光魔法》に存在して居るらしいので、それを中心に使う予定です」
この魔法の効果はとても短いのだが、私の魔素を供給する事で効果時間を延長し、必要な場面では常時発動として使える。
最初の時点で嘘が無いか確認し、その時に契約させてから嘘を封じる事で問題が無くなるはずだ。
「例の強制帰還の失敗作を使う訳か……いけそうね」
師匠も納得してくれたので領主へと視線を戻すと、
「この件、了解した。シェリーとルーク殿の事は出来る限りの期間を確保する事にしよう。まずは学校に居る三年間は問題は無い。その後はどうしても婿へと言う話が来るであろうが……二年間、何とかしよう」
OK。
五年もあればどうにでもなる。
因みに追加が二年なのは、シェリーの結婚適齢期の問題でそこまでが限度との事だ。
無事ルーク達の話がまとまったので、さりげなく言い忘れていた事を言う。
「そういえばルークから先日追加で情報がありまして、迷宮の主を雇った犯人は例のヴァルツァー五爵だと確認が取れたらしいです」
その言葉に……唖然とした顔が並んでいました……。
いや~、順番に話しをしていたから……本気で忘れてました!!




