57◆ようやくエルナリアへ……師匠や領主との再会
ようやくジムルの家に着いた。
家の様子はほとんど変わった様な感じは無いので問題は無いだろう。
ここでまずやる事は第二迷宮の破棄だ。
遠隔地でも可能なのだが、距離に応じてMPの消費が上がるらしいので移動迷宮経由で第二迷宮へ行き、破棄を実行して帰ってきた。
破棄にかかる時間は五分程度。
実際には私の手から離れるだけで、即崩壊する訳では無い様だ。
入口自体はこの世界から切り離されて閉じてしまう為、迷宮としては機能しない。
隔離された迷宮として存在し、魔法物質が足りなくなる為に本来塞いである魔素の海側から小さな穴を開けた状態で魔法物質を供給するとされている。
この様な迷宮は偶にこちらの世界に穴を開けて繋がり、しばらくすると消える為に、【彷徨う迷宮】と呼ばれているらしい。
迷宮が破棄できた事を確認し、ジムルの家の裏に迷宮を作った。
簡易的な鉄製の蓋型魔法具を作って、取り敢えずは他人が入れないようにする。
まぁ、誰もここには来ないと思うんだけど一応だ。
作成に必要なMPは供給したので後は出来るのを待つだけなのだが、大体一時間程度で初期段階は完成するのでそれまで他の事をする。
まずはジムルが欲しいと言っていた物ですぐに作れる物を作ってしまう。
素材の点や私の手に余る物は、エルナリアの街へ行ってから師匠に手伝って貰う予定だ。
ジムルやロウと一緒に制作していき、大体終わった段階で迷宮も初期段階は出来ていた。
まだまだ迷宮とは呼べず、入口周辺だけが存在しているだけだが、私の目的にはこれで十分だ。
私は迷宮に入ってすぐに魔素を大量に放出しておく。
因みに、第二迷宮も魔素をばら撒いたらすぐに一日程度で三層まで出来ており、熟練度も結構上がって居た。
この迷宮も破棄する可能性はあるが、育てておいた方が良い事は間違い無いので早速と言う訳だ。
後は、陽が暮れる前にやっておきたい事が一つ。
前にネイアから聞いた事があったのだが、家の近くに不思議な岩があるとの事なのだ。
その岩は夜になってもわずかに光を発し、時々神々しい光を放つらしい。
ある程度は予想がつくが、一応確認しておいた方が良いだろう。
☆ ☆ ☆
場所に関しては、ジムルも知って居るらしいので案内を頼んだ。
当然ネイアでも良いのだが、クーと一緒に昼寝して居たので放って置いた。
岩までは、普通に歩いて二十分程度だった。
確かにわずかに光っている。
岩自体には、特に何かがある訳では無い様だ。
そして、私にはこれが何であるか理解出来た。
簡単に言えば【聖気吸収岩】とでも言えばいいのかな?
盗賊団が根城にしていた建物。
あれも実は女神関連の建物だった。
聖気が大量に集積しているのが私には理解出来たからだ。
……間違い無く、勇者に改造された影響だろう。
ここで集積された聖気は大地の中を経由してあの建物に送られている様だ。
まぁ、ここにはそれ以外には何も無さそうだから問題は無いかな。
予想では森の中にはこれ以外にも同じ岩が沢山あるはずだが、おそらくどこも同じだろう。
そう言えば、あの建物は勇者には必要なはずだから今度会ったら一応教えておこうかな。
☆ ☆ ☆
翌日から私は移動を再開した。
いや~、予想よりも大分寄り道をしてしまった。
後で知って、後味の悪い思いをするよりはマシだったので良しとしよう。
被害はあったが、甚大とまでは行かない段階で食い止められたし。
さて、その後の移動は余裕だった。
基本的に私に危害を加えられる魔物など生息して居ないのだ。
夜は迷宮で休む訳だし、何事も無く進む事が出来た。
一つだけ気がかりな事は……私が何故か早起きが出来る様になった事だ!
キッカリ六時間で起きれてしまう様になったのだ。
オカシイ……おかしすぎる……。
生まれ変わっても治らなかったお寝坊さんが……何故今頃……?
考えられる可能性は一つあるのだが……。
もう少し様子を見てから結論を出そう……。
移動を始めてからは、寝る時は新たに作り直した迷宮で寝ている。
寝ながら魔素を放出して居ると、すぐに階層が増えて行った。
熟練度も上がって、40になった段階で有効な機能が増えて居た。
固定迷宮のマスター扉が二箇所に設置可能になって居たのだ。
これは嬉しい追加だった。
そして、これを切っ掛けに思いついたことが一つ。
設置型の扉は再設置可能なのか?
結果、可能でした。
可能は可能なのだが、その消費MPは結構な物だった。
迷宮自体を作る時の半分位のMPが必要なのだ。
確かにこれは再設置する事で移動迷宮の簡易扉と同じ使い方は普通出来ないな……普通は!
そう!
私には可能なMPだ!!
これは色々設置方法の幅が広がるね!!!
良く考えておこう。
☆ ☆ ☆
ついに……ついに私は帰って来た!!!
と、言う程の感動は無いが、無事エルナリアの街へ帰ってきました。
早速師匠宅へ移動。
予想通り無人でした。
次に可能性が高い領主邸へ行く。
門番をしている衛兵は以前から何度も顔を合わせた事がある人だったので、
「お久しぶりです。お嬢様の護衛を終えて戻って来ましたので、領主様にお会いしたいのですが」
と言うと、
「おお! 無事戻って来れたのだね。チョット待っていてくれ」
そう言って、屋敷の方へ使いを出してくれた。
少しだけそのまま立ち話をしていると、すぐに領主といつも居る《識別》が使える執事がやって来た。
「エル様、よくぞご無事で。領主様がすぐにお会いになるそうですのでこちらへ」
そう言ってすぐに屋敷へ入り、前にも来た応接間へ通された。
そこには既に師匠が待っており、
「エル、お帰りなさい。護衛は順調に終わったのですね?」
そう聞いてきた。
「はい。問題は沢山有りましたが何とか完了しました」
そう言った時に奥の扉が開き、領主が姿を現す。
「エル殿。無事で何よりだ。その様子なら問題無く終わったようだな」
「問題は有りますが、お嬢様は無事王都へ辿り着きました。現在はミルロード卿の屋敷でお世話になって居ます」
「ミルロード卿が気を使ってくれた様だな。有り難い事だ」
そう言って眼を細めながら微笑んだ。
「して、問題とはどんなことかな?」
そこで私は、移動の際に起きた事を順に話していった。
☆ ☆ ☆
迷宮の話しも込みで全て話し終えると、流石に領主もかなり渋い顔をしていた。
「よく、その様な迷宮を攻略出来たものだな……」
「私やルークは勿論ですが、途中で仲間になった異世界人の力が無ければやられて居たのはこちらでしょう。本当に運が良かったのだと思います」
「そのゲルボドと言う方にもいずれは御礼を言いたいのだが、まずはエル殿に……本当にお世話になった、有り難う」
そう言って頭を下げた。
「いえ、頭を上げて下さい。私は当然の事をしただけですから……それに、話はこの後も少し続きまして……」
私の歯切れの良くない言葉に、余り良くない知らせかと少し怪訝な顔で領主がこちらを見て居るので、
「実はですね……これだけの試練とも言える状況を救ってくれた事は、お嬢様にとって相当大きな事だったのでしょう。結果、ルークに対して特別な想いを抱くに至りまして……」
「そう言う事か……。まぁ、元々シェリーはルーク殿に大きな関心を持っておったしな。仕方が無いことであろう……」
領主は、流石に少し困った顔をする。
そこへ師匠が、
「そうなると、当の二人はどういう状況なの? その感じだと駆け落ちしたとかではないんでしょう?」
と言ってきた。
「はい。ラナが最初からそれを気にしてルークに冷たく当たって居ましたが、二人ともそういった行動で他人に迷惑が掛かる事をするつもりはないようです」
その言葉に、領主が安堵する様子を隠さずに見せた。
「二人には悪いが、立場の違いがある……。諦めてくれるのならば……それに越した事は無い」
師匠や執事も頷いているが、……それは違います!
さて、ルークの為にも【竜殺し】になる為の期間を、出来るだけ長く交渉してあげましょう!!
最低で三年、出来ればそれ以上だ。




